沖縄県浦添市にある社会医療法人 仁愛会 浦添総合病院(以下、浦添総合病院)は、2026年に開院45周年を迎え、半世紀近く地域医療の中心的な役割を担ってきました。
2023年に最新の医療機器を備えた新病院へと移転し、デジタル技術を活用した先進的な取り組みを推進する同院の特長について、病院長の伊志嶺 朝成先生にお話を伺いました。
当院は、1981年に沖縄浦添病院として開院し、これまで40年以上にわたって地域医療を支えてきました。2023年には浦添市前田へ新病院として移転し、県内で2番目に認定を受けた地域救命救急センターをはじめ、地域災害拠点病院、へき地医療拠点病院や地域医療支援病院などの指定を受け、地域を支える中核的な病院として幅広い診療に努めています。
新病院では、より円滑な医療活動を行えるようにスマートベッドシステムなど最新式の設備を導入し、快適な療養環境を整えています。また、高台に建設した病棟は津波の影響を受けにくく、災害拠点病院としての役割も担っています。また、昨今のコロナ禍においては、2021年に新型コロナウイルス感染症重点医療機関の指定を受け、積極的にECMO(人工肺とポンプを用いた体外循環回路)患者をはじめ、重症患者を受け入れました。
当院は、沖縄県で3施設ある救命救急センターの一角を担っており、三次救命救急センターとして24時間365日の救急医療に努めています(2024年時点)。
同センターは、浦添市を中心に宜野湾市や那覇市における重要拠点であるとともに、沖縄県ドクターヘリ基地病院として県内全域から心筋梗塞や脳梗塞、外傷などの重症患者を受け入れています。新病院で屋上にヘリポートを設置したことで、搬送された患者さんは専用エレベーターでER、カテーテル室、手術室と速やかに収容され、現場で開始された治療を引継ぎ、速やかに決定的治療が開始されます。
また、救命率の向上を目指して応急処置などの病院前救急医療活動を強化しているほか、近隣の学校施設に心臓マッサージの模型を配布するなど、救急医療の啓発にも取り組んでいます。
そのほか当院では、外傷を負った重症患者に迅速に対応するため“トラウマコール”という体制を採用しています。これにより、救急医をはじめ外科医、整形外科医、検査部などに一斉コールを鳴らし、患者さんを搬入してすぐに輸血や治療をスタートできるようになりました。
当院はがん診療に力を入れており、層の厚い医療体制を整えています。
たとえば肝胆膵の分野では、指導医である私のほかに2名の専門医(肝胆膵外科学会認定:肝胆膵外科高度技能指導医・専門医)が在籍しています。当院は、難易度の高い肝胆膵の悪性腫瘍に対応しており、沖縄県では稀少な研修施設(県内に2施設のみ)にも指定されています。
また、県内に8名いる大腸外科専門医(大腸肛門病学会認定)のうち5名が当院に在籍しており、結腸・直腸・肛門の早期癌から進行癌・再発癌まで幅広く対応することができます(2024年11月時点)。
抗がん剤治療では、神経内分泌腫瘍(NET)に対する新薬(ペプチド受容体放射性核種療法剤:ルテチウムオキソドトレオチド177 Lu)を活用し、先進的な核医学治療に取り組んでいます。新薬の投与においては、患者さんの排泄時に放射線元素が放出されるため、厳格な安全管理が必要となります。当院は、以前からこの治療法を導入する計画を進めていましたので、新病院を建設する際に専用の部屋を設置し、安全な環境を整えて治療を行っています。
また、当院は放射線治療施設を備えていませんが、先進医療である重粒子線治療も含め、適切な手術ができる外部の医療機関と連携しており、さまざまな治療に対応できるよう体制を整えています。
近年、沖縄県では中高年の心筋梗塞や脳梗塞の発症率が非常に高くなっています。そのため当院の循環器内科は、これらの疾患を引き起こす不整脈の早期発見を目指し、2022年からオンライン完結型の不整脈外来(アップルウォッチ外来)をスタートしました。
これにより、地域の皆さんが動悸や脈の乱れを感じた際、ご自身のApple Watchやレンタルの携帯心電計などで計測した心電図データを元に、オンライン上で受診を完結できるようになりました。
また同科では、心房細動の治療において“WATCHMAN FLX(ウォッチマン フレックス)”を2023年に県内で初めて導入し、心原性脳塞栓症予防のカテーテル治療を始めました。心房細動の患者さんの中でも、特に抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)の継続的な服用が難しい方々を対象に、2024年までに10件の治療を行っています。
そのほか循環器内科では、高度医療に関するワークショップのライブ配信を行い、医療の発展に貢献しています。今後も離島ならではの取り組みなどを積極的に発信していきたいと考えています。
当院の整形外科は、人工関節手術支援ロボット“ROSA Knee(ロザ・ニー)”システムを2023年に県内でいち早く導入し、2024年時点で50症例の手術を実施しました。人工膝関節置換術における骨切りやインプラントの設置をロボットがアシストすることで、合併症のリスクを抑えた低侵襲(体への負担が少ない)な手術を行っています。
また、従来はそれぞれの医師の技術力に頼っていましたが、ロボット支援手術によって常に一定の技術水準をクリアできるようになり、精度の高い骨切りを実現できるようになりました。それにより患者さんの歩行や膝の曲げ伸ばしなど、日常生活動作のよりよい改善を期待しています。
当院は、地域のギター同好会を招いて演奏会を開催するなど、積極的な地域交流に努めています。2024年には新たな取り組みとして、沖縄県内の高校生を対象に、医療専門職の仕事を紹介するオープンホスピタルを開催しました。
高校生を対象にしたオープンホスピタルは当院で初めての試みですが、100人以上の高校生が来場するほどの大盛況となりました。
このイベントの目的は医療職に就くきっかけを提供することですが、自分たちの仕事を高校生に紹介し体験してもらうことは職員のモチベーション向上にもつながりました。
年々医療技術が進化しているおかげで、ようやく沖縄県内で医療を完結できるようになりつつあります。盤石な医療体制を築くため、当院は地域医療の拠点病院として、ますます病病連携や病診連携を強化していく方針です。
スムーズな連携を実現するため“医療相談・医療連携支援室 かけはし(患者総合支援センター)”を開設しており、医療相談から退院後の調整など病院の内と外をスムーズにつなげるよう努めています。
専門分野については、症例数の多い心血管疾患、脳血管疾患の拡充を行い、手術件数の多い整形外科領域、肝胆膵・消化管疾患の領域を中心に、腎泌尿器外科領域、胸部呼吸器外科領域の医療体制を拡充させていきたいと考えています。
一方で、患者さんの立場に立った医療体制の改革も並行して進めています。2024年には、外来予約などの電話の待ち時間を短縮するため、AI電話(ボイスボット)の運用を開始しました。また、新病院に導入したスマートベッドシステムによって看護師の負担を減らしたように、職員が無理なく生き生きと働ける環境づくりに励み、質の高い医療を提供し続けます。
このように当院は“患者さんのため、地域のため、職員のため”をモットーに、バランスのとれた病院経営に努めています。これからも地域医療を支え、地域の皆さんに「信頼され愛される病院」「選ばれる病院」を目指して、全力で医療活動に取り組んで参ります。
*医師数や診療科、提供している医療の内容等についての情報は全て2024年11月時点のものです。