静岡県浜松市にある遠州病院は、急性期病棟と回復期リハビリテーション病棟を持つケアミックス型の病院です。訪問リハビリステーションを開設し、急性期から回復期、在宅医療まで一貫した医療を展開する同院の地域での役割や今後について、病院長である大石 強先生に伺いました。
遠州病院は、JA静岡厚生連を母体とする4つの病院のうちの1つです。JR浜松駅から徒歩15分と交通の便もよく、近隣の方々からは"浜松駅からもっとも近い総合病院"として親しまれています。
当院は1938年に保証責任医療利用組合連合会 遠州病院として誕生しました。運営組織の改編により、1944年には静岡県農業会 遠州病院となり、病院付属の看護婦養成所を開設するなど発展してきましたが、1945年の浜松市空襲で全建物が焼失。それでも診療を続けるべく、浜村沼の太田病院を借り受けて北浜分院を開設しました。
第二次世界大戦の終戦翌年となる1946年には、病床数40床の新病院を建築して再スタートを切りました。そこから地域の皆さんの期待に応えるべく増築・改修を繰り返し、1997年には一般病床466床まで拡充しましたが、建物の老朽化はいかんともしがたく、新築移転計画が持ち上がったのです。
その後2007年に、元の場所から400mほど北にあたる現在地に新病院が完成しました。病床数は一般病床340床と削減したものの、新たに回復期リハビリテーション病床60床を設け、急性期から回復期・慢性期まで一貫して診られるケアミックス型の病院となりました。同時に名称も現在のJA静岡厚生連 遠州病院と改めました。
当院が位置する浜松市も、全国と同様に高齢化が進んでいます。時代の流れに伴って変化する地域のニーズに対応するため、2010年には訪問リハビリステーションを開設しました。今後も"心と心がふれあう医療"を理念に掲げ、患者さんとご家族が安心して受診できる病院であり続けます。
浜松市では、7つの総合病院が輪番制で二次救急に対応する"浜松方式"が運用されています。当院も以前から輪番に参加していましたが、さらなる救急医療の充実を図るため、2018年7月に救急科を立ち上げました。
ICU4床、初期治療病棟16床を備え、重症患者さんを24時間365日受け入れ可能な体制を整え、肺炎・心不全・敗血症などの内科的疾患や、交通事故等に伴う外傷、心筋梗塞などさまざまな症例に対応しています。
年間の救急車受け入れ件数は約4,000件で、断らない救急医療を心がけています。長年にわたり県の救急医療に尽力したとして、2023年には静岡県より“救急医療功労者知事表彰”を受けました。
当院の産婦人科では、2021年に思春期外来を開設しました。小学生から高校生を対象に、女性ヘルスケア専門医(日本女性医学学会認定)の資格を持つ女性医師が診察を行っています。月経痛や月経不順といった月経に関する悩み、思春期特有の心身症など、お気軽にご相談ください。思春期外来では、2022年4月より積極的勧奨が再開された子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)の接種も取り扱っています。小学6年生から高校1年生の女子は無料で接種できます。
そのほかにも力を入れているのが、母乳外来、産後ケア入院です。心安らかに出産・育児に取り組めるよう、妊婦さんそれぞれのニーズに寄り添った医療サービスの提供に努めています。
腎臓内科の血液浄化センターでは、血液透析だけでなく腹膜透析にも対応しています。血液透析は、血液をいったん体外に出して特殊なフィルターを通すことで血液中の老廃物を除去する方法です。一方、腹膜透析は透析液を体内に注入し、腹膜をフィルターとして使うことで血液中の老廃物を除去する方法です。
腹膜透析は自宅や職場でも可能なため、血液透析より通院頻度を減らすことが可能です。また、毎日実施できるため体への負担が少なく、残された腎臓の機能を維持しやすいというメリットがあります。災害などで医療サービスが受けられなくなった際にも、体調の変化を起こしにくいといえるでしょう。
浜松市西部地区では現在、腹膜透析ができる医療機関は数少ない状況です(2024年時点)。しかし、今後も腹膜透析の需要は増えると考えられるので、当院ではしっかりと体制を整えて対応してまいります。
外科では内科の各専門分野、放射線科、病理科など他科と連携し、効率的な診療体制で精度の高い手術を行っています。年間400例前後の手術のうち90%近くが、従来の外科手術より傷口が小さく回復の早い腹腔鏡下手術となっています。
また、消化器系のがんをはじめ、下肢静脈瘤血管内手術や甲状腺・副甲状腺手術にも力を入れて取り組んでいます。
消化器内科には、消化器病学会、消化器内視鏡学会、肝臓学会の各専門医が在籍しています。早期がんの発見・切除に力を入れており、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を導入しています。ESDは消化器にできたがんなどの病変を、胃カメラや大腸カメラで切除する治療法です。胃、食道、大腸で保険適用が認められており、現在では標準的な治療法となっています。
当院の耳鼻咽喉科では手術にも対応しており、中耳炎に対する鼓室形成術や鼓膜チューブ挿入術、内視鏡下副鼻腔手術、アデノイド切除術、声帯ポリープ手術などを行っています。また、睡眠時無呼吸症候群の原因となる扁桃肥大には、扁桃摘出術を行っています。
近年注目され、潜在的な患者が多いといわれている睡眠時無呼吸症候群に対しては、週1回の専門外来を設置しています。2019年には精密検査機器を刷新したことで、診断のために体に装着するパーツも小型化され、装着したままベッドから移動できるようになりました。気になることがあれば、ぜひご相談ください。
リハビリテーション科には、リハビリテーション科専門医(日本リハビリテーション医学会認定)をはじめ、理学療法士や作業療法士が在籍しています。疾病、外傷、老化などに伴うさまざまな障害に対応するため、運動器リハビリテーションや呼吸器リハビリテーションなど幅広い治療を行っています。
当院のリハビリテーション施設は420平方メートルと、ゆとりのある設計になっています。屋外庭園には坂道や砂利道、飛び石があり、屋外でも歩行練習ができるようになっています。
また、当院には訪問リハビリステーションもあるため、自宅に戻ってからも日常生活能力の維持向上が図れるようになっています。
近年では発達障害や不登校の子どもが増えているといわれています。その分野の研究が進んだこと、世間の認知度が高まったこと、膨大な情報にあふれた社会環境など、さまざまな理由が考えられますが、子どもの心理面・発達面でのトラブルは早期発見に越したことはありません。
当院の小児科では心理外来を設置し、発達障害や心身症、不登校などのお子さんのサポートを臨床心理士が行っています。またお子さん自身だけではなく、お子さんに対するご両親のお悩み相談にも対応しています。
当院では、正確な医療情報を地域の皆さんに知ってもらえるよう、2か月ごとに市民公開講座を開催しています。講師は当院の各診療科の医師で、膝の痛みや頻尿といった身近な話題を取り上げて講演を行っています。当院の診療体制を知ってもらえるだけでなく、疾病の予防にもつながる内容なので、地域の健康を支えるためにも重要な取り組みだと考えています。
また年に一度、専門的な内容となる学術講演会も開催しています。近隣の開業医の先生が主な対象ですが、地域の皆さんも無料で聴講いただけます。近隣病院との連携は、患者さんの早期治療や日常生活への復帰といった面でも非常に重要です。学術講演会は、病診連携を深めるうえでも役立っています。
当院のある静岡県は、南海トラフ巨大地震が発生した際に甚大な被害の懸念がある地域として知られています。もちろん当院も、いざ災害が起こった際に滞りなく医療提供できるよう努めています。
毎年秋には広域災害訓練を実施しており、周辺エリアの自治会や消防署の協力のもと、負傷者が多数発生したという想定で医療救護訓練を行っています。この様子は地域の方々にも見学していただけるようになっており、災害に対する当院の体制を知っていただくことで、少しでも安心してもらえるのではないでしょうか。
災害訓練時には、自動体外式除細動器(AED)の使い方の講習会なども行っています。地域の避難訓練などに当院のスタッフが参加し、AEDの使い方やけがの救護の仕方などの講習会を開くこともあります。このように日ごろからの取り組みを通して地域の方々がいざというときでも落ち着いて行動できるよう、全力でサポートしてまいります。
私が病院長に就任して、今年(2024年)で5年目となりました。5年間の経験を通して思うのは、2024年6月にすい臓がんで逝去された前院長の水上 泰延先生の偉大さです。
水上先生は遠州病院に44年間勤務し、うち14年間は病院長を務められました。病院長時代には新病院への移転、回復期病床の導入、救急科やICUの新設、広域災害訓練の実施など、今後の社会情勢の変化までも見据えたさまざまな改革を行ってきました。また、ご自身で産業医や高齢者医療医(日本老年医学会認定)、救急科専門医(日本救急医学会認定)など、専門分野以外の資格を取得して病院の発展に寄与してきたことは、本当に頭が下がる思いです。
水上先生がご自身の生き方を通して教えてくださった“地域医療のために誠心誠意尽くす”という思いを受け継ぎ、これからも地域の方々が困ったときに、すぐに頼っていただける存在でいられるよう努めていく所存です。そのためにも、地域の方々からいっそう信頼される病院となるべく、スタッフが一丸となって医療サービスの向上に邁進していきます。
*病床数、診療科、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年11月時点のものです。