口腔癌とは、舌癌など口の中にできる6部位のがんのことを言います。この口腔癌が他のがんと決定的に違うところは「外から見える」ということです。たとえば、胃癌や肺癌であれば手術をしたとしても、その後外から見えるのは術後のキズだけです。実際に取った胃や肺が外から見えるわけではありません。ところが、口腔癌の場合には癌をとって、治療がうまくいったとしても「審美障害」が残ります。そのため、口腔癌はなんとかして切らずに治療をすることが求められてきました。
口腔癌領域の第一人者である横浜市立大学口腔外科学教授 藤内祝先生は、切らずに治すための挑戦を続けておられます。口腔癌の基礎知識や「切らずに治す」治療についてお話をお伺いしました。
まず、口腔癌の分類と部位について説明します。口腔癌は舌癌、下顎歯肉癌、上顎歯肉癌、口腔底癌(口底癌)、頬粘膜癌、硬口蓋癌の6部位の癌のことを言います。
次に、口腔癌の疫学についてです。口腔癌は、日本では全体の癌の1~2%と他の癌と比較すると少ないです。しかし、インド〜東南アジアでは発生率が非常に高いことが知られています。これらは噛みタバコが原因とされています。
口腔癌は外から見えることが胃癌、肺癌など多領域の癌との最大の違いです。これがとても重要です。つまり、手術を行い、それが成功したとしても口腔顎顔面領域において機能障害や審美障害が残ってしまうことがあります。これが他領域の癌との決定的な違いなのです。
このように、手術後に審美障害が残ってしまう口腔癌は、たとえ手術で治療をすることができたとしても、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼします。
そのため、口腔癌は「切らずに治す」ことが求められ、それを実現するための工夫がなされてきました。そのひとつの方法が「超選択的動注化学放射線療法」です。超選択的動注化学放射線療法を実現するために大切な治療法が動注療法(横浜市立大学で行われている治療法は逆行性超選択的動注法)です。
動注療法の変遷についてお話します。癌治療で動脈を使用した動注療法は口腔癌をはじめとする頭頸部癌から始まりました。非常に古い歴史を持ちます。現在では頭頸部癌の他に肝臓癌に対する肝動注も広く行われています。
1、従来法は腫瘍栄養動脈にカテーテルを入れるのではなく、外頸動脈にカテーテルを入れているだけでした。抗がん剤の濃度も低く不安定でした。
2、Seldinger法は一般的な超選択的動注法ですが、カテーテルが心臓、総頚動脈を経由していますので長期留置はできず一発の抗がん剤投与しかできませんでした。またこの方法は総頚動脈を通っていますので、脳梗塞の有害事象もありました。
3、「逆行性超選択的動注法」(HFT法)は1、2の欠点をなくしたもので、末梢動脈(浅側頭動脈や後頭動脈)から腫瘍栄養動脈(舌動脈など)に挿入しているため連日の動脈投与が可能で、かつ総頚動脈を通っていないので安全に行うことができます。
以下が、逆行性超選択的動注法(HFT法)の詳細です。
従来の標準治療である手術の後には構音障害、嚥下障害、咀嚼障害、開口障害などの機能障害があり、また顔貌の変形もあり、整容障害(審美障害)が大きく生じてしまうことが問題でした。これこそが、他領域の癌との決定的な違いなのです。ここからは「切らない治療」である超選択的動注化学放射線療法を紹介します。以下のように大きな癌は複数の腫瘍栄養動脈があります。それに対して、複数の腫瘍栄養動脈に複数本のカテーテルを挿入することにより治療をすることができます。
これは、口腔外にも浸潤している上顎歯肉癌の進展症例です。この患者さんは手術をせずに、超選択的動注化学放射線療法だけを行いました。現在、治療から6年経過しますが、まったく通常通りの生活を送っています。従来の手術ではたとえ手術が成功してもQOLは著しく低くなってしまい、かつ整容障害(審美障害)も極めて大きなものでメンタル面におけるQOLも低くなってしまう可能性がありました。「切らずに治す」ことによりこれらを大きく改善することができました。
このように、口腔癌の治療は進歩を続けています。それと同時に早期発見がとても大切です。神奈川県歯科医師会では「口腔癌検診」を実施しております。その他の自治体でも早期発見のための試みが開始しつつあります。
※本記事の画像はすべて横浜市立大学口腔外科学教授 藤内祝先生にご提供いただいております
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