日本医科大学付属病院リウマチ・膠原病内科部長であり、同大学院医学研究科 アレルギー膠原病内科学分野教授の桑名正隆先生は、全身性強皮症(以下、強皮症)を早期に診断し、適切な治療を開始するためには、正しい情報の提供が重要であるとおっしゃっています。日頃から心がけておられる情報発信の取り組み、そして患者さんや一般生活者の方々へのメッセージをお聞かせいただきました。
私たちは日頃から日本リウマチ学会など、さまざまな枠組みで情報提供を行っています。日本医科大学付属病院では関連病院も含めて、レイノー現象をもつ患者さんをみたらまず専門施設である当院に紹介していただく取り組みをしています。その結果、かなり多くの先生方が強皮症の早期診断の重要性を認識していただけるようになっています。
しかし、何といっても強皮症は希少疾患です。診療では経験の蓄積が重要で、何例も症例を経験していく中で診療のスキルが上がるのですが、希少疾患ゆえにそれが難しいという側面もあります。その点は根気強く情報提供を続けていくしかないと考えています。
たとえば、がんは手遅れになると命に関わる病気であるということは誰もが知っています。だからこそ定期検診を受け、あるいは疑わしい症状があれば多くの方が医療機関を受診しています。それは社会的に皆さんのコンセンサス(合意)になってきているからです。
がんに限らず、他のさまざまな病気においても本来はそうあるべきです。ただし、情報の伝え方には難しい部分もありますので、いたずらに患者さんの不安をあおるのではなく、正しい情報を的確に発信することが重要です。患者さんに対してだけではなく、最前線で医療に携わる医師、看護師をはじめとする医療スタッフなど、あらゆる方々へ伝えていくことが必要だと考えます。
今回、さまざまな角度からお話をさせていただきましたが、やはり一番大切なことは正しい情報提供であり、それを患者さんが理解することであると考えています。たとえば【強皮症=難治性の病気、命に関わる】というようにひとつひとつの単語だけを並べてしまうと、非常に誤った情報になってしまいます。
患者さんにとって、ある病名がつくことは「あり/なし」でとらえられがちです。がんの場合もそうです。「がんと診断される/されない」。同じように「強皮症と診断される/されない」という見方をされてしまいます。
しかし、強皮症と診断されてもその中には非常に軽症の方、明確な内臓の障害が一生涯にわたって起こらない方もいれば、短期間のうちに内臓障害が進行する方もいます。重要なのは病気の多様性を理解して、ご自分がどのくらいの重症度なのか、あるいは発症からどのくらいの時間的経過にいるのかを知ることです。
強皮症は患者さんの自己管理、禁煙や保温などによってある程度症状を和らげることができる病気です。そこに薬物療法を含めた治療全般を組み合わせて、最大限の効果を発揮することが私たちの目指すゴールです。その目的を共有する患者さんと医療機関の連携が構築でき、さらに現在治験中の新しい治療薬が将来使用できるようになれば、強皮症の診療は今後数年のうちに大きく進歩する可能性を秘めています。
強皮症と診断されない、「強皮症の早期」や「強皮症の疑い」の患者さんは、強皮症と診断されている患者さんの何倍もいるはずです。そういった患者さんの中には、やはり経過をみていると強皮症になる方もいます。そこまで裾野を広げていくと、患者さんの数としては現状よりかなり増えるのではないかと考えられます。
現在、わが国の強皮症患者数は3万人程度とされていますが、早期もしくは疑いを含めるとその数は数倍、おそらく10万人程度に増えると推定されます。希少疾患だから自分たちが関わることがない病気だと考えるのではなく、より多くの方に関心を持っていただきたいと思います。
日本医科大学 大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授 、日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長、強皮症・筋炎先進医療センター センター長
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