インタビュー

甲状腺機能低下症の早期発見のために――漠然とした体の不調はサインである可能性も

甲状腺機能低下症の早期発見のために――漠然とした体の不調はサインである可能性も
伊藤 光泰 先生

医療法人誠厚会 名駅前診療所保健医療センター センター長

伊藤 光泰 先生

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甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが十分にはたらかなくなることで、さまざまな不調をきたす病気です。多様な症状が現れ、ほかの病気と間違われることもあります。治療せずにいると重症化する可能性があるため、早期発見・早期治療が大切です。甲状腺機能低下症を発見するためには、どのようなことに気をつける必要があるのでしょうか。

今回は、医療法人誠厚会 名駅前診療所保健医療センター センター長の伊藤 光泰(いとう みつやす)先生に、甲状腺機能低下症の特徴、早期発見のためのポイントなどについてお話を伺いました。

甲状腺は首の前のほうにある臓器で、甲状腺ホルモンを作るはたらきがあります。甲状腺ホルモンは新陳代謝を促し、自律神経である交感神経のはたらきを強めたり、成長期の神経細胞や骨の発達に関わったりする重要なホルモンです。

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イラスト:PIXTA

甲状腺の病気は主に、以下の3種類に分けられます。

  • 甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気
  • 甲状腺ホルモンが作られなくなる病気
  • 甲状腺にしこりができる病気

このうち甲状腺機能低下症は“甲状腺ホルモンが作られなくなる病気”などによって起こります。原因として、もっとも多いものは橋本病慢性甲状腺炎)です。橋本病は自己免疫疾患の1つで、本来は細菌やウイルスなどを攻撃する免疫に異常が起こり、誤って自分自身の甲状腺の細胞を攻撃するようになることで甲状腺のはたらきが低下する病気です。

また、甲状腺のはたらきを邪魔するような薬を飲んでいる、甲状腺ホルモンの分泌を調節するホルモンに異常が生じている、甲状腺がんなどで甲状腺を取り除いてしまいホルモンを分泌できなくなるなどといった原因で起こることもあります。

このような後天性の機能低下のほかにも、生まれつき甲状腺の機能が低下している先天性の場合もあります。先天性の患者さんについては、新生児マススクリーニング*で発見されて、すぐに治療が開始されるケースがほとんどです。

*新生児マススクリーニング:先天性の病気を見つけるために、赤ちゃんに対して行う検査。生後すぐに診断して治療を始めることで、病気による症状の出現や進行を予防する目的で行われる。

甲状腺機能低下症の患者さんは女性に多く、年齢とともに患者さんが増えていく傾向があります。人口の1〜2%は甲状腺機能低下症の患者さんであるという報告もあり、比較的よくある病気といえるでしょう。中には、発症していても発見されないまま経過している方もいることが考えられます。

甲状腺機能低下症の症状は、漠然としたものが多く挙げられます。体の中で熱が作られなくなって寒がりになったり、交感神経のはたらきが抑えられて心臓の動きが悪くなったりします。脳のはたらきにも影響するので、認知機能が低下することもあるでしょう。

血液検査ではコレステロールの値が増えるので、脂質異常症と間違われることも少なくありません。女性の場合は、更年期障害によるものと誤解されたり、月経不順などが起こったりすることもあります。

甲状腺機能低下症は、ほかの原因でも起こり得る症状がゆっくりと現れることが多いため、見つかりにくい病気です。しかし、治療せずに放置していると最悪は昏睡(こんすい)状態に陥ったり、心不全になったりする危険性があるので注意が必要です。また、全身のむくみがでたり皮膚が乾燥して白っぽくなったりといった症状が出ることもあります。

甲状腺機能低下症が発見されるタイミングとして多いのは、健康診断人間ドックだと思います。とくに橋本病を原因とする場合、健診で異常が見つかって受診されたことをきっかけに発見される方が多くいらっしゃいます。コレステロールの値や心電図の異常などで見つかることが多いようです。また、皮膚の乾燥抜け毛で皮膚科を受診したとき、女性であれば月経不順などで婦人科を受診したときに発見されることもあるでしょう。

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早期発見のために、健康診断で要再検査・精密検査の結果が出た場合には、病院を受診することが大切です。甲状腺が腫れている、脈拍やコレステロール値に異常があるなどの指摘があった場合には、甲状腺の病気が隠れている可能性があります。

健康診断でこうした指摘がされていなくても、月経不順や不妊などがある女性は一度婦人科を受診したほうがよいでしょう。また、甲状腺機能低下症になると代謝や食欲が落ちてきます。食欲がないのに体重が増えるような場合は、受診することをおすすめします。そのほか脱毛や更年期障害のような症状、体のだるさや疲れやすさ、やる気の低下などがある場合は、医療機関で調べてもらうとよいでしょう。

受診する診療科は内科でも問題ありませんが、内分泌内科であればより詳しい検査を受けることができると思います。日本甲状腺学会認定の甲状腺専門医(以下、甲状腺専門医)が在籍している医療機関については、日本甲状腺学会のホームページで調べることが可能です。もしも近くに甲状腺専門医がいる医療機関があれば、受診することでより詳しい検査を受けられるでしょう。甲状腺機能低下症は基本的に、症状の確認とともに血液検査によって診断することができます。怖がらずに受診してほしいと思います。

甲状腺機能低下症では、その原因となる橋本病を引き起こしているほかの病気が隠れていないかどうかを検査する必要があります。一部の橋本病では、関節リウマチ尋常性白斑といったほかの自己免疫疾患を合併しているケースもみられるからです。自己免疫疾患以外にも、悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を合併している場合もあるので、超音波検査をして合併症の有無を確認することが重要です。

また、年齢によっては、更年期障害認知症と間違われてしまうケースもあるため注意が必要です。肝機能の異常が出ている患者さんは、肝臓の病気と間違われてしまうこともあるでしょう。このように甲状腺機能低下症はさまざまな病気と間違われる可能性があるため、正しい鑑別のためにしっかりと検査を行うことが大切です。ほかの病気と診断されて、治療を受けているもののよくならない場合には、主治医の先生に一度甲状腺の検査について相談してみるとよいかもしれません。

甲状腺機能低下症では、基本的に不足した甲状腺ホルモンを飲み薬で補充する治療を行います。治療開始後はずっと同じ量の薬を飲み続けるのではなく、定期的に検査を行い薬の量を調整していきます。原因である橋本病をはじめとする自己免疫疾患は、よくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。そのため原因となる病気の状態を定期的に確認したうえで、漫然と薬を飲まないこと、自己判断で薬を中止しないことが大切です。薬による甲状腺ホルモンの補充は、不足していると十分な効果が得られませんが、逆に多すぎると不整脈などの副作用が現れる可能性があります。適正な範囲にホルモンの量が維持されているかどうか、定期的に確認することが必要です。

甲状腺機能低下症の治療は、基本的に本来は体の中で作られるはずの甲状腺ホルモンを補充する治療です。そのため、薬の量が適切であれば、副作用はあまり心配する必要がないと考えています。しかし、まれに薬に入っている添加物などでアレルギーを引き起こす患者さんはいらっしゃいます。そのような場合には、薬を変えて治療することが可能です。

甲状腺機能低下症の治療を始めたら、長期になればなるほど薬の飲み忘れに注意してください。薬は1日1回飲むものが基本となるので、私は患者さんのライフスタイルに合わせて飲むタイミングを決めてもらっています。

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補充した甲状腺ホルモンは、血液中からなくなっていくのに時間がかかるため、薬を1日飲み忘れても次の日にすぐに症状が悪化するわけではありません。つまり薬を飲み忘れたとしても、飲み忘れたことに気付きにくいのです。しかし血液検査をすると、明らかに甲状腺ホルモンの値が変動しているのが分かります。このときに大切なのは、ホルモンの値の変動が飲み忘れによるものなのか、薬の量が足りないからなのかを判断することです。飲み忘れによる変動なのに薬を増量してしまうと、今度はきっちり薬を飲んだときにホルモンの量が過剰になってしまいます。

通院の頻度に関して、当センターでは、最初は薬の量を調整するために2〜 4週間に1回来てもらうようにしています。年齢が若い患者さんであれば、最初から薬の量をある程度多くすることもありますが、高齢の方や心臓の病気があるといった方の場合は慎重に薬の量を決めていきます。薬の量が決まれば徐々に通院間隔を延ばして、3か月に1回程度まで通院頻度を減らすことができます。定期的な受診と検査によってホルモンの量が適正に保たれていることを確認することが大切です。

また、悪化させないためにヨウ素を多くとりすぎないようにしてほしいと思います。ヨウ素は、昆布やわかめなどの海産物に多く含まれています。絶対に食べてはいけないわけではありませんが、食べすぎには注意してください。

甲状腺の病気は全身に症状が出るので、患者さんが感じているさまざまな症状や体の状態、検査値などを総合して、病気を見つけ出せるよう心がけています。

甲状腺機能低下症は、決して珍しい病気ではありません。適切に治療すれば問題なく日常生活が送れますし、基本的に予後への影響も心配ありません。ただし、正しい診断や適切な治療が行われないと、ほかの病気を引き起こしてしまうリスクがあります。とくに女性に多い病気なので、妊娠・出産を希望されている場合は、受診して一度甲状腺機能をチェックしておくとよいでしょう。月経不順や体のだるさ、食欲がないといった漠然とした体の不調がある方も、ぜひ一度内分泌内科などで検査を受けてほしいと思います。

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