概要
外因性に分類される精神疾患のうち、直接脳そのものを障害するものを器質性精神障害、脳以外の身体疾患の際に発現する精神障害を症状性精神障害と呼びます。
症状性精神障害のなかには身体疾患が脳に影響して機能障害を起こす病気や機能障害にとどまらず、器質的な変化が生じて発現するもの、あるいはその両者によって発現するものがあります。そのため、器質性精神障害と症状性精神障害を明確に区別することは困難です。
原因
症状性精神障害を惹起する原因としては様々なものがあります。大きく分けて、
- 内分泌疾患:下垂体機能低下症、甲状腺機能低下症/亢進症、副甲状腺機能低下症/亢進症、Addison病、Cushing病、月経関連障害など
- 代謝性障害:尿毒性脳症、肝性脳症、低血糖性脳症、糖尿病性ケトアシドーシス、急性間欠性ポルフィリン症、ウェルニッケ脳症、電解質代謝障害など
- 膠原病:SLE精神病、ベーチェット病など
- 医原性精神病:手術後症候群、ICU精神病、ステロイド、レセルピン、インターフェロンなどの薬物による精神障害など
が挙げられます。
症状
身体的基礎疾患が原因で発現する精神症状は基礎疾患にかかわらず、ある程度の共通性があるとされています。
急性期には意識障害を中心にせん妄、もうろう状態、アメンチア(軽度の意識混濁、思考の散乱のより周囲の状態が理解できず、まとまりのない行動を呈する)、幻覚を呈し、意識障害の改善後の慢性期には健忘症や認知機能障害、過敏情動性衰弱状態を呈します。
下垂体機能低下症
脳腫瘍などによるホルモン分泌低下に伴い精神的不活発、易疲労感、抑うつ、無関心、多幸、不安、焦燥感などが生じます。重篤な下垂体機能低下では意識障害を来し、これを下垂体昏睡と呼びます。
甲状腺機能亢進症
バセドウ病によるものが多いです。精神症状として不安、焦燥感、過度の緊張感などが出現します。甲状腺機能亢進による手指振戦や発汗、頻脈などの症状からパニック障害と誤診されやすいです。
精神症状としては躁症状が多いがです。うつ状態では幻覚妄想を来し、甲状腺クリーゼではせん妄を主とした意識障害を来すこともあります。
甲状腺機能亢進症
原発性、または二次性の副甲状腺ホルモンの分泌亢進による高カルシウム血症を来し、活動性の低下、無気力、不安、焦燥感、抑うつ時に幻覚妄想などの精神症状が出現することがあります。
副甲状腺機能低下症
副甲状腺ホルモンの分泌不全または作用障害による血清カルシウム濃度の低下を来し、テタニー、けいれん発作がしばしば見られるため、てんかんと誤診されることがあります。
精神症状としては抑うつ、不安、焦燥感などが出現します。
クッシング症候群
副腎皮質ホルモンの慢性過剰分泌によるものです。身体症状としては中心性肥満、高血圧、月経異常、皮膚線条、多毛症などがあります。精神症状では、抑うつ、焦燥感、不安、幻覚妄想など多彩です。特に抑うつが顕著で、希死念慮を生じることもあります。
SLE精神病
全身性エリテマトーデス(SLE)とは、全身の臓器に再燃と寛解を繰り返す慢性の炎症性疾患で多彩な症状を来します。中枢神経症状における精神症状の占める割合は大きく、急性錯乱状態(せん妄を主とする急性外因反応)、不安障害(不安、パニック状態、強迫観念)、認知機能障害、気分障害(抑うつ)、精神病症状(幻覚妄想など)が出現します。
ステロイド精神病
クッシング症候群と同様の病態を生じ、精神症状は不眠、躁状態、抑うつ状態、幻覚妄想、昏迷など多彩な症状を来します。ステロイドの大量投与で精神症状を来しやすくなります。
検査・診断
症状の把握にあたっては、意識障害が存在するかどうかを鑑別しすることが重要となります。
また、重要な身体所見を認めること、身体所見と精神病の明白な時間的関係があること、両者が経過中に一定の平行関係にあることを把握するため、身体的基礎疾患を詳細に聴取する必要があります。
治療
症状性精神障害の経過については身体疾患の治療による改善度に大きく左右され、内分泌疾患などの慢性疾患では精神症状も繰り返される場合もあります。一方で身体疾患の治療にあたって、精神症状により安静や積極的な治療が困難な場合、原疾患の治療が遅れ、予後不良となるため、身体疾患の早期発見、治療とともに精神症状に対する対症療法を行うことも重要です。
下垂体機能低下症
原疾患の治療とともに、ホルモン補充療法を行います。
甲状腺機能亢進症
抗甲状腺薬の投与が基本です。対症療法として抗不安薬などを使用する場合もあります。
副甲状腺機能亢進症
症状改善にはカルシウムの補正が有用です。
クッシング症候群
原発巣の摘出が基本です。精神症状に対しては抗精神病薬を用いる場合もあります。
SLE精神病
症状が活発なときにはステロイドや免疫抑制剤の使用が優先されます。ステロイド精神病が疑われる場合には、ステロイドの使用を中止し経過をみる場合もあります。
対症療法的に抗精神病薬を使用する場合もあります。SLEはけいれん発作を起こしやすいため、けいれん閾値を下げる薬の使用は避けることが推奨されています。
ステロイド精神病
ステロイドの減量または中止で、症状の改善がみられます。また対症療法として抗精神病薬を使用する場合もあります。
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