「発達障害」という言葉をよく耳にするようになりましたが、実際にどのような特徴があるのか、詳しくご存じでしょうか。特徴をなんとなく知っているという場合も、実際に発達障害を抱える方がどのような世界を見ているかということまでご存じでない方のほうが多いはずです。子どもの発達障害について国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所知的・発達障害研究部 部長の岡田 俊先生にお話を伺いました 。
発達障害という言葉は、もともとは知的障害や自閉症を指しましたが、いまでは自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、学習症(学習障害)、トゥレット症などを含む幅広い概念になっています。
「発達障害」という表現自体が、実は誤解を招きやすいと感じることがあります。発達障害の子どもも、そうでない人と同じく、それぞれの歩みで発達していきます。また、その人の物事の捉え方や行動のパターンもひとそれぞれです。しかし、そのパターンがより異なっていたり、発達の歩みに違いがあったりすれば、その子を育むうえで、いろいろな工夫を施した方がよりよい育ちが得られるでしょう。そのような子どもたちのさまざまなパターンを発達障害とよんでいるわけです。
発達障害の背景には、その人に特徴的な脳の働き方の違いがあると想定されています。米国で2013年に公表された診断基準では神経発達症群という概念が用いられており、本邦における発達障害とほぼ同じ障害群が含まれています。
私たちは、言葉あるいはそれ以外にも、表情・視線・ジェスチャーなどを通して、相手の思いを読み取ったり、自分の思いを伝えたりしています。しかし自閉スペクトラム症のある人ではそのような相互的なやりとりが苦手であったり、こだわりが強かったりします。
自閉スペクトラム症には自閉症、アスペルガー症候群などを含みますが、最近では、このように区別することはそれほど重要ではないと考えられ、自閉症を中心とした広がりのある一群という意味で、スペクトラム(連続体)と呼ばれます。
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落ち着きがない、感情のコントロールが苦手、行動を切り替えて別の行動に移りにくい、待てない、気が散りやすい、すぐに他のことを考えてしまう、といった多動-衝動性、不注意の特徴が、学校、家庭、職場などの複数の場面で、発達水準に不相応に認められる状態をいいます。
学習障害では、字を読む、読みの理解、綴り字、書字表出、数の理解や計算、算数的な推論が、他の知的能力に比べて極端に不得手である場合をいいます。
チックというのは、突然に無目的に素早い動きや発声が見られる状態をいいます。チックには、瞬きする、口を尖らせる、肩を回すといった単純な動きや飛び跳ねるなどの複雑な動きをするなどの運動チック、咳払いや鼻をすする、うっという声を出す、意図せず言いたくない単語をいってしまうといった音声チックがあります。
さまざまな運動チックや音声チックが長期にわたり持続する場合、トゥレット症と呼ばれます(体系的に報告したジル・ドゥ・ラ・トゥレットという人の名前にちなんでいます)。
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知的能力には様々な領域がありますが、それをおしなべてみたとき、標準に比べて低く、そのために社会的機能に困難があり、支援のニーズがあると考えられる場合に診断されます。
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脳はさまざまな領域にわかれたネットワークであり、脳のそれぞれの領域は異なる働きをしています。さまざまな発達障害は、それぞれの脳の働き方のバランスの違いと考えてよいでしょう。発達障害のある人がどれかの発達障害の型に分類される、というのは間違いで、一人ひとりは、複数の発達障害のパターンを持ち合わせていることが多く、それらの特性が診断レベルを超えていることもあれば、一部の特性は診断される水準に達しない特性レベルに留まることもあります。また、同じ発達障害を有していても、その人の持つ特性のパターンはかなり違いがあります。
発達障害の診断がついたとき、その子の特性を理解するときに発達障害の特性のパターンとして理解することは有益ですし、多くの参照すべき本もあります。しかし、その子に対処するとき、自閉症だからこうに違いない、こうすべきだ、と考えてしまうと、その子が本当に求めていることずれてしまいます。
その子を理解するために参照するのは、あくまでもその子自身が教科書であり、その子の体験に即して理解していくことが大切なのです。その子の育ちや、家族による育みをどのように支えていくかが、専門家の役割といえましょう。
発達障害は、脳の働き方の相違に基づく生物学的な病態です。しかし、そのことで発達障害の子が育ちの歩みの中で抱える心の問題を軽視することがあってはなりません。発達障害とともに生きることの体験を踏まえた支えが求められます。
自閉スペクトラム症のお子さんは、養育者のさりげないそぶりやまなざしから、その思いを読み取り、そこから安心感を感じとりにくいことがあります。また、養育者を求めるサインをわかりやすく発してくれない傾向があります。そのため、養育者は子どもからのサインを感じにくく、また話しかけたりしても反応が乏しかったり、こだわりのある行動に固執することがあることから、養育がうまくいっていると感じにくいこともあります。
人見知りが極端になかったり、逆に著しい対人緊張を伴ったりこともあります。そのため、親と離れる分離に際して、まったく何のためらいもなく分離できてしまう場合がある一方、養育者から離れることができず、著しい分離困難を伴うことがあります。
自閉スペクトラム症の子どもは、同世代の子が公園で遊んでいても、何の関心を持たなかったりすることもありますが、年齢が大きくなるにつれて、友人がほしいと思いようになる子も多いでしょう。実際、周囲から見ると友人もいるのですが、友情という感覚はどこかわかりにいものであったりします。
また、思春期になると二次性徴を迎えますが、身体的な変化を受容していくとともに、同一性を確立していくとともに、より複雑な対人スキルを求められることも増えていきます。自閉スペクトラム症の子のなかには、知的な能力の高さに比べて人物画が不得手であったり、小さなところには強迫的にこだわるのですが、全体的な認知に困難を抱えることがあります。また、このような複雑な社会状況のなかで、傷つきを抱える子も少なくありません。自閉スペクトラム症の子は、辛い体験のエピソードを忘却しにくいところがあり、このことが傷付きを長引かせたり、フラッシュバックなどの外商的な反応を持続させることがあります。
ADHDの子どもは、先を考えて行動を抑制したり、計画的に事を進めることが苦手であり、熟慮する前に気持ちや行動の方が先に立ってしまいます。そのため失敗も多く、そのなかで傷付きを経験することも少なくありません。ADHDの子どもは、言動の加減がわからないこともあります。衝動的な振る舞いが多いとされる一方、常に不安にさいなまれているわけです。
発達障害という診断が下された当初、親御さんは自分の子が普通にやっていけるのか、ということを盛んに心配します。しかし、何を普通というかということがまず難しいですし、子ども一人ひとりの歩みの道のりはそれぞれ違います。その道のりのパターンが他の子と違うのが発達障害の子どもたちですから、みなと同じ(と感じられた)ラインに近づけ用途ばかり考えると、せっかくのその子の頑張りや伸びも喜んであげることができませんし、その子の特性を無視して、背伸びばかりをさせることになります。
その子の歩みのペースに合わせて、今伸ばせることを伸ばすというような子育てが大切なのです。
焦りは、親だけでなく、発達障害のある子の側にもあり、自尊心の傷付きを抱えている子もいます。その子のできないことばかりがクローズアップされますが、他の子よりもできることも、同じぐらいできることも、あるいは、もっと別の個性的なやり方でできていることもいっぱいあるでしょう。さらにいえば、できてもできなくてもよいのです。
それでも自分で、これでいい、そこそこやれているといった、自己効力感や自己有能感を持てることが大切なのです。
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