糖尿病の治療には血糖値のコントロールを中心にさまざまな方法があり、薬物治療に用いられる薬の種類も多岐にわたっています。患者さん一人ひとりの状態に合わせた個別的な治療が求められ、合併症の治療ではそれぞれ専門の異なる診療科との連携も必要となります。国立国際医療研究センター病院 副院長 梶尾 裕先生に、糖尿病の治療の方法とその選択について詳しくご解説いただきました。
糖尿病のコントロールがうまくいかないと、合併症によって生活の質が低下し、寿命にも影響します。血糖値をよりよく保つとともに、合併症対策を行うことが治療の目的です。
食事や運動は生活の一部です。食事については、体に取り込まれる糖の量やエネルギーのバランスとともに、毎日のちょっとした心がけが大切です。また運動については、運動によって糖が使われたり、筋肉の量を増やしたり、脂肪を減らしたりしてインスリンが効きやすい状態を作ります。
しかし、基本的な食事や運動、十分な休養などは当たり前のことのようで、なかなか難しいというのが実情ではないでしょうか。患者さんの中には不規則な食生活が習慣化しており、1日2食、あるいは1食しか取っていないというような方がいるため、食事制限そのものが難しい場合もあります。また、1日3食を意識的に取っていても、間食などで食べているものが多いというケースもよくみられます。
生活習慣の改善には家族や周囲の方たちとの関わりも影響してきます。周りの方が好きなものを食べているなかで自分だけが食事を制限されるのはつらいことですし、運動も1人で頑張るよりは、一緒に取り組む仲間がいるほうが長続きしやすいものです。
長時間の通勤やストレスフルな職場環境、仕事も激務で睡眠時間も十分に取れないような生活を送っていると、夜遅くにお腹を空かせて帰宅し、たくさん食べた後ですぐに寝てしまうこともあるでしょう。運動する時間を取りづらい方も多いと思います。どうしても改善することが難しい場合には、どこかで十分休養を取って生活をリセットすることも必要かもしれません。自分でうまくリセットしきれないときには、入院して生活環境や気分を変え、しっかり休養することも大切です。
食事や運動だけでは血糖値が下がらないときは、薬物治療を行います。血糖値を下げる経口内服薬(飲み薬)は、はたらき方や仕組みによっていくつかの種類に分けられます。インスリンの分泌を促進するタイプの薬とインスリン抵抗性を減らして効きをよくする薬、腎臓から尿と一緒に糖を排泄させる薬、食事から取った糖の吸収を遅らせるような薬などがあります。効果や薬の強さには違いがあるため、患者さんに合った薬を使い、きちんと服用を継続できているかどうかを確認することが大切です。
飲み薬で血糖値を下げる場合には注意すべき点もあります。特に、スルホニル尿素薬(SU薬)と呼ばれる種類の薬やインスリンを使う場合、血糖値を下げすぎてひどい低血糖にならないよう注意が必要です。食事の量が少なかったり、食事を抜いたりしたときにも普段と同じように薬を服用していると、薬が効きすぎてしまうことになります。
また、肥満や高血圧、脂質異常症によって大血管症がさらに進みます。これらの治療に薬物治療が必要となることもあります。
1型糖尿病では自分の体で作られるインスリンが足りないため、それを補うインスリン療法が治療の中心となります。インスリン療法は、血液中のインスリンの濃度が正常時に近い状態になることを目指して行います。
眠っている間は食事を取らないため、肝臓から糖が出て血糖値を維持します。その量は糖を出すホルモン(成長ホルモンや副腎皮質ホルモンなど)と糖を抑えるホルモン(インスリン)によって調整されています。つまり、空腹時や眠っている間でも、24時間一定量の“基礎インスリン”が分泌されています。そして、食事の後にはこれに上乗せしてさらに“追加インスリン”が分泌されます。
通常のインスリン療法では、患者さんはある程度インスリンを分泌しているので、インスリンを自己注射して不足分の基礎インスリンと追加インスリンを補います。基礎インスリンと追加インスリン、この2つを補う治療法が強化インスリン療法です。
しかし、上述した体内でのはたらきを考えると、1型糖尿病でインスリン分泌がほとんどなくなっている方には、このような補充方法では正常時と同じような状態に近づけることはできません。そこで、患者さん自身が自分の血糖値の変動を見ながら、食事の前に追加インスリンを注射して血糖値を微調整します。
当院における糖尿病合併症の治療は、他診療科との連携の下で進めていきます。
糖尿病網膜症の予防や進行を抑えるため、目の症状が出ていない糖尿病の初期段階から年に1回程度、眼底検査などを行い、目の状態をチェックします。必要があれば、眼科的な治療をしてもらいます。
腎臓が悪くなってくると、定期的な尿検査で微量アルブミンが認められるなどの兆候が現れます。これに加えて、尿中のたんぱく量や血中のクレアチニンの値が上がってくるような変化があれば腎臓内科に相談し、適切なフォローアップを進めます。また、糖尿病以外の病気で腎臓が悪くなっている可能性があるときにも連携して治療を行います。
神経障害の症状があったときに、それが本当に糖尿病に関係しているものかどうか、ほかの要因がないかという鑑別診断のために神経内科で診てもらうことがあります。また、脳血管障害のリスクが高くなっていったときにも、やはり神経内科との連携を考えます。
糖尿病の方は狭心症や心筋梗塞を起こす可能性が高く、しかも症状が出にくい特徴があります。息切れなどの症状とともに心電図などの検査で病気が疑われる場合には、循環器内科に相談します。また、足関節上腕血圧比(ABI)で上肢に比べて下肢の血圧が下がっている場合や、長く歩くと足が痛くなる間欠性跛行、あるいは足が冷えるなど下肢の状態に問題があれば循環器内科で診てもらいます。もしもそこで問題が見つかれば、心臓血管外科にも相談してさらなる検査や治療を検討することもあります。
下肢の血流低下や神経障害がみられると、足に巻き爪や水虫、傷などがあっても違和感を抱きにくくなります。そのため、水虫などから菌が体内に入って感染症を起こした場合でも、重篤な状態になるまで気付かないことがあります。足の病変をそのまま放置すると、潰瘍や壊疽に至るリスクがあります。当院のフットケア外来では足全体のトータルなケアに加えて、看護師からセルフケアの方法についてもアドバイスや指導を行っています。
糖尿病に合併して膵臓や大腸に腫瘍ができやすいことが知られています。患者さんの消化器の状態を常に把握し、急に消化器に異常が生じたときの原因を探るためには、消化器内科や外科との連携も重要です。
高度な肥満で糖尿病の治療がうまくいかない場合には、スリーブ状胃切除術などの肥満外科手術を行うことがあります。手術の適応にはいくつかの条件がありますが、条件を満たせば保険診療で行うことができる治療です。また、手術に際しては外科だけでなく、心理的な問題が出てくることもあり、精神科も含めた集学的な取り組みが必要です。安全性などを考慮しながら、最終的には糖尿病専門医(日本糖尿病学会 認定)がその適応について判断します。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科 非常勤
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