「貧血」は、非常によく聞かれる言葉です。健康診断などで指摘されたことがある方もいるかもしれません。そのなかで最も代表的な貧血は「鉄欠乏性貧血」です。これは、女性の10人に1人程度が該当すると言われるとても頻度の高い貧血です。鉄欠乏性貧血の治療について、横浜労災病院血液内科部長の平澤晃先生にお話をお聞きしました。
ヘモグロビンの値が8~9くらいと健康診断で判定されると、「自分は鉄欠乏性貧血なのか」と思い込み、鉄剤のサプリなどを飲み始める方がいますが、鉄欠乏性貧血ではまず原因を特定することが大切です(参考:「代表的な貧血である鉄欠乏性貧血とは?」)。
実は貧血の原因として胃がんや大腸がん、胃潰瘍からの出血などの危険な病気が隠れていることがあるのです。原因がはっきりしているものに対してはしっかりとその原因自体の治療をしていきます。例えば、胃潰瘍からの出血に対しては胃カメラによる検査を行い、その後に出血を止めるための適切な治療を行います。
原因となる病気がないときには鉄不足と考え、鉄剤による治療を行います。つまり、鉄欠乏性貧血は「原因」ではなく、あくまでも「結果」に当たるのです。
鉄欠乏性貧血の治療としては、一般的に鉄剤を1日1~2回内服します。なお、鉄剤にはさまざまな種類があり、後述するような副作用が出る場合には鉄剤の種類を変更することがあります。
クエン酸第一鉄ナトリウム
硫酸鉄(徐放錠)
フマル酸第一鉄(徐放錠)
ピロリン酸第二鉄
静注用
含糖酸化鉄
シデフェロン
引用元:「鉄剤の適正使用による貧血治療指針」(pdf)
鉄剤の内服をスタートしてからは、定期的に通院しながら血液検査をしていきます。目標は貯蔵鉄の指標であるフェリチンが十分な数値になることです。ただし、実際にはフェリチンが十分な数値になった後も数ヶ月は鉄剤の内服が必要となります。過多月経のある女性は閉経まで飲み続けなければならないこともあります。
治療の大まかな流れは以下のとおりです。
1~2週間:網赤血球が増える(血が盛んに造られていることをあらわす)
3~4週間:ヘモグロビンが増える
2~4ヶ月:ヘモグロビンが正常化する
6ヶ月:フェリチンが正常化する
しかし鉄剤内服時には、一定の副作用が起こりやすくなります。具体的には以下の3つがよくある症状といわれています。
・ 便が黒くなる
・ ものを噛み潰すと金属の味がする
・ 消化器症状が起こる(吐き気・便秘・下痢・嘔吐・胸焼けなど)
消化器症状が強い場合には剤形(薬の形)や薬を飲む時間を変更したり、症状を楽にする薬を使ったりしつつ、患者さんの負担が少ない治療をすすめられるような対応をしていきます。鉄欠乏性貧血の治療で何より大切なのは薬を飲み続けることであり、医師は薬を飲み続けてもらうために様々な工夫をこらします。
先ほどの表では、注射の鉄剤も紹介しました。注射の鉄剤を用いるのは、急いで鉄を補充しなければいけない場合と、患者さんの消化器症状が強く、経口の鉄剤がどうしても飲めない場合の2パターンです。ただし、これらはどうしても経口投与できない場合のみに用いられる治療法であり、上記のような特別な場合に使用されます。
この理由は「鉄過剰」の問題があるからです。注射の鉄剤で「鉄過剰」を起こすと肝臓や心臓に鉄がたまってしまいます。静脈注射は吸収されないということがありません。つまり、鉄を打てば打つほど体内にたまっていってしまうのです。一方、経口薬は安全であり、多少飲み過ぎていても、吸収されなくなってきます。
飲み合わせについて
食事中であっても、お茶と一緒に飲んでも、貧血の改善には問題ないと報告されています。
妊娠中・授乳中は?
内服の鉄剤であれば問題なく飲み続けることができます。
サプリメントは?
サプリメントでも効果は見られます。ただし、鉄の含有量は処方薬と比較すると少なくなります。また、治療に時間もかかります。治療が必要なほどひどい状況であれば経口(口から飲む)鉄剤の方が望ましいと言えるでしょう。
症状次第ですが、具体的には著しい貧血で心不全を起こしているときです。慢性的な変化であると、低くてもほとんど症状がないことがあるので、ヘモグロビンの数値だけでは言えません。たとえば、ヘモグロビン値が 3より下であるだけならば経過観察となる場合もありますが、ぐったりとしており、なおかつ心不全を起こしているようなときには緊急入院してもらい、安静を保ちながら治療をしていきます。
鉄欠乏性貧血にならないためには、何よりもまず食事に気をつけることが大切です。朝昼晩と3食をきちんと欠かさず取り、バランスの良い食事を心がけましょう。特に意識するのは赤身の肉と緑黄色野菜をしっかりとることです。具体的には以下に説明します。
鉄には2種類があり、「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があります。ヘム鉄はレバーをはじめとする肉類・魚介類などに多く含まれています。非ヘム鉄は緑黄色野菜に多く含まれています。一般的に吸収が良いのはレバーなどに多く含まれるヘム鉄です。
ただし、レバーが嫌いであれば無理にこだわる必要はありません。よくいるのが、レバーにこだわりすぎて結局食べられなかったという方です。無理して嫌いなものを食べるよりは、食べられるもの(たとえば赤身の肉)をきちんと食べてヘム鉄を補ってあげましょう。ただし、白身の肉はあまり鉄の補給には効果がありませんので注意してください。
また、ほうれん草は鉄分が豊富ですが、非ヘム鉄なので吸収がよくありません。この場合、ビタミンCがほうれん草の鉄吸収を助けるため、一緒に摂取するとより効果的です。
横浜労災病院 血液内科部長/医師臨床研修センター長
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貧血の治療について
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最近眠く動悸・立ち眩みする。
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