院長インタビュー

高度な先進・救急医療で地域に貢献する、いわき市医療センター

高度な先進・救急医療で地域に貢献する、いわき市医療センター
新谷 史明 先生

いわき市病院事業管理者

新谷 史明 先生

目次
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福島県いわき市にある“いわき市医療センター”は、高度で先進的な医療や救急医療で地域に貢献する、地域医療支援病院です。さまざまな課題と向き合いながら、質の高い医療サービスを提供し続ける同院の取り組みについて、病院事業管理者である新谷 史明(しんや ふみあき)先生にお話を伺いました。

外観

当センターは、福島県いわき市に所在し、700の病床と28の診療科を有する地域の中核病院です。開院以来、高度で先進的な医療や救急医療を提供する医療機関として地域の方々からの信頼を得てきました。相手を慈しみ思いやる気持ちで患者さんに接し、優れた医療技術で診療、治療を行う“慈心妙手”の精神を基本理念に、市民の皆さまの健康を守っています。

石碑

前身である磐城共立病院が開院したのは1950(昭和25)年のことであり、1966(昭和41)年の市町村合併を経て、いわき市立の医療機関となりました。2018(平成30)年には病院建屋の現地建替を行い、名称も“いわき市医療センター”と改めました。

新病院は地上13階建てで、緩和ケア病棟の新設や、手術室、化学療法室の増設、屋上ヘリポートの設置のほか、災害に強い病院を目指し免震構造を採用するなど、さまざまな機能が強化されています。

手術風景

当センターの心臓血管外科、循環器内科は、TAVI治療やPCI治療の導入により高い実績を誇っています。新たな技術の導入によって、手術によるアプローチでは体への負担が大き過ぎるために治療が困難であった患者さんも救えるようになったのです。

TAVI治療とPCI治療

TAVI治療(経カテーテル大動脈弁置換術)とは、機能の低下した心臓の弁を人工弁と置き換える治療方法です。この治療法は、カテーテルという医療用の管を、大腿動脈(だいたいどうみゃく)や胸壁から心臓へと入れ、人工弁を植え込むというものです。当センターの心臓外科医がこの技術を習得し、循環器内科医と共同して大きな成果をあげています。

一方、PCI治療とは、動脈硬化などにより血液の流れが悪くなった心臓の血管を、バルーンによって膨らませたり、ステントを入れたりすることで機能改善を図る治療法です。TAVI治療同様、カテーテルによって心臓までバルーンを運び、疾患のあるところで膨らませます。

当センターは、TAVI治療やPCI治療の導入により、大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)虚血性心疾患を患う多くの患者さんを救い、また医療技術の発展にも貢献してきました。切開をしないため、体への負担を最小限にとどめることのできるこの2つの治療法は大きな特色となっています。

2023年6月に手術支援ロボット“ダビンチXi”を導入し、同年7月から手術を開始しています。現在、産婦人科、泌尿器科、呼吸器外科、外科(消化器外科)の4診療科で使用しています。

ロボット支援手術は、従来の鏡視下手術の優れた点を生かしながら、高精細な3D画像や、ロボットアームのスムーズで繊細な動きにより、さらに患者さんへの負担が少ない低侵襲(ていしんしゅう)な治療を目指すことが可能となります。運用開始にあたり、執刀医師だけでなく、手術室の担当スタッフがさまざまなトレーニングを積み、より安全な手術を提供できるよう体制を整えています。

当センターは28の診療科を有していますが、そのほかにも専門的な医療を提供する6つのセンターを有しています。

地域周産期母子医療センター

浜通り地区唯一の“地域周産期母子医療センター”として、早産異常分娩などハイリスクな妊娠・出産を受け入れています。また、NICU(新生児用集中治療室)やGCU(新生児回復室)を備えており、未熟児や先天性の疾患がある新生児への対応も行っています。

低侵襲心臓血管治療センター

前述のTAVIをはじめ、肋間(ろっかん)からの小切開で行う小切開心臓手術(MICS)など低侵襲な心臓・大血管手術を積極的に行っています。また、大動脈治療においてはステントグラフト治療を行っており、各資格をもった専門の医師が治療にあたっています。

心血管カテーテル治療センター

心血管カテーテル治療センターでは、心臓を中心とした全身血管のカテーテル治療を専門的に行っています。また、不整脈の根治療法であるカテーテルアブレーションや、ペースメーカー・ICD(植込型除細動器)手術も行っており、複数名のスタッフが日夜診療にあたっています。

人工関節センター

人工関節センターでは、膝や股関節(こかんせつ)はもちろん、対応可能な施設が限られている肩のリバース型人工関節など、さまざまな人工関節手術を行っています。また、ナビゲーションシステムを使用し、手術前に計画を立案するほか、手術中にも状態を計測することで、精度の高い手術を行うことが可能となっています。

炎症性腸疾患センター

難病として指定されている炎症性腸疾患潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)クローン病)の診断、治療を専門的に行っています。この病気は、10~30代の比較的若い方に多く、目や皮膚の症状が現れることもあるため、関連する診療科と協力しながら治療にあたっています。

がん集学的治療センター

2014年から“地域がん診療連携拠点病院”の指定を受けており、がん医療にも力を入れています。いわき市医療センターとなってからは、“緩和ケア病棟”や“がんサロン”の新設、手術室の増室などが行われ、さらに化学療法室の拡充や医療機器の更新などがん医療の環境が大きく変化しています。診断・治療はもちろん、相談、支援、情報発信など包括的ながん医療の提供に努めています。

現在、福島県内には4つの救命救急センターが設置されています。当センターは、その機能を有する医療機関の1つで、いわき市では唯一の救命救急センター設置病院として、地域の救急患者さんと向き合っています。

1980(昭和55)年に認可を受けた、当センターの救命救急センターは、2002(平成14)年に設備拡充をともなうリニューアルが行われ現在の姿となりました。4~5名の常勤医師と、非常勤医師の応援により24時間365日対応できる医療体制が整えられています。

初期および二次救急の患者さんの診療を行う救急外来のほか、複数の診療科にわたって処置を行う三次医療ゾーンを備えており、こうした医療体制によって年間4,000台以上の救急車と2万人近い救急患者さんを受け入れています*

*2023年実績……4,211台、18,961名の受入れ

いわき市はもとより、周辺地域に当センター以外の救命救急センターはありません。そのため、当センターは三次救急の患者さんを受け入れることができる、福島県浜通りから茨城県北地域で唯一の医療機関です。在籍する医師たちは地域における救命救急の砦として、常に命の最前線で戦っています。

ドクターカーの運用を開始

2022年10月からドクターカーの運用を開始しています。ドクターカーは、医師や看護師などの医療スタッフが現場へ急行するための緊急自動車であり、交通事故による外傷患者や、疾病により心肺停止状態となった患者が発生した場合などに出動します。救命救急センターでは、 “病院前からの医師介入による攻めの救急医療”をモットーとしており、可能な範囲で適切な運用ができるよう努めています。

また、日本救急医学会の救急科専門医指定施設である当センターは、救命救急医の育成の場であると同時に、救急救命士のプレホスピタルケア教育の場としての役割も果たし、救命救急に携わる次世代の医療従事者を育てる拠点としても重要です。

院内保育施設

当センターでは、充実した職場環境づくりにも力を注いでいます。働きやすい環境を整備することで、医師や看護師をはじめとした職員全員が気持ちよく仕事のできる病院を目指しています。

その取り組みの1つとして2021(令和3)年に、院内保育所を敷地内に新設しました。保育対象の年齢の幅を広くし、多くの職員が利用できるようにしています。また、夜勤者のための夜間保育を行っているほか、病児室を設置し、病児・病後児保育も行っているため、お子さんをもつお父さん・お母さんにも働きやすい環境となっています。

福利厚生の一環として、在籍する医師達のキャリア支援にも取り組んできました。医師が、自身の専門性を高めるために行う勉強や研究などに対して、金銭面での支援や労働時間の調整を行っています。

現在、地域の医療資源が先細りする中、当センターは“競争ではなく協同”をキーワードに、地域の医療機関との連携強化・役割分担(ゆるやかな機能分化)を推進しています。それぞれの医療機関が強みを生かして相互補完し、連携していくことで、この地域で持続可能な医療提供体制を構築していければと考えています。

新病院開院以降5年連続で、臨床研修医の募集定員が全て埋まる、いわゆる“フルマッチ”の状況が続いています。若手医師が増加しており、教育の場としても充実した環境を提供できているのではないかと思います。一方で、指導を行う中堅医師が不足しているという現状もあるため、今後は臨床研修医の確保に加えて、専攻医や指導医の確保にも努めていければと考えます。

病院をもっと身近な存在として感じて欲しいという思いから、当センターは地域の方々や医療分野に興味のある方たちに向けて積極的な情報の発信を行ってきました。パンフレットやホームページ、SNSなどでの情報発信に加え、医療分野に興味のある中高生を対象とした職場紹介や院内の見学会の開催、医大生や看護学生など医療の道に進もうとする方たちを対象とした職場見学などを行っています。

パンフレットやホームページでは、主に地域住民のみなさまへの情報発信を目的に診療体制や理念などを紹介しています。また、2016(平成28)年4月からは新たに院外広報誌『みまや通信』(病院の所在地、内郷御厩(みまや)町に由来)の発行も開始しました。情報誌の目的は当センターの診療に関するUp-To-Dateな情報の発信です。新たに取り入れた医療技術や取り組みなどを紹介することで、当センターの存在をより身近に感じて欲しいと考えています。

手術体験

当センターでは、医療分野に興味のある中高生をはじめ、医療に携わることを志す方たちを対象とした職場紹介や院内の見学会を定期的に行っています。また、市内の中学生向けのイベントとして“外科手術体験セミナー”なども行っています。このセミナーでは、外科医師からマンツーマンで腹腔鏡トレーニングの指導を受けたり、患部に見立てた鶏もも肉を電気メスで実際に切開したりするなど、実践的な体験が可能です。これらの取り組みは、将来医療に従事する可能性のある方たちに、病院での仕事を身近に感じてもらうことが目的です。

また、ホームページ上で医療現場への就職を希望している学生に向けたPRビデオの公開も行っています。動画を通して現場の様子や職場の雰囲気を伝える新たな取り組みとして、今後も継続して展開していく予定です。

地域で唯一の救命救急センターを有する当センターでは、三次救急患者の受け入れ体制を含む質の高い急性期医療サービスの提供を行ってきました。循環器疾患のほか、消化器疾患、脳卒中外傷などに対しても最新技術を取り入れて高い実績を上げています。

今後の展望として、地域の医療機関だけであらゆる患者さんの診療を行えるよう、当センターが中心となって医療機関の連携を強め、地域完結型医療の実現を目指しています。近年、地域医療を取り巻く環境が大きく変化しており、当市の医療を維持していくためには「“競争”ではなく“協同”」をキーワードに、関係機関が連携し合うことが必要と考えます。

引き続き、高度かつ先進的な医療サービスの提供体制を確保するとともに、医師不足をはじめとするさまざまな課題と真摯に向き合い、地域の方々に信頼していただける病院づくりを進めながら、安心して暮らすことのできる地域づくりにこれからも貢献してまいります。

*画像提供:いわき市医療センター

*診療科や医師、提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年6月時点のものです。

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