兵庫県神戸市西区の兵庫県立リハビリテーション中央病院は、兵庫県のリハビリ医療において、高度で専門的なリハビリテーション(リハビリ)を提供している中核的な病院です。
スポーツ医学診療センターやロボットリハビリセンター、人工関節センターなどを備え、スポーツプレイヤーの競技復帰や、事故・怪我による脊椎損傷などからの社会復帰を支える同院の役割や今後ついて、院長の大串 幹先生にお話を伺いました。
当院は兵庫県政百年記念事業の一環で、身体障害者の社会復帰を促進するためのリハビリ施設を備えた病院として1969年に開設されました。当時の病床数は94床で、診察科は内科、整形外科、精神科、外科、泌尿器科、理学診療科、放射線科、麻酔科の8つです。その後は2000年に障害者施設等病棟、2002年に回復期リハビリテーション病棟を開始するなど医療体制を拡充させ、新病院が完成した1992年には病床数が300床になりました。現在の名称に変わったのは2011年4月1日で、質の高いリハビリ医療を提供するため、100床の障害者病棟と150床の回復期リハビリテーション病棟を有しています。
当院がある神戸市西区は、神戸市垂水区と明石市などと同じ医療圏に属します。地域医療計画では神戸市の範疇にありますが、県立のリハビリ病院としては兵庫県で唯一になることから、兵庫県全域が当院のエリアになるでしょうか。かつては脊椎損傷や事故などでリハビリが必要な患者さんを主に診ていましたが、近年は高齢化が進み、認知症や脳卒中、パーキンソン病といった神経難病の患者さんのリハビリが増えました。また、2021年4月にスポーツ医学診療センターを開設したことから、アスリートの方々も診療に訪れるようになり、兵庫県内だけでなく三重県や石川県など遠方からも来ていただいています。
年間の手術件数は1,500件*を超え、整形外科を中心に多くの実績を重ねています。また、泌尿器科では腎臓、膀胱、前立腺などの手術を実施しており、脊髄損傷の患者さんの尿路再建なども手がけています。
*手術実績
2023年度……1,550件
2024年度……1,824件
当院には医師が24名ほどいますが、そのうちの14名が整形外科医で、脊椎損傷や四肢損傷の診療・手術を多く手がけています。たとえば四肢損傷などで切断が必要になった場合には、どこで切断したら義足をつけやすくなるのかなど、義肢装具を装着したときのことまで考えて整形外科医が手術をしています。義肢装具を専門にしている医師も整形外科医で、装着訓練までを診させていただくということで手術をお受けすることもあります。
また、義足に関しては、労災事故や交通事故だけでなく近年では糖尿病といった病気など、さまざまなケースで必要になることがあり、使える医療制度は労災保険や自動車保険、医療保険など異なります。その中で当院はそれぞれの制度に合わせて、それに適した義肢装具を提案・提供しています。このように、社会復帰まで考えてシームレスに患者さんを診ることができるのは、高度な医療と手厚いリハビリ医療が提供できる診療体制が整っているからで、それが当院の強みになっています。
当院のリハビリテーションに関しては、現在4名の専門医(日本リハビリテーション医学会認定)がおり、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのリハビリスタッフは、120名近く在籍しています。スタッフの力はもちろん、機器や装具についても充実しており、患者さんに合わせた適切なリハビリを実現できることが強みです。年間のリハビリ療法実施件数は、全体で30万件以上*にのぼります。
また、当院には150床の回復期リハビリテーション病棟があります。5階の東西病棟は100床で、脳梗塞や脳出血、頭部外傷など脳血管疾患の患者さんを中心に、運動や感覚、嚥下障害、そのほかの後遺症に対するリハビリを行い、家庭復帰・社会復帰のサポートをしています。中でも脳卒中の患者さんは、高血圧や糖尿病、高脂血症、心房細動、虚血性心疾患などの基礎疾患をお持ちの方が多いことから、内科的な診療を並行して行うなど、再発防止を見据えた手厚い医療サービスを提供しています。
3階の東病棟は50床の回復期リハビリテーション病棟で、変形性股関節症や変形性膝関節症などの人工関節手術、スポーツ外傷による手術や、骨折などの手術後の治療とリハビリを行っています。3階の西病棟は周術期の整形外科病棟になっていますので、手術からリハビリまでスムーズに移行でき、整形外科医と連携しながら早期の社会復帰をサポートしています。
さらに、4階には障害者病棟を備えていますが、当院では障害者病棟に入院の患者さんにおいても、適切なリハビリテーションにより社会復帰や自立した生活を目指したサポートを行っています。
*リハビリ実績実施件数
2021年度……理学療法/153,365、作業療法/97,292、言語聴覚療法/58,669、心理/5,678、音楽療法/1,371
2022年度……理学療法/175,122、作業療法/97,990、言語聴覚療法/61,596、心理/5,614、音楽療法/1,254
2023年度……理学療法/196,308、作業療法/110,076、言語聴覚療法/66,130、心理/5,842、音楽療法/1,188
2024年度……理学療法/199,049、作業療法/119,179、言語聴覚療法/61,146、心理/3,400、音楽療法/1,121
当センターではロボットリハビリテーションセンターを設置し、リハビリ効果を高めるため先端のロボット技術を応用しています。同センターで導入しているロボットは、患者さんに装着して、患者さん本人が主体になって使用する人間装着型ロボットです。たとえば、膝関節より上で下肢を失った患者さんに対しては、コンピュータ制御義足を用いたリハビリを提供しています。コンピュータで制御した義足を用いれば、通常の義足では難しい歩行速度の細かな調整ができ、階段や坂道で安定した歩行が可能になることから、多くの活動量を必要とする方の就労復帰に効果を発揮しています。
また、併設する“最先端歩行再建センター”では、ドイツのオットーボック社の協力を受けて、脊髄損傷患者の歩行能力再建を目指すロボットリハビリを提供しています。四肢欠損の症例が多いなど、これまでの実績から当院がメーカーの協力先に選ばれました。
プロからアマチュアまで、スポーツに関連する外傷や疾患などで治療を必要とするアスリートの皆さんに、適切な診断と高度な治療、復帰へ向けたリハビリを提供するため、スポーツ医学診療センターを設置しました。
スポーツ医学診療センターには、バレーボール日本代表をはじめさまざまなスポーツチームのチームドクターを務める、センター長の荒木 大輔医師をはじめ日本スポーツ整形外科学会所属の医師が多数在籍しています。また、国際サッカー連盟(FIFA)のメディカルセンターとなっており、サッカー医学の発展にも努めると同時に、選手の外傷や障害の予防、治療を担っています。
症例数が多いのは膝前十字靱帯(ACL)損傷や骨切り(関節近くの骨を切って関節の向きを矯正したり、関節軟骨の位置を修正したりする手術)です。スポーツ栄養とスポーツ循環器が専門のスポーツ内科の先生2名が在籍しており、心肺機能を強化したいといった要望や、低栄養になってホルモンバランス崩れてしまった女性アスリートのサポートなども行っています。
今後は産婦人科の医師に加わってもらい、女性アスリートを支えるためのサポートを強化したいと考えています。同時に、スポーツ栄養ができる栄養士や薬剤師の育成にも取り組んでいます。
当院では(1)患者さんの立場に立ったチームアプローチによるリハビリ医療の提供、(2)入院から在宅までの一貫したサービス、(3)安全で質の高い先導的なリハビリ医療を追求する、の3つを柱にして、総合リハビリテーションセンターと一体となって皆さんの福祉に尽力しています。患者さんの社会復帰を後押しするための取り組みでは、ロボットを使ったリハビリのような先端的な取り組みに加え、復職に必要な専門的な訓練も行っています。
その1つが、自動車教習所と連携した自動車運転のサポートです。リハビリテーション室にはドライビングシミュレーターがありますが、総合リハビリテーションセンター内には実車訓練のできる施設もあり、特殊な装置を備えた教習車を使った運転の訓練に協力したり、患者さんが自動車の購入を希望する場合には、ハンドルやシフトノブなどの改装のお手伝いをしたりします。また、症例に応じて運転中に気を付けなければならない点を具体的にレクチャーするなど、スタッフが赴いて講演会などを開催することもあります。
効果を高めるため、リハビリを始める患者さんには「一人で歩けるようになりたい・マラソン大会に参加したい」などのように、最終的な目的・目標をはっきりさせてから取り組んでいただければと思います。当院の医療スタッフが面談や診療の際にお聞きして、設定した目的・目標を達成させるためにきめ細かなサポートをいたしますので、遠慮せず相談してください。
また、当院は質の高いリハビリ医療を提供するため、新しい技術を用いた先端的なサポートから、アスリートを対象にした診療など、患者さんのニーズにあわせた専門的な医療サービスを提供する体制を整えています。“リハビリテーション”というキーワードでお困りごとがありましたら、まずは当院へご相談いただければ幸いです。
*病床数、医師数、提供している診療内容等についての情報は全て2025年4月時点のものです。
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。