細菌性腟症(BV:bacterial vaginosis)はある特定の細菌やウイルスによって起きる性感染症ではないため、日本性感染症学会が定めるガイドラインでは性感染症関連疾患として扱われています。(2015年12月現在)
性感染症治療の第一人者である尾上泰彦先生に、引き続きこの細菌性腟症が起こる原因について伺いました。
帯下(たいげ。「おりもの」のこと)の異常が主訴となる腟炎や腟症をおこす性感染症には、ほかにも性器カンジダ症や腟トリコモナス症があります。これらはカンジダ・アルビカンスという細菌やトリコモナス原虫など、特定の微生物が原因となるのですが、細菌性腟症では原因となる特定の原因微生物は存在しないとされています。
また、性器カンジダ症や腟トリコモナス症は、男性にも症状があらわれることがありますが、この細菌性腟症は腟の炎症のため女性特有の疾患としてとらえることができます。
以前は非特異性腟炎、ガードネルラ腟炎、ヘモフィルス腟炎、嫌気性菌腟症などとして知られていた細菌性腟症ですが、現在では好気性菌(Gardnerella vaginalis)嫌気性菌(Bacteroides属、Prevotela属など)が過剰に繁殖した複数菌感染としておこるものと考えられています。しかし、帯下から魚やスルメのような臭いがするなどの症状が認められるのは半数ほどで、どうして細菌性腟症が起こるのかは完全には解明されていません。
女性の腟内部には様々な菌が存在しているのですが、そのなかでも「デーデルライン乳酸菌」を含むラクトバチルス(Lactobacillus)属の割合が特に多く、75~95%を占めるといわれています。このラクトバチルス属はグリコーゲンを分解することで乳酸菌をつくり、腟内の環境を維持しています。 腟炎・腟症とは、女性の腟内部にいるラクトバチルス属の菌が何かしらの原因によって減少してしまい、さまざまな好気性菌・嫌気性菌が異常に増殖している状態のことをいいま す。
少し上の方でもご説明したので繰り返しになってしまうのですが、カンジダ属のカンジダ・アルビカンスが原因の性器カンジダ症、トリコモナス原虫が原因の性器トリコモナス症、ナイセリア属の菌グラム陰性双球菌が原因の淋菌感染症のように、該当する原因微生物が確認されるときには、それぞれの性感染症と診断されます。しかしこれらのように該当する菌が確認されないときに細菌性腟症と診断されます。
細菌性腟症の女性が妊娠した、もしくは妊娠している女性が細菌性腟症になると、絨毛羊膜炎(※1)、正期前の低体重児、産褥子宮内膜炎(※2)などの原因になるともいわれています。特に妊娠後期の段階で細菌性腟症になると、早産や新生児の肺炎・髄膜炎のほかに、菌血症(※3)のリスクが高まるといわれています。
絨毛羊膜炎…胎児を包んでいる卵膜を構成する絨毛膜と羊膜が微生物などに感染して炎症 を起こした状態のことです。
産褥性子宮内膜炎…子宮内感染のひとつで、腹部の圧痛や疼痛、発熱、疲労感のほかに帯 下の増加などがあります。
菌血症…細菌が侵入した血液が全身にめぐることで、様々な症状を引き起こす病気です。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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