院長インタビュー

日本の中央に位置し、関東の高度急性期医療の一端を担う前橋赤十字病院の取り組み

日本の中央に位置し、関東の高度急性期医療の一端を担う前橋赤十字病院の取り組み
中野 実 先生

日本航空医療学会 評議員・航空医療医師指導者、前橋赤十字病院 院長

中野 実 先生

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前橋赤十字病院は、群馬県を代表する総合病院のひとつです。1913年に開設して以来、災害・救急医療、急性期医療を担い、地域医療に大きく貢献してきました。同院は2009年に群馬県のドクターヘリ基地病院となり、2018年6月の新築移転時に自衛隊の大型ヘリが発着できるヘリポートも完成。さらにはドクターヘリとドクターカーを併用して、群馬県だけではなく、近隣地域の救急医療にも取り組んでいます。

今後もよりいっそう地域の高度急性期医療を担い、さらに、多様化する医療ニーズに対応するために、前橋赤十字病院が取り組んでいることについて、病院長の中野(なかの) (みのる)先生にお話を伺いました。

当院は2018年6月にSCUを設置しました。SCUとはステージングケアユニット=広域医療搬送拠点のことで、この設備では大型ヘリコプターが発着でき、その場で臨時の応急処置を行うといった病院機能の一部を果たすこともできます。この施設を病院の敷地に設けたのは全国初の試みで、当院はこれによって2023年5月に全国で始めて“病院SCU”の指定を受けました。
群馬県や近隣の地域で大規模な災害が発生した際には、自衛隊機を活用して被災した方々を被災地外の医療機関などへ搬送することが可能となっています。

当院では、新たに回復期リハビリテーション病棟と身体合併症精神科病棟を開設しました。回復期リハビリテーション病棟では、急性期医療が一段落したけれど、自宅への復帰にまだ不安の残る患者さんが安心して退院できるようにリハビリテーションを実施しています。

また、身体合併症精神科病棟は身体疾患と精神科疾患を合併している患者さんなどを受け入れています。身体の診療を行っている医師や診療科などと連携を取りながら、身体合併症の治療にあたります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行時には、COVID-19にかかってしまった精神科疾患の患者さんの治療にあたりました。

当院のコンセプトである“みんなにとってやさしい、頼りになる病院”を目指して、地域に求められる医療の提供のために尽力していきます。

2018年に新築移転した前橋赤十字病院 外観
2018年に新築移転した前橋赤十字病院 外観

当院は地域がん診療連携拠点病院に指定されており、充実したがん診療の提供にも注力しています。検診から治療、緩和ケアまで一貫したがん診療の提供を可能にしており、地域におけるがん診療の一端を担っています。肺がん胃がん大腸がん乳がん子宮がんなどのいわゆる5大がんの診療はもちろん、血液内科で悪性リンパ腫多発性骨髄腫などのリンパ系腫瘍にも対応しています。

また、2018年6月からは、サイバーナイフを新たに導入しました。すでに当院に設置されてるリニアックと合わせて、患者さんの体の負担を低減した治療の提供を行っています。
2022年からは手術支援ロボット“ダ・ビンチ”を導入し、前立腺がん、肺がん、子宮体がんの手術を行っています。ロボットによる手術は手術に際して体の切開部が小さくて済む低侵襲(体に負担が少ない)な治療ができ、また手ブレが起きないためより正確な手術を行うことができます。当院ではロボット支援手術をより多くの手術に広げていく予定です。

ロボット支援手術は低侵襲な手術が可能なため、がんだけではなく、良性の子宮筋腫などでも行っています。低侵襲な治療はロボットだけにとどまらず、例えば心臓・大動脈外科センターでは心臓への手術の多くをMICS低侵襲心臓手術)で行います。MICSでは従来は肋骨を切っていた手術を、肋骨の間に設けた切開部によって実施するため、術後の回復が早くなります。
また、大動脈弁狭窄症の治療では心肺を一時的に停止して肋骨を切り、心臓を取り出して大動脈弁を人工の弁に取り替える“開胸大動脈弁置換術”が代表的ですが、当院では2023年9月からハイブリッド手術室(X線透視装置と手術台を組み合わせた手術室)を設置し、開胸することなく大腿の付け根や心臓の先端部から細い管(カテーテル)を通して人工弁を留置するTAVIという低侵襲な治療が可能になりました。

当院は、全国の民間病院のなかで初めて高度救命救急センターに認定されました。北関東の高度救命救急センターの一つであり(2023年12月時点)、群馬県における高度急性期・救急医療を担う地域の中核病院です。

救急医療体制は軽症の1次救急から集中治療室での治療を必要とする3次救急までがあります。手術室の数や医師の数などに応じて、医療機関ごとにどのような患者さんの治療にあたるかを分けています。

当院は、1次〜3次全ての救急患者さんを扱う“救急外来(ER)”として、24時間体制で全ての救急患者さんに対応しています*

*2020年6月1日より新型コロナウイルス感染症患者さんの積極的な対応のため1次救急外来診療のみを中止させていただいております(2020年6⽉時点)。

2022年4月から2023年3月末までのドクターヘリの出動回数は524件で、要請数は748件でした。群馬県内にはドクターヘリが当院の所有する1台しかないため、出動要請が重なってしまうこともあります。そのときには、防災ヘリやドクターカーを併用しています。また、隣県とも協力体制を構築しており、栃木県、埼玉県、新潟県との広域連携など積極的に他機関・隣県応援活動を行っています。出動要請を受けたとき、その患者さんへ迅速に医療を提供できる手段がもっと増えるよう、さらに隣県との連携を深めていきたいと考えています。

ドクターカーの運航体制をワークステーション方式にしたことで、事故現場まで迅速に急行することが可能になりました。ワークステーション方式は、病院内に救急車、消防職員が常駐し、要請を受けた際に院内で待機している医師と看護師を同乗して現場まで急行する運行方式です。

前橋赤十字病院 内観
前橋赤十字病院 内観

前橋赤十字病院は、大規模災害において災害発生初期から被災地内での迅速な医療活動の拠点となる基幹災害拠点病院です。群馬県では唯一の基幹災害拠点病院であり、県内の16の災害拠点病院の支援や教育を行っています(2019年10月時点)。災害救護にあたる人員の育成にも非常に力を入れており、群馬県だけでなく日本全国で災害が発生した際にはDMATを派遣しています。

当院は、北関東の中心地に位置し、地形的にも比較的大きな地震が起きにくい土地に立地しています。そのため、大規模災害発生時に、当院を拠点に広域の災害救護活動ができるよう、自衛隊ヘリが離着陸できるヘリポートを設置しました。

これからも、前橋赤十字病院は、自衛隊・群馬県警・消防・行政と協力し、群馬県内はもとより関東近県の災害救護にあたります。

前橋赤十字病院では今後の医療の発展に貢献すべく、研究成果や論文・学会発表に取り組んでいます。海外の治療方法なども率先して導入し、日本の医療レベルのアップに貢献しています。

ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)とは、患者さんの血液をポンプで体外に引き出し人工肺で充分に酸素を与えて再び体内に戻すという体外式膜型人工肺のことをいいます。肺炎などで呼吸状態が悪くなった患者さんには、酸素投与や人工呼吸器を使って呼吸を維持するのが通常です。しかし、これらが効かずに呼吸を維持できず、生命の危機に瀕してしまう重症の患者さんもいます。そのようなときに、ECMOを使います。ダメージを受けて肺が機能しなくなった患者さんであっても、ECMOによって生命を維持することが可能になり、自分の肺が回復するまでの時間を稼ぐことが可能になりました。

ECMOの使用には継続的な管理が必要なため、医師、看護師、メディカルスタッフなどチームで治療に携わる必要があります。当院では病院を横断するセンター組織“ECMOセンター”を設置し、ECMOマニュアルの作成や勉強会・トレーニングを行い、ECMOの技術習得や向上を行っています。また、ECMOの先進国であるスウェーデンやイギリスに医師や看護師を留学させています。
このような備えが実を結び、COVID-19の重症患者さんへのECMOの実施を流行の初期から行うことができました。

当院は、日本呼吸器学会が中心となってECMOの普及を目指すECMOプロジェクト参加施設の一つであり、群馬県でECMOを実施できる医療機関です。これからも、群馬県内の他院と連携しながら、重症の呼吸不全患者さんを一人でも多く救命できるように努めてまいります。

当院は2018年に新病院へ移転した際、ECMOで治療中の患者さんの搬送も可能にした通称“ECMO Car(エクモカー)”を新たに導入しました。ECMO Carは、通常のドクターカーの機能に加えて、ECMO治療中の患者さんの搬送を可能にしています。ECMO治療中の患者さんは人工心肺が装着されており、搬送には細心の注意を払っていましたが、以前のドクターカーでは十分な活動スペースも取れず、苦労をしていました。当院はECMOプロジェクト参加施設でもあるため、このECMO Carの導入で、よりECMO治療中の患者さんの治療に貢献できるようになりました。実際、COVID-19の流行時の初期には全国にECMOカーが2台しかなったこともあり、当院のECMOカーが県外へ行って金沢市の患者さんを大阪市の医療機関に搬送する事例もありました。

当院では、各担当科医師、リハビリテーション科医師の判断により集中治療室(ICU)や高度救命救急センターなどに入院中の超急性期の方へのリハビリテーション提供にいち早く取り組みました。これまで「手術後は無理に身体を動かしてはならない。安静第一にすること。」といわれてきましたが、重症患者さんであっても早い段階からリハビリテーションをすると、予後がよいということが分かってきており、現在は多くの医療機関で取り組みが始まっています。

重症患者さんのリハビリテーションには、生命に負担をかけないよう、医師による管理と特別な工夫が必要です。当院では、リハビリテーションスタッフだけではなく、ICUの医師や看護師もチームとなって重症患者さんのリハビリテーションにあたっています。

当院は、2015年に地域周産期母子医療センターに認定されました。出産前後の妊娠中から出産後までのいわゆる周産期は、母体・胎児・新生児の生命にかかわる事態が急に起こることがあります。

“開業医さんで対応が難しいハイリスクな妊婦さんは、前橋赤十字病院が引き受けるべき”という強い信念と、“また前橋赤十字病院で産みたいといってもらえることが何よりの喜び”と高いモチベーションをもって、産婦人科医師、看護師、助産師の皆で頑張っています。

当院には、夜間保育を実施する院内保育園“みどり保育園”を設置しています。同園では通常保育の定員を66名と多めに設定しているほか、通常保育は最大9割引き、夜間保育料は無料とするなど、子育て中の病院職員が安心して業務に専念できるような支援を行っています。
なお、同園は病院職員の乳幼児の入園を優先しますが、定員に余裕がある場合には、そのほかの乳幼児の入園も可能です。また、新病院のオープンとともに病児・病後児保育施設“たんぽぽ”を開設して、急病や療養の必要なお子さんを受け入れて、「子どもが病気になった、でもどうしても仕事を休むことができない」といった地域の子育て中の保護者を支援しています。

中野先生

2018年6月に慣れ親しんだ朝日町から現在の朝倉町に、新病院をオープンしました。新病院では、集中治療室を24床、高度救命救急センター病棟を48床、手術室を15床に増加するなど、医療設備を充実させ、医療機能の強化を図っています。

新病院の新たな取り組みとして、“手術のための準備支援センター”を設置しました。これは、手術が決まった患者さんが、手術に必要な診療・検査や指導・説明などをすべて1か所で受けることができる施設です。これまでは、手術が決まると、麻酔科医師に検査や術前診察を受けて、歯科口腔外科医師、管理栄養士、リハビリテーション技師などの検査や術前準備の指導・説明を受けてなどと、手術前に何回か病院に来る必要がありましたが、これからは1日で一つのエリアで手術前の検査や準備が全て完了します。患者さんやご家族のご負担を減らし、安心して手術に臨んでもらうことができます。

また、通常時にはもちろんのこと、救急や災害などの緊急時にこそ“頼りになる”病院であることを目指し、努力していきます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行した際、当院では60床のコロナ病床を設置し、2022年は全入院患者数はもとより、重症の入院患者数も群馬県内の病院で一番の数となりました。
また2024年元旦に発生した能登半島地震では、県とともに群馬県内のDMAT派遣の調整本部を設置し、県内最多の人員を派遣しています(2024年1月現在)。

これからも当院は日本赤十字社の病院として、いざというときに地域の皆さんに頼っていただけるよう、スタッフ全員が一丸となって医療に取り組んでいきます。

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  • 前橋赤十字病院 院長、日本航空医療学会 評議員・航空医療医師指導者

    中野 実 先生

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