院長インタビュー

宮城県北部の医療をリードし続ける大崎市民病院の挑戦

宮城県北部の医療をリードし続ける大崎市民病院の挑戦
並木 健二 先生

大崎市病院事業管理者

並木 健二 先生

宮城県大崎市にある大崎市民病院は、高度医療と急性期医療に特化した病院です。県北における基幹病院として、地域がん診療連携拠点病院、災害拠点病院、臨床研修指定病院、地域医療支援病院等の指定も受けています。

2023年には同院が旗振り役となり、大崎市周辺の1市4町にある公立病院が自治体の枠を超えて協力し合う全国的にも珍しい地域医療の取り組みを開始しました。そんな大崎市民病院の取り組みついて、病院事業管理者である並木(なみき) 健二(けんじ)先生にお話を伺いました。

病院外観
病院外観(大崎市民病院より提供)

当院は2006年の市町村合併により古川市立病院から大崎市民病院へと名称を変更。2014年には新築移転を行い、翌年には病床数500を数える病院となりました。古川市立病院時代から救命救急センターを開設し宮城県北の二次救急、三次救急の中核を担っており、全国レベルの医療を提供し続けています。

当院はDPC特定病院群に指定されています。DPC制度とは急性期の入院診療に対する診療報酬の包括評価制度で、DPCデータとは患者さんの病気に関する情報や診療内容についてまとめたものです。DPC特定病院群はDPCデータや病院機能、地域での役割に応じて指定されるランクの1つで、大学病院本院並みの設備と機能を有するなど、ある一定以上の要件をクリアしないと認定されません。

当院ではDPC特定病院群の病院として、大学病院本院に劣らない新しい医療機器と治療法の導入を意欲的に進めています。

たとえば、大動脈弁狭窄症に対してTAVIと呼ばれる治療法を行っています。
従来は、心臓と大動脈の間にある“大動脈弁”の機能が低下した大動脈弁狭窄症の患者さんに対し、開胸して取り出した心臓を取り出し、かわりに人工心肺装置を使って血流や呼吸を維持しつつ弁を人工のものに取り替える手術を行っていました。TAVIは下肢の付け根部分から挿入したカテーテルを使って大動脈弁を人工の弁に取り替える治療法で、開胸せず、人工心肺装置も使いません。従来の方法では体力に不安のあるご高齢の方には適さないことがありましたが、TAVIはそのような方にも受けていただけます。このような低侵襲(体への負担が少ない)手術を行うには訓練された医師とハイブリッド手術室という設備が必要になります。当院は2022年からTAVIに対応しており、宮城県北でこの治療法を行うことができる唯一の病院です。(2023年12月1日現在)

ハイブリッド手術室
ハイブリッド手術室(大崎市民病院より提供)

また、外科の手術をより精密に行うことができる手術支援ロボットの導入も2023年から開始しました。すでに前立腺がんなどの泌尿器のがん大腸がんの手術のほか、婦人科領域の外科手術でもロボットが稼動しています。ロボットの手術も低侵襲で、安全性が高いとされており、今後対象となる疾患を増やしていく予定です。このロボットがあるのも宮城県北では当院だけです。(2023年12月1日現在)

当院ではこれまで、一次・二次救急医療に対する「平日夜間・土曜日午後夜間の病院群輪番制事業」「休日昼間・夜間の在宅当番医制と病院群輪番制事業」を大崎市医師会(旧古川市医師会)と連携して行ってきました。この救急医療体制は「古川方式」と呼ばれ、モデルケースの一例として全国的に知られています。

2023年にはこの古川方式をさらに発展させ、大崎市に加えて加美町、色麻町、涌谷町、美里町の1市4町が自治体の枠を超えて連携し、当院がこの地域内の基幹病院的な役割を担い、各地域の公立病院が役割分担を行うことで持続可能な地域医療の提供を目指すこと等が決まりました。このような取り組みは全国でも珍しいため、当院は総務省や宮城県と幾度も協議をして連携体制を構築しています。この取り組みが今後の全国の公立病院の範となれるよう、これからも地域のことを考えた医療体制の構築を進めていきたいと考えています。

連携協約締結式(大崎市民病院より提供)
連携協約締結式(大崎市民病院より提供)

特に、クリニカルパスを導入したことで、入院日数短縮に向けた問題点の洗い出しと解決策の模索が活発化しました。手術に必要な検査は入院前に全て実施することや、入院日数短縮のため早期胃がんに腹腔鏡手術を導入するといったような新しい方法に積極的にチャレンジするようになりました。次第に職員の意識と行動に変化が出て、クリニカルパスがうまく回る病棟へと進化しました。

入院日数が目に見えて短くなってくると、今度はセンター以外の病棟でもクリニカルパス導入が進み、結果として病院全体の入院日数が短縮するというよい循環がうまれました。

当院では前述のような地域医療の取り組みを評価され、2023年に“自治体立優良病院総務大臣表彰”を受賞しました。とくに宮城県北の救急医療体制を地域と連携、役割分担をしながら維持していることや、“子どもサポート医制度”を導入して地域のかかりつけ医の先生方と協力しながら地域の患者さんの治療に当たっていること、新型コロナウイルス感染症への対応が評価されたものです。

このような表彰を受けたことを関係者の方々、地域にお住まいの皆さまと喜びつつ、今後もますます地域医療に尽くしていきたいと考えています。

表彰
自治体立優良病院総務大臣表彰(大崎市民病院より提供)

さらに当院では、地域の中核的な病院としていっそうの機能整備を進めています。2023年4月には“口腔機能ケアセンター”と“腎センター”を新たに立ち上げました。

口腔機能ケアセンターでは口腔環境が全身の健康に密接に関連していることが明らかになりつつある状況を受け、口腔ケアによって心筋梗塞の予防やがんの予後向上、糖尿病の患者さんの歯周病コントロールなどに向けて複数の診療科が多職種の連携を行い取り組んでいます。

また腎センターは、腎炎ネフローゼ症候群などの早期発見、早期治療や、慢性腎臓病CKD)の予防、治療などを、関連する診療科による多職種連携のもと行っています。
さらには、大崎市とも緊密に連携し、当市にお住まいの方への健康診断において腎臓の指標となる“尿タンパク”“eGFR”の値を独自に設定する市の取組に協力しています。前者は(+-)以上、後者は60.0未満で早期に受診を勧奨するというもので、市の積極的な広報に当院も協力した結果、2022年度は75歳以上の健診受信者のうち36.6%の方が該当し、腎臓内科の受診を促し、投薬等による早期の治療を開始することができています。
人工透析が必要になる患者さんの数を減らすことは、ご本人にとっても大崎市にとっても望ましことであり、当院はこのような取り組みを引き続き、多くの疾患で行っていきたいと考えています。

病棟
小児科病棟(大崎市民病院より提供)

当院は宮城県北で唯一、周産期医療を提供できる医療機関です。周産期医療とは、妊娠22週から出生後7日までに母体、胎児、新生児に起こる緊急事態に対し産科と小児科の新生児部門が連携して治療にあたる医療のことです。
当院は新生児集中治療(NICU)を6床設置して早産児や低体重児の治療を行うほか、切迫早産や胎盤剥離といった緊急を要する状況にも24時間365日対応しています。

さらに当院では、宮城県北のお子さんの健康を地域全体で見ていくという構想のもと、小児科診療に関する講義を地域の内科医の医師を対象に行い、日々の診療に役立てていただくと同時に、地域の方の不安を解消する「こどもサポート医」の運用を2018年から行っており、講義を受けたかかりつけの先生と当院の連携によって、当院で診るべき病気をスムーズに紹介いただけるようになるなどの成果が生まれています。

並木健二先生
(大崎市民病院より提供)

当院は基幹型臨床研修病院として、宮城県では一番多くの研修医を受け入れています。当院では毎日多くの患者さんが来院されるため、研修医の方でも多くの症例を担当していただけます。

また、2021年には東北大学医学系研究科・医学部と連携して共同研究・試験等を行い、職員の研究・学術論文発表等をサポートするとともに、各職員の業績・資格取得を管理する“アカデミックセンター”を設立。初代監理官として東北大学医学系研究科名誉教授の一ノ瀬正和先生が就任しています。研修医の方にとっては患者さんを全人的に診る臨床能力を向上させることができるとともに、学術研究、学会発表に必要な能力も養うことができる、新しい学びの場になっています。

このような研修プログラムの存在や、どの診療科にも優秀な指導がいることから、当院での初期臨床研修医は2023年まで5年連続でフルマッチを達成しています。

看護部の理念「市民に信頼される看護の実践」のもと、当院を受診された患者さんに寄り添う看護ができるよう、看護師一同努めています。

医療が日々進化するのに伴い、看護に求められる水準も、より高まっています。当院の看護師が自分の仕事に誇りと目標を持っていきいきと働けるよう、看護部は独自にキャリア開発ラダー(梯子)を定めており、計画的にキャリアアップを図ることができます。さらに、アカデミックセンターによって学術面での支援や資格取得のサポートを受けることもできる上、新人教育、各種勉強会、専門看護師など資格取得に必要な教育環境が整っています。

大崎市は仙台市からも近く、大都市の利便性を享受しながらも住みやすく暮らせる非常に魅力的な街です。ぜひ当院で看護師として働きつつ、キャリアアップをしていただければと思っています。

当院は、日本全国のモデルになる地域医療を学べるとともに、現代の医療技術を高いレベルで学べる環境があります。東北大学医学部との緊密な連携もあり、ご自身の研究を深めたり、学びたい診療科で新しいスキルを身につけることができるはずです。

また、当院が提供している医療や院内の設備、そして人材は仙台医療圏のどの病院にも負けないと自負しています。ぜひ当院で医師として成長してください。

並木健二先生
(大崎市民病院より提供)

大崎市民病院は高度急性期医療と急性期医療を担う病院として、地域の患者さんはこの地域内で治療が完結できるよう、職員一同日夜努力をしています。

また地域に根ざした病院として、皆さん一人ひとりに「この病院に来てよかった」と思っていただけるような笑顔と優しさあふれる空間づくりを心がけています。

繰り返しとなりますが、2026年には大崎市、加美町、色麻町、涌谷町、美里町の1市4町による新たな地域医療連携の形が始まり、当院はより安心して暮らせる地域づくりの一端を担っていきます。今後も宮城県北の皆さんの健康づくりに役立てていただけるよう活動してまいります。

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