熱中症は真夏のみ起こるものではありません。5〜6月の暑い日にも熱中症に陥るリスクがあり、注意が必要です。なかでも高齢者は、若年者より重度の熱中症にかかりやすく、特に注意が必要だといわれています。それでは熱中症には、どのような原因や症状があるのでしょうか。赤羽在宅クリニック院長の小畑正孝先生にお話を伺いました。
人の体は、体温が上昇した場合、発汗や皮膚温度上昇によって熱が体外へ放出され、適度な体温を維持するシステムを持っています。これを「体温調節機能」と呼びます。しかし何らかの理由で、体温上昇と体温調節機能のバランスが崩れたとき、体内に熱が溜まってしまった結果、熱中症になります。
熱中症は、あらゆる要因によって引き起こされます。熱中症の原因は大きく、環境的要因・身体的要因・行動的要因の3つにわけることが可能です。
高気温
高湿度
強い日差し
風が弱い
閉め切られた室内
エアコンをかけていない部屋
急激に気温が上昇した日(季節の変わり目など)
高齢者
乳幼児
肥満の方(熱が体内にこもりやすい)
下痢などによる脱水状態
二日酔いなどの体調不良
激しい筋肉運動
屋外での長時間作業
水分補給のできない状態
高齢者の方に限らず、熱中症は8月の真夏はもちろん、5〜6月の暑い日などに発生しやすいといえます。なぜなら、5〜6月は体がまだ暑さに慣れておらず、急な気温上昇に体温調節機能が追いつかないからです。
高齢者が熱中症になりやすい原因の1つが、体温調節機能の低下です。また体力低下、低栄養などによる虚弱状態(フレイル)に陥っていると、熱中症が起きた際の回復力が弱いため、すぐに対処しなければ重症化のリスクがあります。
高齢になると暑さや喉の渇きを自覚しづらくなることが増えます。そのため一般的には暑いと感じるほど高温の部屋でも、暑さに気付かずに長時間過ごしてしまい、熱中症になることがあります。また認知症を発症されている場合、気温に対して適正な服装をできなかったり、自分で室温をコントロールできなかったりするため、熱中症に至るケースがみられます。
高齢者の中には、エアコンや扇風機の風を嫌がり、温度調節をしたがらない方も見受けられます。昔はエアコンがなくても窓を開けて家の風通しをよくすれば、夏を過ごせましたから、いまだにその感覚でエアコンをつけない主義を持つ方もいます。しかし温暖化が進む現在、特に東京などの都心部は熱がこもりやすく熱中症を引き起こしやすい環境です。
熱中症には、以下のようにさまざまな症状があります。
・めまいや立ちくらみ、顔のほてり
・倦怠感や吐き気、頭痛(体がぐったりし、力が入りにくい状態)
・汗のかきかたがおかしい(何度拭いても汗が出る、もしくはまったく汗が出ない状態)
・体温が高く皮膚が赤く乾いている
・呼びかけに反応しない、おかしな返答をする
・まっすぐ歩けない
・自分で動けない、水分補給できない
特に「呼びかけに反応しない」「まっすぐ歩けない」「自分で動けない」場合は意識障害を引き起こしている可能性が高く、熱中症が重症化していると考えられます。そのため意識障害が起きている場合は早急な対処が必要です。
筋肉のけいれん、体温が上昇し皮膚が赤く乾いた状態は、軽症から重症まで、どの段階でも起こる可能性があります。
熱中症の前兆として、倦怠感や立ちくらみなどが挙げられます。高齢者の場合には前兆の時点で気付けないことが多く、早期に対処することが困難です。高齢者の熱中症を防ぐためには、温度のコントロールを行うことが重要です。熱中症初期の段階では顔のほてり・立ちくらみ・めまいなどの症状が出ますが、体を冷やす・水分を補給するなどの対処法によって回復することが可能です。倦怠感・吐き気・頭痛なども比較的初期の段階で見られます。これらの症状は、初期の段階で起こり、重症に至るまで持続するケースもあります。
熱中症が重症化すると、汗のかき方に異常がみられます。通常、気温が上がると汗をかいて体温の上昇を抑えますが、極端に湿度の高い部屋などでは、汗が蒸発せず体温が下がりません。そのため体温調節機能が働き続け、汗が止まらない状態が引き起こされます。また汗のかきすぎで脱水状態に陥ると、汗をかかなくなります。このように、体温が高いにもかかわらず汗が止まらない状態、もしくは発汗のない状態は、熱中症が重症化しているサインです。
呼びかけに反応しない・まっすぐ歩けない・自分で動けないといった意識障害がみられる場合には、熱中症が重症化している可能性があります。自分で水を飲めない場合に無理やり水を飲ませようとすると、誤嚥(ごえん・誤って食道ではなく気管や咽頭に入ってしまうこと)の危険があるため避けましょう。自力で水分補給ができないときは、冷たい水を体にかける方法も有効です。
また高齢者の場合には熱中症が重症化しやすく、持病を含めて他の病気と併発している可能性があります。前述のような意識障害がある場合には、まず涼しいところに移動させ、救急車を呼ぶなどして早期に対処しましょう。
独居かつ高齢の方は、熱中症にならないような環境を心がけること、そして以上のような症状がみられ、熱中症を疑う場合にはただちに対処することが大切です。また、熱中症は放置すると命の危険もあるため、正しい応急処置の方法を知ることが重要です。記事2『高齢者の熱中症を予防する方法・熱中症を疑うときの応急処置』では、熱中症の予防と応急処置についてご紹介しています。
医療法人社団ときわ 理事長、医療法人社団ときわ 赤羽在宅クリニック 院長
2008年、東京大学医学部卒業。卒業後の2年間の研修医生活のなかで多くの矛盾や課題を発見したことがきっかけで、初期臨床研修終了後は医療制度・政策を研究するためすぐに東京大学大学院に進学し、公衆衛生学を学ぶ。在宅医療には大学院生時代のアルバイトから携わる。医療の矛盾や課題は、在宅医療という形でも解決できると考え、以後、在宅医療を専門とする診療所で院長として診療に従事。約300名の主治医として、患者さんに寄り添った診療を提供。より質の高い在宅医療を多くの方に提供するため、2016年9月に在宅医療を専門とする「赤羽在宅クリニック」を開業し、日々診療に邁進している。
小畑 正孝 先生の所属医療機関