インタビュー

単純なめまいの症状や治療法――緊急性の高いめまいを見逃さないポイントや漢方治療について

単純なめまいの症状や治療法――緊急性の高いめまいを見逃さないポイントや漢方治療について
佐藤 公輝 先生

市立旭川病院 耳鼻咽喉科

佐藤 公輝 先生

目次
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急にめまいが起こって、慌ててしまった経験がある方もいるのではないでしょうか。耳の病気が原因で起こるめまいであれば、安静にしていれば徐々に症状が落ち着いてくることが多いので、慌てて動き回らないことが重要になります。しかし、中には命に関わる重篤な病気がめまいの原因になっていることもあるため、めまいがある場合にはきちんと病院を受診することが大切です。

今回は、市立旭川病院 耳鼻咽喉科(じびいんこうか)佐藤 公輝(さとう まさき)先生に、単純なめまいの症状や緊急性の高いめまいを見逃さないためのポイント、漢方をはじめとする治療法などについてお話を伺いました。

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めまいは、体の平衡感覚の機能異常といえるでしょう。医学的には内耳にある前庭や三半規管の機能異常と説明されますが、機能異常が起こっている証拠を捉えられない例も多数あります。

めまいは、原因や症状によって以下の4つに区分すると分かりやすいでしょう。

めまいに加えて吐き気や嘔吐が現れ、時間の経過とともに改善する場合は、単純なめまいに区分されます。単純なめまいの代表例として、良性発作性頭位めまい症が挙げられます。実際にめまいの症状で耳鼻咽喉科を受診する患者さんの半数ほどが良性発作性頭位めまい症と診断されるため、頻度の高いめまいと考えてよいでしょう。

難聴を伴うめまいの原因として、突発性難聴やメニエール病、中耳炎などが挙げられます。難聴を伴うめまいの場合には、治療の重点は聴力の改善になります。

脳梗塞や脳出血の症状の1つとして、めまい(中枢性めまい症)が現れることもあります。この場合は、すぐに脳神経外科を受診ください。脳出血の場合には強い頭痛を伴うことが多いので分かりやすいですが、一部の脳梗塞は初期診断が難しい場合もあります。

上記以外に、内科的な問題による症状としてめまいが生じることもあります。内科疾患によるめまいとしては、不整脈や心疾患、栄養不良などが挙げられます。このような場合には、めまいを引き起こす原因となっている病気の治療が優先されます。

単純なめまいに多い訴えとしては、目が回ってしまい立てない、歩けない、あるいはふらつくといった症状が挙げられます。回転性めまい(自分あるいは周囲が回っているように感じるめまい)では、多くの場合で吐き気や嘔吐を伴います。

めまいの症状の強さはさまざまで、救急車で病院に運び込まれる方もいれば、自力で診察室まで歩いて来られる方もいます。めまいの症状の強さと病状の深刻さは一致しません。逆に、嘔吐したから、立てないからといって重症なめまいとは限らないという点は大事なポイントといえるでしょう。

めまいやそれに伴う症状が続く期間もさまざまです。単純なめまいであれば、短くて2〜3日、長くても1〜2か月と考えてよいでしょう。

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めまいがある場合、その原因が緊急性の高い病気かどうかを鑑別することが重要となります。脳血管疾患が原因の場合には、早期に治療しなければ命の危険や麻痺といった後遺症が残る可能性があるからです。

我々耳鼻咽喉科医がめまいの診察の際にもっとも気を遣うのが、脳梗塞脳出血といった脳血管疾患の有無です。耳鼻咽喉科では単純なめまいに吐き気や嘔吐はつきものと考えるため、そのほかの症状があれば単純なめまい以外の病気を想定します。

脳出血が原因の場合、強い頭痛や意識障害といった症状が出ることが多いので、めまいとして耳鼻咽喉科を受診される患者さんは非常に少ないものの、小脳梗塞によるめまいなどは初期診断が難しい場合もあるため慎重に診察を行います。

めまいや吐き気・嘔吐以外に、頭痛や構音障害(ろれつが回らない)、手足の運動麻痺、強いしびれなどがある場合には脳血管疾患を疑って、すぐに脳神経外科を受診ください。通常のめまいでは、意識消失は起こらないことも覚えておくとよいでしょう。

単純なめまいは時間の経過とともに症状が改善することが多いです。しかし、まれにめまい以外の症状がほとんどない脳梗塞や、自覚はないけれど聴力障害を発症していることもあるため、一度は病院でご相談いただくことをおすすめします。脳血管疾患を疑う症状がない場合には、耳鼻咽喉科を受診いただければよいと思います。

耳鼻咽喉科では、まず脳の病気の可能性がないかどうかを確認し、問題がなければ聴力検査や眼振検査を行います。聴力検査では難聴の有無を、眼振検査では黒目の動きをチェックします。

単純なめまいの主な治療法は、薬物療法、理学療法、運動療法です。以下では、それぞれの治療法についてご説明します。

めまいに対する薬物療法では、西洋薬に加えて漢方も多く使用されています。漢方には不調を改善するだけでなく体質を改善させるはたらきも期待できるため、私は漢方を積極的に処方しています。

漢方を用いた薬物療法

漢方では、“気”という生命を維持するエネルギー、“血”という全身に栄養を運ぶ血液、“水”という血液以外の体液の存在を想定して、これら3つの要素から症状の原因を探りますが、漢方ではめまいの症状を“水の異常”と捉えます。

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そのため主症状がめまいであれば、いくつかある利水剤(水の異常を改善する方剤)の中から患者さんのめまいに合うと考えられる方剤を選択します。西洋医学的には同じ“めまい”であっても、漢方では患者さんの体質の違いで処方内容が変わる点が特徴です。具体的には、吐き気を伴うか、胃腸虚弱があるかを診察で確認し、患者さんにより適した漢方を処方します。

漢方の効果判定

漢方では、基本的に患者さんの訴えを重視して効果判定を行います。漢方の種類にもよりますが、1~2週間ほどで効果を実感できる方が多いです。

なお、めまいの治療に使う漢方は、体の中にたまっている余分な水分を体外に排出させる作用も持っています。そのため、めまいに限らずむくみといった症状の改善も期待できます。

ただし、全てのめまいに対して利水剤が有効かというと必ずしもそうではありません。漢方ではめまいは水の異常と関係があると考えられていますが、それ以外の体質によってめまいが引き起こされている症例も少なからずあることが分かっています。たとえば、更年期障害の治療に用いられる漢方でめまいが治る例もあるため、いくつかの漢方薬をあれこれとお試しいただく方もおられます。

めまいの原因が良性発作性頭位めまい症の場合には、理学療法が適応となります。良性発作性頭位めまい症は三半規管内に耳石(炭酸カルシウムの結晶)が入ってしまうことで起こると考えられているので、理学療法では頭を規則的に動かすことにより、耳石の位置を移動させて症状の改善を図ります。なお、理学療法は基本的に医師や理学療法士の指導の下で行われます。

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目を動かす運動やつま先立ち、片足立ちなどを継続して行うことで、めまいやふらつきの改善が期待できます。また、日々の運動はめまいの予防にもつながります。ラジオ体操などの軽い運動で十分だと思いますので、毎日体を動かすことをおすすめします。

症状がめまいのみ、もしくは、めまいと吐き気・嘔吐のみの場合、基本的には命に関わる病気の可能性はほとんどありません。しかし、まれに小脳梗塞などの緊急性を要する病気が隠れていたり、気付かないうちに聴力が低下したりしていることもありますので、めまいの症状が出た方は、一度耳鼻咽喉科を受診ください。

単純なめまいで注意したいことは転倒です。めまいそのものよりも、転倒によって骨折してしまうことのほうがよほど重大事といえます。また、めまいは薬を飲み始めてからすぐに治まるわけではなく、症状が落ち着くまで数日から2週間程度はかかります。治療期間中は転倒予防に努めながら、慌てず行動していただきたいと思います。

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