北多摩西部に位置する東京都東大和市の東大和病院は、市民病院としての役割を担っています。急性期医療を中心に提供している同院は、循環器疾患・消化器疾患・脳神経疾患を3本柱に呼吸器内科・外科や整形外科、乳腺外科などの幅広い診療科を備えています。院長の野地智先生は先進医療と地域医療の両方を推し進め、大和会の目指す「地域完結型医療」への貢献を強力に目指す一方、近年は低侵襲治療に注力し、大腸がんに対するロボット支援手術もスタートさせました。また、地域で暮らす外国の方にも日本人と同等の安心で安全な医療を提供するために新たな組織を立ち上げるなど、地域医療の充実に努めている同院について、野地先生にお話を伺いました。
当院は病床数284床を有し23科を標榜する、東京都紹介受診重点医療機関です。併設の東大和病院附属セントラルクリニックが健診や紹介状を持たない患者さんの診療を担っており、協力して医療を提供しています。東大和市は人口8万5,000人余りですが、市内だけでなく近隣の東村山市、武蔵村山市、立川市、小平市からも多くの患者さんが来られます。隣に位置する武蔵村山市には同法人の武蔵村山病院があり、小児科、産婦人科、皮膚科、眼科などの東大和病院にはない診療科を有することから、両病院で補い合いながら市民病院としての役割を果たし、北多摩西部医療圏内の約16万人以上に医療を提供しています。
当院の柱の1つは救急医療で、東京都の二次救急指定病院として24時間「断らない救急」を心がけています。とくに急ぎの対応が求められる心血管疾患と脳血管疾患と救急の患者さんには、専門医師が当番制で24時間365日対応しています。心血管疾患では迅速な収容を担う東京都CCUネットワークに加盟しているほか、脳血管疾患については日本脳卒中学会から一次脳卒中センター(PSC)に認定されています。また東京都脳卒中急性期医療機関の1つでもあり、t-PA療法(血栓溶解療法)を行っています。
近年はカテーテル治療をはじめとする低侵襲治療に一層力を入れています。循環器科は不整脈専門の医師を迎え不整脈のアブレーション手術を積極的に行うようになったほか、動脈瘤のステントグラフト治療にも取り組んでいます。また呼吸器外科は胸腔鏡下の区域切除に先駆的に取り組み、先進の単項式手術で実績を重ねています。2024年4月に手術支援ロボットを導入し、消化器外科で手術支援ロボットによる直腸がんと結腸がんの手術を開始しました。今後、他の診療科にも適用を広げていく予定です。
当院では内科と外科の垣根を取り払い、多職種のチーム医療で地域に貢献したいと考えています。例えば、循環器科では内科・外科合同でハートチームを結成しました。また、最近は心不全で入院する患者さんが非常に増えている状況があり、これに対応するためにハートチームとは別に医師・看護師・薬剤師などが中心となって心不全チームを結成し、心不全の療養に対応しています。
また、脳神経内科・外科は認定看護師を加えたチームで認知症に対応し、東京都認知症疾患医療センターの機能も整備しました。
消化器科・呼吸器科なども同様で、内科・外科合同で医師がカンファレンスを行い、効率よくトレンドを学ぶことができています。
整形外科の医師を中心に看護師・管理栄養士・理学療法士・作業療法士などの多職種で構成している骨粗鬆症リエゾンチームでは、パンフレットや動画を作成し、イベント会場で講座や骨粗鬆症の簡易検査を行うなど、啓発活動に力を入れています。2024年には国際骨粗鬆症財団から「脆弱性骨折の二次骨折予防のためのベストプラクティスフレームワーク」で都内の病院で初めての最高評価である“ゴールド認定”を受けました。今後も、高齢化によりますます患者さんが増えていくであろう骨粗鬆症の予防に力を入れて取り組んでいきます。
内科の強みとしては、糖尿病・内分泌内科に、日本糖尿病学会認定糖尿病専門医が3名在籍していることが挙げられます。当院の規模感の病院ではかなり充実した布陣と言えるのではないでしょうか。こちらも医師や管理栄養士がチームとなって、糖尿病の患者さんが気軽に参加できるイベントを積極的に行っています。
日本で暮らす外国人の患者さんが今後さらに増えることを見越して、法人内に「国際医療支援室」を作りました。今のところ中国をはじめとしたアジア系の患者さんが目立って多いのですが、この支援室を構えることで、日本語のわからない方にもぜひ健診を受けていただきたいのです。慣れない環境で生活している外国の方が医療を受けにくいような状態があるとしたら、私たち医療者が受診しやすい環境の整備に主体的に動く必要があると思います。
また、昨年からPFM(ペイシェントフローマネジメント)の再構築に注力しているところです。入院前から患者さんの情報を把握し、早期から問題解決に取り組むことを標準化する動きです。患者支援センターを中心に、ソーシャルワーカーや専任の看護師が連携し、患者さんとそのご家族を適切にサポートしています。
当院の歩みを振り返ると、今はかつての病院完結型医療から地域完結型医療への転換期だと思います。病理解剖室と細菌検査室を設置して2016年に地域医療支援病院の承認を受けたのも、そうした認識に根差した体制づくりの一環でした。今後もこの地域を支える急性期病院として、先進医療などにも積極的に取り組む一方、地域で開業する先生方と顔の見える連携を積極的に行いながら、皆さんに親しまれる市民病院的な役割を果たしてまいります。