院長インタビュー

“人生100年を支える人中心の医療”の提供を目指し、人と地域と医療をつなぐ――社会保険田川病院

“人生100年を支える人中心の医療”の提供を目指し、人と地域と医療をつなぐ――社会保険田川病院
メディカルノート編集部  [取材]

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福岡県田川市に位置する社会保険田川病院は、救急医療をはじめとする急性期医療を中心に、リハビリテーションや在宅医療、予防医療、介護事業など幅広く展開し、包括的に地域の医療を支えています。“人と地域と医療をつなぐ”をキーワードに、地域の方々が安心して暮らせる医療の提供を目指す同院について、院長の黒松 肇(くろまつ はじめ)先生にお話を伺いました。

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病院外観(社会保険田川病院ご提供)

地域の皆さんにとって当院は、救急などを受け入れる“急性期の病院”というイメージが強いかもしれませんが、現在は地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟を有する地域密着型の多機能病院へと変わっています。

当院は、急性期医療から在宅までトータルに治し、支える医療提供を目指し、“人と地域と医療をつなぐ”役割を果たしていきたいと考えています。

内科は、消化器内科、呼吸器内科、循環器内科、内分泌・糖尿病内科の専門科を有しております。高齢化が進む田川地域で多いコモンディジーズ(日常の診療でよくみられる病気)に総合的に対応しており、大腸や胃の病気をはじめさまざまな病気を診療しています。また、内科系の統括である相野 一(あいの はじめ)副院長は、田川市郡で唯一の肝臓の専門医(日本肝臓学会認定)でもあり(2024年8月時点)、肝動脈化学塞栓(そくせん)療法(TACE)など専門性の高い治療も行っています。

外科は、消化器外科、乳腺外科の専門科を有しております。消化器外科を専門とする医師が多く在籍しており、中でも胃がん大腸がんを専門とする木﨑 潤也(きざき じゅんや)副院長は、診療だけでなく後進の育成にも精力的に取り組んでいます。

当院は地域がん診療連携拠点病院として指定を受けており、手術、化学療法、放射線治療を組み合わせたグローバルスタンダードながん治療を行っています。今後さらに、がん患者さんがこの地域で標準的な治療を受けられるよう、木﨑副院長は自ら講演会に登壇するなど、地域活動にも精力的に取り組んでいます。

さらに、当院には筑豊地域で数少ない乳腺外科の専門医(日本乳癌学会認定)が在籍しており、乳がんの治療はもちろん、木﨑副院長とともに地域での講演などの活動にも積極的に取り組んでいます。

整形外科では、高齢者に多い大腿骨(だいたいこつ)骨折を中心に、大学病院のバックアップも受けながら日々、外傷系疾患に対応しています。また当院では、骨折手術後のリハビリテーションを重点的に行う、回復期リハビリテーション病棟を有しており、理学療法士等の専門スタッフが密度の高いリハビリテーションを行います。他の病院に転院することなく、手術に引き続き当院でリハビリを行い、在宅復帰を支えています。

当院は一次脳卒中センター(PSC)として指定されており、地域の医療機関や救急隊からの要請に対して24時間365日脳卒中患者を受け入れ、可及的速やかに診療(rt-PA静注療法を含む)を開始できる施設となっています。また2023年4月からは機械的血栓回収療法も実施しており、筑豊全域での脳卒中治療に貢献できるよう努めております。現在4名体制なので、働き方改革の最中、この体制を組むのは大変な苦労を伴います。しかし、当院の限られたリソースを最大限に効率的・効果的に発揮できるよう2024年5月からは、隣接医療圏にある飯塚病院と連携して、飯塚地区の脳卒中救急の受け入れも週に1回は当院が担当するという取り組みを行っています。

そのほかにも、当院の脳神経外科にはてんかんの専門医(日本てんかん学会認定)が在籍しているため、幅広い中枢神経疾患に対応が可能です。また整形外科同様、院内にある回復期リハビリテーション病棟で集中的にリハビリテーションを行うことができるため、急性期から回復期へ切れ目のない医療提供が可能となっています。

取り上げた診療科以外にも、歯科ロ腔外科、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)、皮膚科、形成外科、小児科、緩和ケア内科、放射線治療科、病理診断科の常勤医が在籍しており、婦人科には大学病院で教授を務められていた医師が在籍していることから、腹腔(ふくくう)鏡下手術などを積極的に行っています。また、産科では2017年より院内助産所を開設しており、助産院のような自然でアットホームな環境に加え、医療設備も整っているという安心感のあるお産が可能となっています。さらに、回復期の診療科では、リハビリテーション科、老年内科の常勤医が在籍しており、急性期から回復期へワンストップな体制を築いています。

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院内助産所(社会保険田川病院ご提供)

高齢化や人口減少の問題はこの地域でも大きな課題となっており、求められる医療が変化したり、医療従事者の人材が不足したりといった、さまざまな問題が生まれています。求められる医療の変化については、高齢者の増加により1人で複数の病気を抱える患者さんが増えており、急性期の治療を行うだけでなく回復期のリハビリテーションや、在宅復帰支援、在宅療養を支える機能も同時に行う必要が出てきました。しかし、この地域では回復期医療や在宅医療の機能も不足しており、さらに健診をはじめとする予防医療も行き届いていないため、それらに対応する必要があります。

そうしたなかで、当院の真の使命とは何か、地域の皆さんにとってどのような病院となることがよいのか、この先のビジョンを経営陣や管理職などみんなで一緒に考えてきました。そして、たどり着いたのが“地域住民の身近な存在として、健康と命を守り、安心を届けることである。そして、地域の活力を生み出すことである。”という使命です。

身近な存在というのは、急性期医療を中心としてきた当院がもっともっと地域に密着し、橋渡しの機能を担わないといけないという思いから出てきた言葉です。また、地域の健康を守り、支援を行っていくという意味で“健康”という言葉を入れたのも非常に重要な意味があります。これは、健診にも力を入れていくという起点にもなるもので、実際に地域に不足する施設型健診を拡大する目的で、健康管理センターを開設しました。さらに、活力という言葉を入れたのは、治し支える医療のその先にある、“地域の活力”を取り戻したいという願いを込めたものです。

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健診センター(社会保険田川病院ご提供)

これらのビジョンに『人生100年を支える人中心の医療』とタイトルを付け1つの書物としてまとめました。略して“ひとちゅう”です。この書物は職員全員に配り、説明会や動画を用いて周知に尽力しています。今年(2024 年)は、コロナ禍後でさらに内外の状況が変化していることを踏まえ、この"ひとちゅう"の内容の見直しを行う予定です。

2021年より地域包括ケア病床を増床し、“お家に帰ろ。”をコンセプトに、病院と在宅をつなぐ役割を果たせるよう努めています。また、地域の在宅医療をさらに支えていけるよう、在宅療養後方支援病院としての届け出を行いました。在宅療養後方支援病院とは、在宅医療を行っている開業医の先生方と連携し、緊急時の入院先としてあらかじめ登録をしておくことで、入院の受け入れなどに対応する病院です。現在、20人以上の在宅医の先生にご登録いただいており、月に3~4人程の入院を受け入れています。

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病院救急車(社会保険田川病院ご提供)

当院では、2023年11月から病院専用の救急車を運用しています。主に高度急性期病院などからの搬送(下り搬送)や、回復期における転院、地域のかかりつけ医や在宅医からの紹介時のお迎えなどに応じ、出動しています。

2024年7月末時点で、累計199件の出動、入院患者数は111人となっています。

前出の“ひとちゅう”の中でも特に意識的に謳ってきたのは、地域との交流です。病院という場所は、“できるだけ行きたくない場所”であり、ただでさえ敷居が高いと思われがちです。しかし、できるだけ当院のことを知ってもらい、“地元で受けられる治療は、地元で”という思いから、地域との関わりを積極的に行っていこうとさまざまな取り組みを行っています。

イベントへの参加や新たなイベントの企画も

2023年4月には地元の商店街である後藤寺商店街で行われた『ごとうじ祭』に病院として出店しました。アーケードの中に救急車を停車させ住民の方に開放したところ、子どもたちに大人気となりました。また、健診で使っている体内計測装置を用い、保健師による健康指導や理学療法士による運動相談なども行いました。1日で100人以上の参加者があり、大変好評でした。

そのほかにも、当院の緩和ケア内科部長である佐野 智美(さの ともみ)医師が参画する福岡県の「がん検診啓蒙におけるメッセージカード事業」にて、田川市郡の高校でがん検診の重要性の講義を行い、生徒たちの親御さんにメッセージカードを渡してもらうという企画もありました。

今後もこのようなさまざまな地域に密着したイベントを企画しており、たとえば病院内に地域の住民の皆さんを招待して行う病院祭、またお寺と組んで“縁起でもない集い”と称した終活マルシェイベントを行い、どのような医療やケアを受けたいかを患者さんとご家族、当院スタッフで話し合うACP (アドバンス・ケア・プランニング)の重要性を啓蒙しようと考えています。また、コロナ禍で中止していた住民向けの健康講座も、院内ではなく地域に出て行って開催できればと思っています。

『ひとちゅう新聞』をきっかけに

地域住民の皆さん向けに、当院でどのような治療や取り組みを行っているか、広く知っていただく目的で『ひとちゅう新聞』という新聞を作成し、お届けしています。新聞を読んだ方からお手紙をいただいたり、実際に治療を受けに来られた方もおり、大切な広報ツールとなっています。

当院が目指すべき姿は、「田川病院があってよかった」と言ってもらえる存在であり続けることであり、そのためには“地域からもっとも信頼される存在”となることが大切だと考えています。これからも、地域の皆さんが真に求める医療を追求し、予防医療から急性期、リハビリテーション、在宅までシームレスな医療の提供と、地域の医療機関や介護事業者、地域社会全体との連携、地域の皆さんとのつながりを大切に、“人と地域と医療をつなぐ”病院を目指してまいります。

*病床数や診療科、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年8月時点のものです。

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