インタビュー

アトピー性皮膚炎のコントロール状態を把握し、よりよい治療の選択に生かす――セルフチェックツールの活用方法とは?

アトピー性皮膚炎のコントロール状態を把握し、よりよい治療の選択に生かす――セルフチェックツールの活用方法とは?
中原 剛士 先生

九州大学大学院医学研究院皮膚科学分野 教授、九州大学病院 皮膚科 科長

中原 剛士 先生

目次
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アトピー性皮膚炎の主な症状はかゆみを伴う湿疹で、よくなったり悪くなったりを繰り返します。一昔前までは治療法が限られていましたが、近年は新たな治療法が登場し、治療選択肢が増えています。適切な治療を受けるには、自分自身の重症度やコントロールの状態を把握し、医師と認識を共有することが大切です。

今回は、九州大学大学院医学研究院 皮膚科学分野 教授の中原 剛士(なかはら たけし)先生に、症状の把握に役立つセルフチェックツールの活用方法を中心にお話を伺いました。

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アトピー性皮膚炎かゆみを伴う湿疹が出る病気で、皮膚のバリア機能の異常、炎症、かゆみの3要素が関連して発症します。

3つの要素の悪循環がアトピー性皮膚炎を長引かせる

アトピー性皮膚炎は生まれつき、皮膚が乾燥しやすく、皮膚のバリア機能が弱い方に多くみられます。皮膚のバリア機能が弱いと異物が皮膚の中に侵入しやすくなり、異物から体を守ろうとする免疫反応により炎症が起こります。皮膚の炎症が起こるとかゆみが生じ、皮膚をかいてしまいます。すると、皮膚が傷ついて炎症が悪化したり、バリア機能を弱めたりします。この悪循環がアトピー性皮膚炎を長引かせる要因になっています。

皮膚内部に潜む炎症が再燃し、症状がぶり返す

アトピー性皮膚炎の患者さんはアレルギーを起こしやすい(免疫が敏感に反応しやすい)体質の方が多く、外用薬で皮膚の症状がある程度抑えられていても、何らかの刺激により再び炎症を起こしやすいといえます。皮膚の表面は治ったように見えても皮膚の内部に潜在的な炎症が残っており、ちょっとした刺激で再び炎症が起こると上記の悪循環に陥ってしまいます。そのため、よくなったり悪くなったりを繰り返してしまうのです。

一般に、湿疹やかゆみが治まり皮膚の見た目が改善され、触ったときのざらつきがなくなりすべすべした感触になれば寛解といえるでしょう。皮膚をつまんでみて腫れぼったさや硬さを感じなければ、皮膚の内部まで状態がよくなっていると判断できます。

症状を悪化させる要因はさまざまで、ほこりに敏感な方、汗をかくとかゆみが増す方、衣類の刺激に弱い方もいれば、ストレスの影響を受けやすい方もいます。また、体を洗うせっけんや洗浄剤により悪化するケースもあります。日常生活のあらゆる場面に悪化の要因が潜んでいるため、ご自身が何によって影響を受けやすいか知り、なるべくそれを避けるよう行動するとよいでしょう。

皮膚は体の一番外側にあり、温度や湿度の変化、外部からの刺激にさらされています。そのため、アトピー性皮膚炎がない方でも季節の変化などによりコンディションがよくなったり悪くなったりと波があり、常によい状態を保つのは難しいといえます。アトピー性皮膚炎の方は、環境や外部からの刺激に敏感であるため、その波が大きく現れやすいのです。

アトピー性皮膚炎は幼少期に発症し、年齢とともに治まる傾向があります。しかし、中には成人型のアトピー性皮膚炎に移行する方もいて、20~30歳代以降の患者さんも少なくありません。

成人の患者さんに話を聞くと、さまざまな経過をたどっていることが分かります。幼少期に発症し、いったん治まっても受験や就職活動などのストレスでぶり返してしまう方もいれば、少数ながら成人以降に発症する方もいるようです。また、重症化している患者さんの中には、幼少期に発症してから状態がよくなった経験がほとんどないとおっしゃる方もいます。

アトピー性皮膚炎の治療では、近年、医師による症状の評価に加えて患者さん自身による症状の評価が重要だとの認識が広がり、自己評価のためのさまざまな指標が開発されてきました。その中で主に使われているのが、ADCTとPOEMです。

ADCTは患者さんが過去の1週間を振り返り、症状を多面的かつ包括的に評価するための指標で、下記の6項目について5段階(0〜4点)で評価します。合計点数が7点以上であれば、症状がうまくコントロールされていないことになります。また、前回のスコアから合計点数が5点以上増加している場合は、症状のコントロールが悪化している可能性があります。簡単に回答でき、点数化できるため、症状のコントロールができているかが分かりやすいというメリットがあります。また、それぞれの項目に答えるうちに、日常生活での活動が制限されていたこと、気分が落ち込んでいたことなどに患者さん自身が気付くことができます。それが医師にも伝わりやすくなるため、コミュニケーションツールとして有用です。

この評価によりコントロール状態が悪いと分かれば、外用薬をしっかり塗れているかどうか確認したり、患者さんの視点を加味して薬の変更を検討したりして治療の強化を図るケースもあります。また、開業医の先生方が患者さんを大学病院などに紹介される際の指標にもなり得るでしょう。

【ADCTの質問項目】

(1)この1週間、アトピー性皮膚炎の症状(かゆみ、乾燥、発疹(ほっしん)など)はどの程度だったか。

(2)この1週間、アトピー性皮膚炎により激しいかゆみが起こった日が何日あったか。

(3)この1週間、アトピー性皮膚炎にどの程度悩まされたか。

(4)この1週間、アトピー性皮膚炎のために寝付けない、または途中で目が覚めることが何日あったか。

(5)この1週間、アトピー性皮膚炎が日常の活動にどの程度影響したか。

(6)この1週間、アトピー性皮膚炎が気分や感情にどの程度影響したか。

POEMも患者さん自身が過去の1週間を振り返って病気を評価する指標で、下記の7項目について5段階(0~4点)で評価します。ADCTと共通する項目もありますが、7項目中5項目が皮膚の状態を具体的に評価するものであり、皮膚の詳しい状態の評価を重視した指標といえます。合計0〜2点が異常なし、または軽微、3〜7点が軽症、8〜16点が中等症、17〜24点が重症、25〜28点が最重症となります。もちろん、点数はそのときどきの状態によって上下しますが、治療では2~3点あたりを目標にします。軽症の範囲内で推移し、かつ患者さん自身が大きな問題を抱えていなければ今の治療を継続し、中等症レベルの評価が続くようであればほかの治療法を検討するなど、治療の方向性の変更を考える目安になります。

症状の変化が大きいけれども頻繁に通院するのが難しい患者さんの場合、受診の合間にPOEMを活用すれば、皮膚症状の変化について医師と患者さんが一定程度の共通した認識を持てるようになります。こまめに診察できない部分をカバーできるという意味でも有用な指標といえるでしょう。

【POEMの質問項目】

(1)この1週間、湿疹のためにかゆみがあった日が何日あったか。

(2)この1週間、湿疹のために夜間の睡眠が妨げられた日が何日あったか。

(3)この1週間、湿疹のために出血した日が何日あったか。

(4)この1週間、湿疹のために皮膚がジクジクした(透明な液体がにじみ出た)日が何日あったか。

(5)この1週間、湿疹のために皮膚にひび割れができた日が何日あったか。

(6)この1週間、湿疹のために皮膚がポロポロと剥がれ落ちた日が何日あったか。

(7)この1週間、湿疹のために皮膚が乾燥している、またはざらざらしていると感じた日が何日あったか。

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患者さんと医師、双方の気付きにつながる

ADCTやPOEMといった指標を使って病気を評価すると、患者さん自身が治療の効果を認識できたり、皮膚症状だけでなく精神面や日常生活への影響にあらためて気付いたりできるというメリットがあります。当院を受診されている患者さんには、診察前の待ち時間にチェックしていただいたり、診察時にお話ししながらチェックしていただいたりしています。患者さん自身の評価を医師も共有できるため、目に見える皮膚症状の把握に加え、患者さんがどのようなことに悩んでいるのか、具体的に話を聞くきっかけになります。そのうえでその方に合った治療を選択できれば、症状の改善のみならずQOL(生活の質)の改善にもつながるでしょう。

これまでの治療を見直すきっかけになる

2018年に生物学的製剤のデュピルマブ(注射薬)が登場して以来、アトピー性皮膚炎の治療薬は飛躍的に進化しています。少し前までは諦めるしかなかった状態でも、改善できる可能性が高まっているのです。

患者さんの中には、とりあえず今の治療を続けていればよいだろうと考えている方もいると思います。しかし、症状のコントロールがうまくいっていないと患者さん自身が気付くことで、医師の側からも治療の見直しを提案しやすくなります。また、患者さんが「今の治療のままでいい」とおっしゃるときは、治療に満足されている場合もあれば、こんなものだろうと諦めてしまっている場合もあるでしょう。特に長く治療を続けている方には、新しい治療法についてもぜひ知っていただきたいです。ADCTやPOEMによるセルフチェックにより、治療を見直すきっかけになればと思っています。

ADCTやPOEMはインターネットで簡単に入手できて気軽に使えるため、私は診ている患者さんに使っていただくだけでなく、市民公開講座などで講演する機会に一般の患者さんや開業医の先生方にもご紹介しています。アトピー性皮膚炎は何か1つの数値だけで重症度を測れる病気ではないため、患者さんと医師、または医師同士で病状について共通認識を持てる評価指標は大変有用です。診察時に毎回使う、あるいは定期的に使うというよりは、コントロール状態が悪いときや気になることがあるときなどに活用し、治療法の検討に生かしていくとよいでしょう。

一方、重症の患者さんなど、頻繁に状態を確認したほうがよい方であっても、諸事情により1か月に1回しか来院できないといった場合があります。そのような方には、次の受診日までの間に1~2回ご自身でチェックしていただき、結果を知らせていただくといった活用法も考えられます。

アトピー性皮膚炎の評価には、医師自身が皮疹を評価する“EASI”、血液の病勢マーカーである“TARC”、患者さん自身がかゆみを評価する“そう痒NRS”といった指標もあります。これらの指標を治療の場面に合わせて活用しています。

EASIは、頭頸部(とうけいぶ)、体幹、上肢、下肢の4か所それぞれの湿疹の重症度や範囲を測定し、合計したスコアです。治療開始時とある程度治療が進んだタイミングで測定し、治療効果を確認します。また、飲み薬や注射薬を使った全身療法を検討する際にこのスコアが必要になるため、コントロール状態が悪く、ある程度症状が進んできた時点で測定するケースもあります。

TARCは血液検査で炎症の度合いを測るもので、外見からは分からない皮膚内部の潜在的な炎症を把握できます。皮膚の状態が良好に見えてもTARCの数値が高いと症状がぶり返しやすくなるため、視診や触診と組み合わせて治療法の検討材料とします。また、炎症の度合いが数値で分かるため、治療開始時と次の受診日に測定して数値から効果を確認したり、定期的に測定して治療の成果を患者さんと共有したりすることもあります。

そう痒NRSは、過去24時間でもっともひどかったかゆみについて患者さんに0~10点の間で答えていただくものです。アトピー性皮膚炎では、外見上の皮膚の症状以上に患者さんがつらいと感じるのはかゆみだといわれており、患者さんの感覚でかゆみを評価する指標は非常に有用です。

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アトピー性皮膚炎の治療は症状に応じて、薬による治療、スキンケア、悪化要因への対策の3つを組み合わせて行っていきます。このうち薬による治療には、下記のように塗り薬による外用療法と、飲み薬や注射、紫外線療法といった全身療法があり、患者さんの状態に合わせて選択します。

外用療法

ステロイド外用薬、カルシニューリン阻害外用薬、JAK阻害外用薬、PDE4阻害薬

全身療法

炎症やかゆみを抑える飲み薬(カルシニューリン阻害内服薬、JAK阻害内服薬)、生物学的製剤の注射、紫外線療法(ナローバンドUVB療法など)

アトピー性皮膚炎の治療の基本は外用療法(塗り薬)です。医師が薬を処方して塗る量の目安をお伝えし、患者さん主体で治療を行います。皮膚の炎症が抑えられてきたら、徐々に塗る量、塗る回数を減らしていきます。

アトピー性皮膚炎の治療では、症状によってはほぼ全身に薬を塗る必要があり、これは大変な作業です。一定期間が経過しても症状を思うようにコントロールできない場合、薬をしっかり塗れていない可能性も考えられるため、患者さんとともに塗り方を再度確認し、改善を促していきます。塗り方を見直すことで状態がよくなる方も少なくありません。そのうえで改善がみられない場合には、全身療法を検討します。

ただし、患者さんによっては日々の生活の中で継続的に全身に丁寧に薬を塗るのが難しい状況にある方もいます。個々の患者さんの状況を理解し、それぞれの患者さんが実現可能なアドヒアランス(患者さんとともに決定した治療方針に沿った治療)を設定することも重要です。

アトピー性皮膚炎の治療の基本は塗り薬であり、よい状態を保つには薬を正しく使い続ける必要があります。塗り薬は今ある炎症やかゆみを抑えるだけでなく、冒頭で述べた皮膚のバリア機能の異常、アレルギー炎症、かゆみという3要素の悪循環を断ち切るという意味もあるのです。長い間、塗り薬で症状がうまくコントロールできていない方は、医師に相談しながらできる範囲で塗り方を見直してみるようおすすめします。

また、アトピー性皮膚炎は、食事や生活リズムの変化など日常生活のさまざまな要因によって悪化する可能性があります。最近の生活を振り返ってみて、悪化の要因が分かれば、それを避けるよう心がけましょう。なんとなく調子が悪いが原因が思い当たらないという場合には、医師に相談してください。お話を伺う中で原因を突き止められるかもしれません。

アトピー性皮膚炎の治療は、さまざまな指標を使うなどしてご自身の症状を把握し、医師と認識を共有しながら、自分に合った治療を諦めずに継続することが重要です。近年、新たな薬の開発が進み、治療の選択肢が増えています。今まで以上によい状態に進める可能性があることを知っていただきたいと思います。また、皮膚症状に限らず、日常生活での困りごと、悩みごとを医師と共有することで、治療を見直す際により自分に合った選択ができるでしょう。

そして、皮膚の状態がよくなったとしても、よい状態を長く維持するのは容易ではありません。調子がよいときのケアについても、医師と十分に相談していただきたいと思います。治療を全てやめてしまうのではなく、回数を減らしながらも薬を継続したり、保湿剤を使ったりしてよい状態を保ちつつ、時には受診して皮膚の状態を確認しておくと安心でしょう。

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