インタビュー

アトピー性皮膚炎の発症・進行に関わる皮膚のバリア機能とは

アトピー性皮膚炎の発症・進行に関わる皮膚のバリア機能とは
乃村 俊史 先生

筑波大学 医学医療系 皮膚科 教授

乃村 俊史 先生

目次
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強いかゆみのある湿疹を繰り返すアトピー性皮膚炎。その発症に大きく関わっているのが皮膚のバリア機能です。皮膚が乾燥しバリア機能が低下すると、外部から異物が侵入しやすくなります。その結果、皮膚内で炎症が起こり、かゆみや湿疹を引き起こすのです。そのため、アトピー性皮膚炎の治療では、炎症を取ることと皮膚のバリア機能を回復することが重要です。

今回は筑波大学 医学医療系 皮膚科 教授の乃村 俊史(のむら としふみ)先生に、皮膚のバリア機能の役割やその低下による影響、アトピー性皮膚炎の治療のポイントなどについてお話を伺いました。

アトピー性皮膚炎かゆみを伴う湿疹を主な症状とし、よくなったり悪くなったりを繰り返す病気です。乳児期に多く、最近の論文では一般的に生後3~6か月の間に発症することが多いとされています1)。一般的に、成長とともに患者数は減少していきますが、成人型アトピー性皮膚炎に移行する患者さんも少なくありません。

アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは、体質的にアトピー性皮膚炎になりやすい素質(アトピー素因)を持っています。アトピー素因とは、IgE抗体(アレルギー反応を引き起こす物質)を産生しやすい体質であること、または自分や家族が以下の病気に1つ以上かかったことがあることを意味します。

アトピー性皮膚炎でみられるかゆみは、皮膚のバリア機能の低下によって異物(アレルギーを起こす物質や細菌、ウイルスなど)が皮膚の中に入りこみ、炎症を招くことが一因となります。皮膚をかくことでさらにバリア機能は低下し、炎症が強まり、かゆみも強まるといった悪循環に陥ることもあります。このようにアトピー性皮膚炎では、かゆみ・皮膚のバリア機能の低下・炎症の3つの要素がそれぞれに影響し合っています。ここでは、かゆみと炎症についてみていきます。

アトピー性皮膚炎のかゆみは、むずむず、チクチク、ジリジリといった言葉で表され、通常ではかゆみを引き起こさないような衣服の擦れなどの軽微な刺激でもかゆみを生じたり(いわゆる敏感肌)、かゆみを連想させるようなものを目にしたり耳にしたりするだけでかゆみを生じることがあります。また、体が温まったときや乾燥しているときは、かゆみが強くなります。

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写真:PIXTA

ほかにも、以下のような要因によってかゆみが強くなることがあるとされています。

  • 汗をかく
  • 日焼けをする
  • ダニやほこりへの曝露(ばくろ)*
  • 季節の変わり目
  • ストレスや精神的不安
  • 疲れや睡眠不足
  • 辛い物やお酒などの特定の飲食物の摂取
  • 合わないシャンプーや化粧品の使用
  • チクチクする化学繊維や毛素材の衣類の着用

*曝露:物質に触れたり物質を吸い込んだりすること。

手首、足首、肘裏、膝裏の4か所は炎症がよくみられる部位です。そのほか、手、首、顔などもアトピー性皮膚炎の症状が出やすい部位です。症状が現れやすい部位は年齢によっても異なり、乳児期では顔を中心として全身に、幼小児期では首や手足の関節に症状が現れやすくなります。思春期および成人では頭や顔、首、手などに症状が現れやすいことが知られています。

また、皮膚の見た目は、急性期と慢性期で次のように変化していきます。

急性期

急性期とは、病気を発症したとき、もしくは慢性期に急に悪化したときを指します。この時期には小さな水ぶくれを持つ紅斑(こうはん)(皮膚が赤みを持った状態)や丘疹(きゅうしん)(皮膚が盛り上がったぶつぶつとした状態)が多くみられ、それが潰れて湿潤(しつじゅん)(水っぽくジクジクしたような状態)になります。ジクジクが乾燥してかさぶたのような見た目になることもあります。

慢性期

慢性期とは、病状が長期間にわたって残り、治癒はしていない時期を指します。この時期には、かきむしりを繰り返すことによって皮膚がゴワゴワと厚くなったり(苔癬化(たいせんか))、かゆみを伴う皮膚の盛り上がり(痒疹(ようしん))ができたりします。皮膚の最外層で体を覆っている角質にも乱れが生じ、皮膚が乾燥し、白く粉をふいたような状態(落屑(らくせつ))になります。

アトピー性皮膚炎では2型炎症と呼ばれる炎症が起こっています。2型炎症では、さまざまな刺激によっていろいろな免疫細胞(特にTh2細胞)が活性化され、サイトカインと呼ばれる物質が放出されます。このサイトカインが、皮膚のバリア機能をつくるはたらきを妨げたり、皮膚の中で炎症を起こしたり、かゆみの神経に作用してかゆみを引き起こしたりしているのです。

皮膚のバリア機能の維持に重要な役割を果たしているのは、角質層と呼ばれる皮膚の1番外側を覆っている部分です。“角質=垢”という認識をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、普段その程度しか注目されない角質ですが、実は角質がなければ体中の水分が抜けてしまい、私たち人間は陸地に住むことすらできないのです。それほど重要な役割を持つ角質について説明していきます。

皮膚は外側から表皮、真皮、皮下組織で構成されており、表皮はさらに4層に分かれています。その4層のうちもっとも外側が角質層です。

角質層は、角質細胞と呼ばれる細胞が何層にも積み上がった構造をしており、外部からの刺激や異物の侵入を防いでいます。これが、皮膚のバリア機能です。人間の体は、このバリア機能によって異物の侵入を防ぐほか、体の水分が過剰に出ていくのを防いでいます。

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イラスト:PIXTA

皮膚のバリア機能の低下は、角質層の機能の低下を意味します。角質層をつくるにはフィラグリンというタンパク質の産生が必要ですが、アトピー性皮膚炎では以下の2つの理由からフィラグリンが生産されず皮膚の水分を保てなくなり、バリア機能の低下が起こります。

2型炎症の放置

2型炎症に関わるサイトカインは、表皮の細胞の分化を抑制するとされています。それによってフィラグリンの減少などが引き起こされ、乾燥肌が進みバリア機能が低下します。

遺伝的な背景の影響

フィラグリンの産生に関わる遺伝子の変異が、アトピー性皮膚炎の発症に関わっていることが分かっており、日本ではアトピー性皮膚炎患者さんの約20~30%にフィラグリン遺伝子の変異がみられます。フィラグリン遺伝子が変異すると肌が乾燥しやすい体質になり、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなるのです。

また、日本人の約10%は生まれつきフィラグリン遺伝子に変異を持っているとされています。乾燥肌の方はこの世にたくさんいるかと思いますが、自分の乾燥肌が遺伝で起こっているとはなかなか思わないのではないでしょうか。しかし実際には、日本人の約10人に1人は“遺伝する乾燥肌”なのです。

生活習慣や気候などの環境因子によっても皮膚のバリア機能は低下します。たとえば、冬は低温低湿度になりますが、そこでエアコンや暖房器具を使いすぎるとさらに湿度が下がり、乾燥を招くため注意が必要です。

また入浴時、過度に肌をこすったり体を洗いすぎたりして必要な脂分を取り除いてしまうこともバリア機能を低下させる要因と考えられています。

皮膚のバリア機能が低下すると、感染症にかかるリスクが高まります。また、アレルギーを起こす物質が侵入しやすくなり、アトピー性皮膚炎だけでなく、将来的にもさまざまなアレルギー性疾患にかかるリスクが高まります。

皆さんは、アレルギー・マーチという言葉をご存知でしょうか。アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎といったように、年齢を重ねるごとに次々と異なるアレルギー性疾患にかかってしまう現象です。アレルギー・マーチは皮膚のバリア機能の低下から始まると考えられていますので、できるだけ早く対処することが大切です。

アトピー性皮膚炎において皮膚のバリア機能が低下すると乾燥肌になり、かゆみが引き起こされます。かゆみが強くなることで皮膚をかいて角質の細胞を傷つけてしまい、その刺激によって炎症を起こす物質がさらに放出されてアトピー性皮膚炎は悪化します。皮膚のバリア機能が低下することでさまざまなアレルギー物質が侵入しやすくなりますので、それもアトピー性皮膚炎の悪化につながります。

皮膚内の炎症は、アトピー性皮膚炎が重症であるほど強くなります。ですので、遺伝的背景などで乾燥肌になりやすい方で、かつアトピー性皮膚炎が重症である方は、皮膚のバリア機能がもっとも低下している状態といえるでしょう。

皮膚のバリア機能の低下はアトピー性皮膚炎のさらなる悪化につながりますので、治療によってバリア機能を維持・回復させることが大切です。

皮膚バリア機能の回復は、アトピー性皮膚炎の再発リスクの低減やアレルギー・マーチの予防、皮膚の感染症の予防につながります。皮膚のバリア機能が回復した肌の状態とは、分かりやすく言えば正常な皮膚と比較して触り心地が同じであることです。患者さんには“もちもち肌、すべすべ肌を目指しましょう”などとお伝えしながら、保湿剤やステロイド外用薬、非ステロイド抗炎症外用薬などの塗り薬を使用して治療を進めています。ここからは具体的な治療方法や日常生活でのポイントを説明します。

皮膚のバリア機能を回復・維持するには、肌を保湿するため保湿剤を使用します。保湿剤にはいろいろな剤型がありますので、保湿剤を選択する際は、患者さんにとって使い心地がよく、継続しやすいものを選択するとよいでしょう。その理由としては、保湿剤やステロイド外用薬などの塗り薬を、塗り心地が悪いせいで続けることができず、皮膚のバリア機能が回復しない患者さんも一定数いるからです。

保湿剤には軟膏、クリーム、液状のもの、ムースのような泡で出てくるタイプなどさまざまな種類がありますので、“サラサラしたものがよい”“ベトベトでも平気”といった、患者さんの好みを聞きながら選択し処方しています。

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医師は「1日に2回塗ってください」などと塗り薬を処方しますが、患者さんが1日に2回も貴重な時間を使って塗ることを考える必要があります。“これだったら塗りたい”“心地よい” “続けやすい”と思ってもらえるものを処方すべきだと考えています。

また、患者さんによってはご自分のお気に入りの保湿クリームなどを使いたいという方もおられますので、そういった要望も伺うようにしています。

先ほどもお伝えしたとおり、アトピー性皮膚炎では2型炎症が起こっています。そのため保湿剤やステロイド外用薬などの塗り薬による治療では、2型炎症をしっかりとコントロールすること、かつ適切な保湿ができているかが大切です。

炎症をコントロールするためには、十分な量の薬を塗ることが大切になります。目安は、成人の手のひら2枚分に対しておよそ0.5gですが、これは実際に塗ってみるとけっこうべとつきを感じる量です。これを毎日塗るわけですから、患者さんの好みに合ったものを選択することがとても大切なのです。

適切な治療を行っているにもかかわらず悪化してしまった場合は、患者さんと一緒に原因を探って、明らかなものがあればその対策をします。ただ、原因が分からないことも多いので、そういった場合はまず塗り薬による治療を強化します。たとえば、炎症を抑えるステロイド外用薬は症状の重症度に合ったランクのものに変更します。保湿剤とステロイド外用薬のみで治療をしていてステロイド外用薬の副作用が懸念される場合には、ステロイドとは異なるメカニズムで炎症を抑える非ステロイド外用薬(免疫抑制薬など)などを使用したりして様子を見ます。

塗り薬による治療の強化を行っても効果がみられない場合は、アトピー性皮膚炎の治療に精通した医師の下で、以下のような薬や治療法を追加して、塗り薬と組み合わせた治療を行います。

経口免疫抑制剤

16歳以上で、これまでの治療で十分に効果が得られないような最重症のアトピー性皮膚炎患者さんが使用できます。使用を開始、あるいは再開してから、症状の改善の有無に応じて8週間ないしは12週間以内に休薬する必要があります。

経口ステロイド剤

病気が急に悪化した場合に、ごく短期間に限って使用されることのあるお薬ですが、副作用の懸念があるため、当院では通常、処方していません。医師から指示された量、飲み方、期間をきちんと守って飲むことがとても大切です。

生物学的製剤

炎症やかゆみの原因とされているサイトカインの過剰なはたらきを抑える注射剤です。これまでの治療で十分な効果が得られない患者さんが使用できます。2023年7月現在、13歳以上で使用できる薬剤と15歳以上で使用できる薬剤があります。このお薬は、ステロイドや免疫抑制剤の塗り薬と組み合わせて使用します。生物学的製剤を使用して皮膚の症状が少しよくなったからといって簡単に塗り薬をやめないように注意しましょう。

経口JAK阻害薬

これもアトピー性皮膚炎の皮膚で暴れているサイトカインの過剰なはたらきを抑える作用があります。生物学的製剤とは異なり、飲み薬ですので、注射が苦手な方にも使用できます。2023年7月現在、12歳以上で使用できる薬剤が2種類、15歳以上で使用できる薬剤が1種類あります。このお薬についても、服用して皮膚の症状が少しよくなったからといって簡単に塗り薬をやめないように注意しましょう。

紫外線療法

ほかの治療で症状が回復しない方や、副作用のためにほかの治療ができなかった方に行います。医療機器から紫外線を当てて、皮膚の免疫に関係する細胞のはたらきを抑えます。

患者さんにはとにかく、バリア機能が向上するようスキンケアを頑張って続けてほしいと思います。先ほどご説明したアレルギー・マーチも、赤ちゃんの時から保湿をしっかり行ったり、皮膚炎をうまくコントロールしたりすることでリスクを減らすことが期待できます。

アトピー性皮膚炎があるとカポジ水痘様発疹症単純ヘルペスウイルス感染症、伝染性膿痂疹など、皮膚の感染症にかかりやすくなるので、それらしいぶつぶつなどを見つけたら早めに医師に相談してください。

皮膚のバリア機能は紫外線によって低下する可能性があるといわれています。そのため、日焼け止めなどを使用し紫外線対策を行うことや、乾燥を予防するために加湿器を使用することなどをすすめています。

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また、入浴時はナイロンタオルなどでゴシゴシと洗うのではなく手で泡を作って体を洗うことや、お風呂の温度をぬるめの38~40℃くらいに設定するとよいことなども伝えています。

体を洗いすぎると皮膚のバリア機能が低下してしまうとお伝えしましたが、やはり自分の体を清潔に保つ基準は人それぞれだと思いますので、もちろん毎日入浴していただいてもかまいません。しかし、バリア機能の低下が懸念される方には、もともと脂分がすごく出やすい部位や気になる部位は毎日せっけんを使って洗っていただき、乾燥している部分については毎日せっけんを使わなくてもよいとお伝えすることもあります。

アトピー性皮膚炎はかくことで症状が悪化するので、特定の場所だけかいてしまうようであれば、直接かかないようにガーゼなどで覆うなどの対策をするとよいでしょう。

アトピー性皮膚炎の治療薬の種類は増えていますし、症状の改善が期待できる薬も登場しています。私が皮膚科の医師になった20年ほど前と比較すれば、アトピー性皮膚炎をうまくコントロールできる時代になってきていると強く感じます。

アトピー性皮膚炎の治療といえばステロイド一辺倒、と思われている方もまだまだいらっしゃるのではないでしょうか。そういった方は一度病院に行って医師に話を聞いたり、インターネットなどで調べてみたりして、今はどのような薬があるのかといった情報を収集してみてください。きっと治療に対する考えが少し変わると思います。

2型炎症そのものを抑える薬がいくつも登場していたり、皮膚のバリア機能を回復・維持するうえで重要な保湿剤1つをとっても患者さん一人ひとりに合ったものを見つけられるほどラインアップが豊富になっていたりします。治療を受けていただくことで、アトピー性皮膚炎治療の新時代を迎えつつあると実感できるのではないでしょうか。多くの患者さんにぜひ、“治療を受けてよかった”という感覚を味わっていただきたいと思っています。今は、アトピーのかゆみから解放され、ストレスなく日常生活をエンジョイできる時代です。「どうせ治らない」と思い込まず、ぜひ皮膚科で相談してみてください。

参考文献

  1. Langan SM et, al. Lancet. 2020; 396(10247): 345-360.

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