皮膚がんには様々な種類や症状がありますが、多くの方は不自然なほくろやシミの発生がきっかけとなって発覚します。がんというと怖いイメージがあるものの、皮膚がんの場合は転移のないうちに手術を行えばほぼ完治が望めます。様々な皮膚がんの写真をもとに、皮膚がんの種類及び症状について、聖マリアンナ医科大学皮膚科准教授の門野岳史先生にお話しいただきました。
表皮は10層弱の細胞からなる薄い組織であり、表面から、角層、顆粒層、有棘層、基底層という層をそれぞれ形成しています。
表皮の断面図
皮膚がんのなかでもっとも頻度の高いタイプ。基底層の基底細胞もしくは毛の細胞が悪性化することで発生し、紫外線への曝露が関係しているといわれている。
有棘細胞がん:
表皮角化細胞の悪性化によるがん。露光部に生じたものは日光によって発生する例が多いとされる。
メラノーマともいわれる、悪性度の高いがん。メラニン色素形成にかかわるメラノサイト(色素細胞)が悪性化することで起こる。日光曝露と関係するタイプ(主に顔周辺にできる)と、日光とは無関係に生じるタイプ(手足などにできる)に分かれる。悪性黒色腫のうち約半数は手足に生じる。
表皮角化細胞ががん化したもので、がん細胞の増殖は表皮内に留まる。有棘細胞がんの早期と考えられる。そのため転移の可能性はほとんどなく、比較的浅いがんとされる。
日光(紫外線)を浴び続けたことで発症する皮膚疾患。60歳以上の高齢者に多くみられる。有棘細胞がんの前癌病変とされ、進行すると有棘細胞がんへ進行する。
パジェット病:
汗を産生する細胞ががん化したと考えられているがんの一種で、乳頭や乳輪に発生する乳房パジェット病と外陰部等に発生する乳房外パジェット病に分類される。
皮膚がんの症状は上述したがんの種類によって異なりますが、皮膚に赤や黒の斑点が出現し、次第に拡大するとともにしこりを伴うようになってきます。
基底細胞がんの場合、初期症状として最も多くみられるのは、ほくろのように小さくて黒いできもの(色素斑)です。進行するとこの色素斑は黒みをおび、隆起してきます。
基底細胞がん(画像提供:門野岳史先生)
有棘細胞がんでは、発生部位・原因・病期によって様々な症状をあらわします。
一般的には、かさぶたが付着してカサカサし、赤みを帯びた斑が出現し、次第に盛り上がったりえぐれて潰瘍になったりします。病変の表面はジクジクと出血しやすく、進行すると腫瘍の形はカリフラワー様になることがあります。
進行した有棘細胞がんの腫瘤。カリフラワーのような外観を呈する(画像提供:門野岳史先生)
メラノーマでは黒色の色素斑が生じます。程度によって色や形が異なりますが、初期では皮膚表面に濃淡が不整な黒い斑が出現し、徐々に拡大していきます。(詳細は記事2『メラノーマは「ほくろ」とはどう違う? 特徴、検査から最新治療まで』)
背中にできたメラノーマの色素斑(画像提供:門野岳史先生)
多くは紫外線に曝露された部分に発生し、患部は赤く炎症を起こし、カサカサした赤い斑になります。
顔にできた日光角化症(画像提供:門野岳史先生)
病変部は赤褐色でかさつきがあり、ときにかさぶたを載せた、色ムラのある円状(あるいは地図状)の色素斑が生じます。
ボーエン病では類円型の色素斑を呈する(画像提供:門野岳史先生)
陰部や腋などに現れるがんで、病変は赤いことが多いですが、褐色や白色が混在することがしばしばあります。湿ってただれることがあり、ときに痒みを伴います。進行すると結節や腫瘤が生じます。
外陰部に発生したパジェット病。赤い炎症を起こす(画像提供:門野岳史先生)
なお、これらの病変の大きさと重症度は必ずしも比例しません。がん細胞が単純に横に広がっているような状態では転移はまれであるため、色素斑の大きさよりも、がん細胞の深さや塊になっているかどうかが重要です。がん細胞が深部まで到達したり、塊になってしまったりした場合は転移の可能性が高まります。
顔にできるシミやほくろと皮膚がんの区別は、「シミ」や「ほくろ」の大きさ、色むら、形、病変の隆起の程度が目安になります。通常のシミの場合でも2~3㎝程に広がることはときにありますが、形がいびつであったり、色むらがあったり、普段と異なる形状になっていたりする場合は、早めに専門医に相談してください。
また、私たちはつい顔の「シミ」や「ほくろ」に注目しがちですが、メラノーマは顔よりも手足(手のひらと足の裏)に多く発生します。足の裏などに発生する皮膚がんは日光とは無関係にできるがんであり、このふたつは分けて考える必要があります。(詳細は記事2『メラノーマは「ほくろ」とはどう違う? 特徴、検査から最新治療まで』)
ボーエン病や日光角化症の場合は、シミというよりも赤いカサカサとした斑点が主症状であり、最初は湿疹と誤解される方が多くいらっしゃいます。皮膚がんは湿疹のようにすぐに治らないためおかしいと思って受診する方が多く、そこでがんであるということがわかります。
いずれにしても、日常的に自分のシミやほくろの様子を観察して、少しでもおかしいと思った場合は専門医に相談することが推奨されます。
皮膚がんではダーモスコピー検査が行われます。ダーモスコピー検査とは、「ほくろ」などに超音波検査用のジェルを塗布してから、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を皮膚面に当て、皮膚に分布するメラニン色素や毛細血管の状態を調べる検査です。
皮膚を観察して、デジタルカメラで記録するだけの簡単な検査ですから痛みは全くありません。
ダーモスコピーを用いて観察されるメラノーマの様子
また、皮膚がんがやや進行しており、リンパ節に転移する可能性が高い場合は、センチネルリンパ節生検(がん細胞が最初に到達しそうなリンパ節を検出する検査)も実施されることがあります。鼠径部やわきの下など、がん細胞が転移しそうなリンパ節を狙って摘出・検査し、もしもその部分に転移があった場合は残りのリンパ節もすべて取り除きます。
センチネルリンパ節生検が必要になるのは約2~3割の患者さんであり、すべての方に行われる検査ではありません。
たとえば、基底細胞がんの場合はほとんど転移しません。一方、メラノーマの場合はがん細胞が皮膚表面を這っている状態が長く、この期間であればまだ転移の可能性は低いのですが、少しでも病変がざらざらしたり盛り上がってきたり、塊が発生したりすると転移の可能性が高まります。このような場合は手術でリンパ節をすべて郭清することもあります。
実際、白色人種の場合は、紫外線が皮膚がんの発症に関係しているということが知られています。しかし、すべての皮膚がんが紫外線によって発症するというわけではなく、日本人の場合は紫外線に当たらずにできる手足のメラノーマが5割という報告もあります。
とはいえ、やはり紫外線への過度な曝露は皮膚がんを誘発するため、避けたほうがよいでしょう。
特に皮膚の色が白い方は元々持っているメラニンが少なく、皮膚をよく守ることができないため、なるべく意識して紫外線対策を行うことが推奨されます。
基底細胞がんは転移の可能性が低いため、基本的には手術で病変を摘出すれば治療できます。しかし、病変が大きくなってしまうと眼球や鼻の骨にまで浸潤し、手術が困難になってしまうため、小さな段階での病変摘出が理想的です。
基底細胞がんは顔を中心に発症する(全体の8~9割が首から上にできると考えられています)ので、術後の見た目も考慮し、手術では局所皮弁(摘出する皮膚に隣接する皮膚を移動させて患部を被覆する方法)を用いることがほとんどです。病変が非常に大きくなり皮膚の欠損が大きい場合は植皮、また場合によっては遊離皮弁といって、腕など別の部分の皮膚組織を切り離して患部に移植する方法をとることもあります。
このような大規模な手術を行う場合は、形成外科の先生との協力が重要です。
ボーエン病や日光角化症の場合は病変がまだ表面にとどまっている段階であり、手術以外の方法を先に試すこともしばしばあります。しかしながら、効果がみられない場合は手術を行います。
有棘細胞がんはボーエン病や日光角化症が進行したがんであり、手術が第一選択となります。
メラノーマ以外の皮膚がんに対する抗がん剤治療は、保険適用となっているものが少なく、標準的治療が未だ確立していません。
有棘細胞がんには放射線治療が効果的とされており、手術で病巣が切除しきれなかった場合やリンパ節に転移がある場合は放射線治療を単独もしくは抗がん剤と組み合わせて行うことがあります。
手術や薬物療法を行っても回復が見込めないほど皮膚がんが進行した場合は緩和治療に移行します。
聖マリアンナ医科大学 皮膚科 教授
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