2017年3月4日、第17回隈病院甲状腺研究会がホテルオークラ神戸で開催されました。甲状腺の専門病院として名高く、甲状腺関連の論文数ではアメリカのメイヨークリニックをも凌ぐ世界第3位という驚異的な業績を誇る隈病院が提供する歴史ある研究会です。全国各地から病院長や主任教授の先生をはじめ甲状腺の診療に携わる医師や看護師ら医療関係者が多数集合し、大変盛況に執り行われました。
開会にあたり、隈病院 院長の宮内昭先生より御挨拶が行われました。隈病院甲状腺研究会は学術的な成果を発信していくことに加え、全国各地の甲状腺を専門とする医療従事者に交流の場を提供することを目的としています。
☆宮内先生の記事はこちら
・甲状腺微小乳頭がんの治療-低リスクの微小乳頭がんに手術は不要?経過観察を推奨する理由
まずは、甲状腺髄様がんの臨床について隈病院外科科長の木原実先生を演者に、座長には筑波大学附属病院副病院長、乳腺甲状腺内分泌外科教授の原尚人先生を迎えて講演が行われました。
甲状腺がんのうち、甲状腺髄様がんは1.8%を占めています。一方で、C細胞が発生母地となるため、他のがんと性質が異なります。そのような甲状腺髄様がんにおいてカルシウム負荷試験やRET遺伝学的検査など、臨床において大切なポイントが示されました。
また、甲状腺髄様がんは手術が確立された根治が期待できる唯一の治療法とされていますが、分子標的薬が少しずつ使われるようになってきたことや、隈病院で行われた結果から、放射線による外照射が局所再発においては有用である可能性やMEN(多発性内分泌腫瘍)2型などのハイリスク群に対する予防的切除術ついても見解が示されました。
続いて、隈病院臨床検査科の鈴木彩菜先生により「甲状腺髄様がんの穿刺吸引細胞診」について、引き続き原先生を座長に迎えて講演が行われました。テーマは、同じく甲状腺髄様がんです。
甲状腺髄様がんにおける手術前の検査では超音波検査と細胞診が行われています。一方で、甲状腺髄様がんを的確に診断していくことが難しいことも知られています。穿刺針洗浄液のカルシトニン値測定ならびに少しでも甲状腺髄様がんが疑われる場合には診断に非常に有用である精度の高い検査として、カルシトニンの免疫染色(感度92.3%、特異度100%)の紹介が行われました。
休憩時間を挟み、隈病院麻酔科科長の三川勝也先生からはIONM(手術中の神経モニタリング)システムについての講演です。こちらも原先生が座長を務められました。
反回神経麻痺を早期発見するためには手術中の神経モニタリングは有用です。モニタリングを的確に使用していくため、的確なデータを取得するためには麻酔についてどのような注意点が必要であるかについて、具体的には気管チューブの選択から留置方法の工夫、さらには神経刺激による筋電図反応がきちんと見られるための非脱分極性筋弛緩薬、リバース薬の使い方についても言及されました。
*参考記事
最後に、獨協医科大学感染制御・臨床検査医学講座 教授である菱沼昭先生を座長に迎え、「成人に認められる甲状腺ホルモン合成障害について」をテーマに隈病院内科顧問の深田修司先生より講演が行われました。
甲状腺ホルモン合成障害の基礎的知識に始まり「サイログロブリン遺伝子異常」の原因遺伝子を突き止めるためにどのような苦労があったのか、そして深田先生がこの研究に大変熱意を持って取り組まれてきたことが伝わるエピソードに富み、かつ非常にレベルの高い発表が行われました。最後に、DUOX2遺伝子異常の要点に加え、甲状腺ホルモン合成障害を見逃さないためのポイントとして、「大きく軟らかい甲状腺腫に注意する」ことについて言及されました。
☆深田先生の記事はこちら
・「バセドウ病」と誤診しないために-確定診断のポイントと安易な抗甲状腺薬投与の危険性
最後に、「甲状腺に関する質問をすべて引き受ける」質疑応答が行われました。全国各地から集まった医師により活発な議論が行われました。
閉会の挨拶は隈病院副院長の宮 章博先生です。宮先生は2017年5月18日、19日に神戸にて開催される日本甲状腺外科学会において大会長も務められます。
日々の臨床を研究論文としてまとめ、発表していくことが臨床に加えて教育でも世界で通用するレベルを保つために非常に重要であることを強く感じさせる第17回隈病院研究会でした。
医療法人神甲会 隈病院 名誉院長
医療法人神甲会 隈病院 名誉院長
日本外科学会 指導医・外科専門医日本内分泌外科学会 内分泌外科専門医
甲状腺・副甲状腺疾患の診療・研究に40年以上携わってきた。特に甲状腺がんの診断と治療を専門とし、この手術にともなう反回神経麻痺に対する頸神経ワナ・反回神経吻合による再建を日本で最初に考案・施行した。また急性化膿性甲状腺炎の原因となる一種の発生異常の存在を世界で初めて発見し、下咽頭梨状窩瘻と名付けた。カルシトニンのダブリングタイム(Ct-DT)が髄様がんの予後因子であることを世界で初めて報告し、最近ではサイログロブリンのダブリングタイム(Tg-DT)が乳頭がんの強力な予後因子であることを見出している。最近、小さい甲状腺乳頭癌が世界的に増加し、その取扱いが問題となっている。宮内の提唱により1993年から隈病院では世界で初めて低リスクの甲状腺微小乳頭癌に対して、非手術経過観察を行っており、大多数の微小癌は進行しないこと、少し進行してもその時点で手術を行えば手遅れとはならないこと、隈病院のような専門病院で手術を行っても、手術群の方が経過観察群より声帯麻痺などの不都合事象が多いことを明らかにした。この成果は2015年版アメリカ甲状腺学会の甲状腺腫瘍取扱いガイドラインに大きく取り上げられた。
宮内 昭 先生の所属医療機関
関連の医療相談が15件あります
甲状腺がん(乳頭がん)について
妻が今年1月に甲状腺がん(乳頭がん)と診断されました。発見された悪性腫瘍の大きさは4mmでしたので主治医の先生からは3ヶ月おきに定期検査して、腫瘍が大きくなったら治療〜手術の検討の必要があるが現状では投薬、手術は行わない場合が多いと仰られました。腫瘍は大きくならないケースもあるとのことでしたので少し安心しましたが、悪性腫瘍があるのに治療や手術をしないで経過を診るのは不安が残ります。主治医の先生が仰られているとおりに考えても宜しいでしょうか。
手術後の生活について
甲状腺全摘後にホルモン剤を飲む事になりますが、疲れやすい、体力の減退などがおこると聞きました。仕事も体力を使う仕事です。夜勤もあります。これまでのように生活が可能でしょうか?
数値から見た腺腫様甲状腺腫の悪性の可能性
先日、健康診断結果で左葉)腺腫様甲状腺腫(疑い)要精密検査と診断されました。 色々なサイトを見ましたが全体的に低い場合の症状の記載が無く、一応基準内の数字ではあるようですが精密検査の扱いになった事もあり不安は残ります。 全体的に甲状腺機能低下症の太りやすい、寒がり、浮腫みといった症状は感じています。 全体的に低い数値から悪性の可能性は考えられるのでしょうか。 2018年度 TSH 0.650 FT4 1.14 FT3 2.69 2017年度 TSH 1.060 FT4 1.27
甲状腺癌の手術の方法について
妻が甲状腺癌と診断されました。全摘出術を勧められたようです。私は診察に付き添っていないので彼女から話を聞くだけなのですが、まだ意思を決めていないのにどんどん手術前の検査等の予約をされているようです。幸いガンは初期で小さいようです。であれば、リンパ節等もとってしまうと後でいろいろと不都合があるらしいので、妻も最小限の手術にしたいと言っています。都内に住んでいます。どこか良い病院を教えていただけないでしょうか。もしくは治療法と先生のお名前だけでも構いません。無理かと思いますが、よろしくお願いします。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「甲状腺がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。