誰でも胸焼けや酸っぱいものが込み上げてくる症状を感じたことがあるかもしれませんが、もしそのような症状が続いている場合、逆流性食道炎が原因かもしれません。日本では10人に1人が逆流性食道炎であるといわれており、とても身近な病気です。今回は、国立国際医療研究センター病院 消化器内科診療科長の秋山 純一先生に逆流性食道炎の症状や発症のメカニズムについてお話を伺いました。
逆流性食道炎とは、胃酸が食道に逆流することで食道に炎症が起きてびらん(ただれ)が生じ、胸焼けや呑酸(酸っぱいものが込み上げてくる感じ)が現れる病気です。本来であれば、胃酸の逆流は胃と食道の間にある“下部食道括約筋”が閉じているため簡単に起きないようになっていますが、何らかの原因で下部食道括約筋が緩んでしまうと逆流性食道炎を引き起こします。
逆流性食道炎は、大きく軽症(グレードAまたはB)と重症(グレードCまたはD)に分類され、逆流性食道炎の約85%は軽症であるといわれています。
また、胸焼けなどの症状があっても内視鏡検査*で炎症やびらんがみられないものは、“非びらん性胃食道逆流症(以下、NERD:ナード)”と呼びます。NERDは、ストレスなどによって食道の知覚過敏が起こるために、少ない胃酸の逆流でも胸焼けなどの症状を感じてしまう病気です。
なお、逆流性食道炎とNERDを総称したものを“胃食道逆流症(GERD:ガード)”といいます。
*内視鏡検査:先端に小さなカメラがついた柔らかい管を挿入して体の中の様子を確認する検査。
逆流性食道炎で胃酸が逆流してしまう理由は大きく2つです。
1つは食事によるものです。食べすぎで胃が満杯になると胃にたまった空気が外に出る“げっぷ”が生じます。げっぷをすると一時的に下部食道括約筋が開くため、この際に空気と一緒に酸も逆流してしまいます。また、脂肪の多い食事を取ると十二指腸から脂肪を分解するためのコレシストキニン(CCK)というホルモンが出ますが、これには下部食道括約筋を緩める作用もあります。そのため、高脂肪食の取りすぎも酸が逆流する原因となります。
もう1つは、食道裂孔ヘルニア*によるものです。食道裂孔ヘルニアとは、胃と食道の間にある横隔膜の食道裂孔(食道が通る穴)から胃の一部が上にはみ出してしまう病気です。横隔膜は下部食道括約筋の周りを取り囲むように存在しており、下部食道括約筋の締める力をサポートしています。しかし、食道裂孔ヘルニアによって横隔膜の位置がずれると下部食道括約筋は横隔膜の支えを失ってしまいます。すると、緩みが生じて胃酸の逆流につながるのです。
食道裂孔ヘルニアによる逆流性食道炎の場合は、食後に横になったり、お腹を少し締め付けたりするなど、ちょっとしたことでも酸が逆流してしまいます。
なお、食生活による逆流性食道炎は軽症で済むことが多く、食道裂孔ヘルニアのように下部食道括約筋に機能的な問題が生じている場合には重症度が高い傾向があります。
*ヘルニアとは体の臓器が本来あるべき場所から逸脱してしまう状況を指す。
逆流性食道炎の典型的な症状は胸焼けと呑酸です。そのほか、胸が締め付けられるような痛み、慢性の咳、喘息症状、喉頭炎(喉の痛み)、歯牙酸蝕症(酸によって歯が溶ける病気)などが起こることもあります。
また、これらのつらい症状によって夜眠れずに睡眠障害を起こしたり、食事制限をしたりすることで大きな精神的・身体的ストレスを抱えてしまい、生活の質(QOL:Quality of Life)が低下してしまう方が多くいらっしゃいます。そのため、逆流性食道炎の治療では、症状をコントロールしてQOLを改善に導くことが大きな目標となります。
逆流性食道炎による炎症が持続すると、その部分に潰瘍(深くえぐれたようになること)ができて出血することがあります。これによる吐血で救急搬送される患者さんは多くいらっしゃいます。また、炎症がよくなったり悪くなったりを繰り返すことで、食道が硬くなってだんだんと狭くなる狭窄が起こることもあります。
そのほか、バレット食道も逆流性食道炎の代表的な合併症です。バレット食道とは、胃酸が食道に逆流することで食道の粘膜が胃の粘膜のように変化してしまうことを指します。内視鏡検査をしてみると、通常は白っぽい色をしているはずの食道が胃の粘膜のようにピンク色に変化していることが分かります。バレット食道は前がん病変と呼ばれており、まれに食道がんに移行することがあります。
バレット食道は、3cm以上のものをロングバレット食道、1〜3cm以下のものをショートバレット食道と呼び、それより短いものであれば病的な意義はあまりないとされています。最近は、健康診断や人間ドックでバレット食道と診断を受け、驚いて受診される方が増えてきていますが、実際に検査をしてみるとあまり心配する必要のない短いバレット食道であることが多いです。ですから、もし健康診断などでバレット食道と言われた場合には、一度長さを聞いてみるのもよいでしょう。
国立国際医療研究センター病院 消化器内科 医長・診療科長
「逆流性食道炎」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。