インタビュー

日本女性の1000万人以上が隠れ貧血!?ヘモグロビン正常値でも疲れやすく息切れがあれば血液検査を

日本女性の1000万人以上が隠れ貧血!?ヘモグロビン正常値でも疲れやすく息切れがあれば血液検査を
岡田 定 先生

医療法人社団平静の会 西崎クリニック 院長

岡田 定 先生

この記事の最終更新は2016年06月28日です。

食生活の変化や婦人科疾患の増加などに伴い、「鉄欠乏性貧血」は国民全体の問題ともいえるほどに増加しています。また、貧血とは診断されないものの体内の貯蔵鉄が不足しており、“なんとなくだるい”という症状を抱えている日本女性は1000万人以上にものぼるといわれています。ご自身が上記のような「隠れ貧血」かどうかを確認するには、どのような検査を受ける必要があるのでしょうか。一般的な鉄剤を苦手とする方への治療方法と共に、聖路加国際病院血液内科部長の岡田定先生にご解説いただきました。

(正常な赤血球(左)と鉄欠乏性貧血の赤血球(右):写真提供 岡田定先生)

貧血には様々な種類がありますが、全体の3分の2以上を占めているのは、日本女性の10人に1人が悩んでいるともいわれる「鉄欠乏性貧血」です。

鉄欠乏性貧血の原因には月経や妊娠、婦人科疾患などがありますが、それ以上に「食事で十分に鉄分を摂取できていない」ことが大きな影響を及ぼしていると考えられます。

今から30数年前までは日本人の鉄分摂取量は1日13mg以上でしたが、現在では1日7mg程度にまで減っています。

また、必要以上のダイエットをする女性も増え、朝食抜きや肉類を摂らない食生活を送る方も多く見受けられます。

女性は月経があるため、このような食生活を続けていると鉄分は摂取量よりも体外に出ていく量の方が上回ってしまいます。私自身の臨床現場での印象としても、日ごろの鉄分摂取量が不十分な方は、次項で述べる経血量の増加により容易に鉄欠乏性貧血に陥ってしまうように見受けられます。

鉄分摂取量の減少に加えて、近年では過多月経を引き起こす婦人科疾患も増加傾向にあります。代表的な疾患は子宮筋腫子宮内膜症・子宮内膜ポリープの3つで、頻度は低いものの子宮がん鉄欠乏性貧血の原因となります。

正常な経血量とは20ml~140ml(平均的には40ml足らず)といわれており、これ以上だと「過多月経」となります。とはいえ、日常生活の中で総経血量を計測することはできませんので、「月経血にレバーのような塊が混ざるようであれば過多月経」と捉えていただくと、ご自身の月経の状態を把握しやすくなると考えます。

一般的には、ヘモグロビン濃度Hb)が男性で13 g/dl、女性で12 g/dl、高齢者で11 g/dlを切ると貧血と診断されます。そのため、この数値に達することを「ゴール」として貧血治療をされる方も多々いらっしゃいます。

しかし、このような定義上の貧血以上に注意すべきは、“ヘモグロビン値は正常範囲であっても体が鉄欠乏状態”である「潜在性鉄欠乏症」です。

潜在性鉄欠乏症とは、体内の貯蔵鉄が不足することで様々な症状が現れる状態です。メディアなどでは「隠れ貧血」とも呼ばれ、少しずつ認知されはじめています。

主な症状として全身倦怠感が挙げられ、女性の不定愁訴の原因のかなりは鉄欠乏性貧血とこの潜在性鉄欠乏症で説明がつくとも考えられます。

潜在性鉄欠乏症は、ヘモグロビン濃度ではなくフェリチンの数値でみます。最新のデータでは、明らかな鉄欠乏状態であるフェリチン15 ng/mL未満の方が、日本の女性全体の22%にものぼるとされています。つまり、日本には1000万人以上の「隠れ貧血」の女性が存在するというわけです。これは成人前や閉経後も含めた数値であり、20歳~40歳代に限定すると割合は40%以上に上昇します。

潜在性鉄欠乏症は、20歳~40歳代の日本女性の40%以上にものぼる非常にありふれた疾患です。しかし私の臨床現場での経験では、いわゆる隠れ貧血の方は、疲れやすさなどの症状を病的なものと捉えていないように思われます。実際に多くの患者さんが、「歳のせい」「若い頃に比べて元気がなくなった」と発言されており、病院で治療するような類のものではないと考えておられます。

しかし、一般的な血液検査では貧血と診断されない潜在性鉄欠乏症も治療の対象となり、鉄剤を使用することで体調がよくなることが多いのです。

実際に当院で治療を受けられた患者さんの中にも、治療前はご自身のことを病気ではないと思っていたものの、治療後には「フェリチンが低かった頃の体調は“異常”だった」と述べられる方が多々いらっしゃいます。

米国血液学会が発刊している“Blood”という権威ある雑誌では、ヘモグロビン正常値でフェリチン値が低い人に対し、鉄剤と偽薬(プラシーボ)を使用した結果、明らかに前者のグループで全身倦怠感が改善されたという報告がなされています。

言い換えれば、日本には鉄剤を使用するだけで元気になれる女性が1000万人以上もいるということです。

しかしながら、疲れやすさやだるさを病気だと捉え、血液内科を受診される方はほとんどおられません。このような方の潜在性鉄欠乏症をチェックするためには、健診などで血液検査を行う際にフェリチンの数値も調べることが大切です。

聖路加国際病院予防医療センターの健診では、潜在性鉄欠乏症を問題視し、受診者の希望によりフェリチンの値も測定しています。これにより、ヘモグロビン値は正常でもフェリチン15 ng/mL未満の患者さんを見つけ、症状を改善することができるようになりました。

しかしながら、潜在性鉄欠乏症を見つけることの重要性は、現時点では医療者の間でもあまり認知されておらず、多くの施設ではフェリチンの値までは測定していません。

「疲れやすさ」や「息切れ」といった症状がある方は、血液検査を受ける機会に、ご自身から医師へ「フェリチンも調べられませんか」ときいてみられることをお勧めします。

日本人の鉄欠乏状態は先進諸国の中でも明らかに悪く、「貧血大国・日本」という言葉も用いられています。食生活の悪化やダイエットブームなどが引き金となり、現代の若い日本女性のエネルギー摂取量は戦後間もない頃よりも低下しています。潜在性鉄欠乏症も含めて考えると、貧血は日本人の国民病といえるほどありふれた疾患となっています。

人種によらずどの国であっても鉄分は不足しやすいものですが、先進諸国では主食の小麦粉に鉄を添加した鉄強化食品を国策として行い、国民の鉄分不足を補う努力をしています。日本では国を挙げての貧血対策は残念ながら全く行われておらず、これはわが国の抱えるひとつの課題であると感じています。

現在「一億総活躍社会」の実現を目指し様々なプランが公表されていますが、より多くの女性がもっと元気に活躍するためには、隠れ貧血も含めた貧血治療が極めて重要であると考えます。

貧血治療の一つの目標点はヘモグロビン値を基準内にまで高めることであり、一般的な鉄欠乏性貧血の方であれば数値は2か月~3か月で改善します。しかし、先に述べたフェリチンの値でみる体内の貯蔵鉄は、ヘモグロビン値が改善された時点ではまだ十分には補われていないのです。

貯蔵鉄は体内鉄全体の約3割を占めており、これが満たされていない状態では月経などにより再び容易に鉄欠乏性貧血となってしまいます。

貯蔵鉄を満たすには、ヘモグロビン値が改善された後も3~4か月は継続して鉄剤(クエン酸第一鉄ナトリウムなど)を使用する必要があり、真の貧血治療には少なくとも半年の期間を要します。

また、貧血や隠れ貧血の方には原疾患(主に婦人科疾患)がある場合も多いため、治療後しばらく経った段階で婦人科的検査を受けることが重要です。

一般的によく使われている鉄欠乏性貧血の治療薬(クエン酸第一鉄ナトリウムなど)には、悪心、嘔吐、腹痛、便秘、下痢などの副作用があり、1割~2割の方はこれらの症状のために服用することができません。また、それほど副作用は出ない場合でも、吐き気や腹痛などが起こりやすく「飲みにくさ」を感じている患者さんは多数いらっしゃいます。

このような場合には、錠剤の50mgではなく顆粒タイプの鉄剤で20mg程度の少量の服用をお勧めします。貧血は、鉄剤を2倍に増やしたら倍の速度で治るというものではなく、これとは逆に20mgの少量ではよくならないというものでもありません。

現代の日本人は、日ごろの食事で多くても1日10mgほどの鉄分しか摂ることができていません。20mgの鉄剤でも食事の2倍以上の鉄分を摂取することができますので、実際に確かな効果が得られます。

このほか、小児ではシロップ剤(溶性ピロリン酸第二鉄)も一つの選択肢です。こちらはお子さんも飲めるシロップですので、錠剤を飲めない患者さんでも抵抗なく服用できることが多いです。

顆粒タイプの鉄剤やシロップ剤を使用する治療法はあまり知られていませんが、鉄欠乏性貧血の患者さんを診る様々な診療科の先生方にもぜひ実践していただきたいと考えます。

また、患者さんには、「鉄剤はお茶で飲んでも大きな影響はない」ということをお伝えしたいです。緑茶などタンニンを含む飲み物は、鉄分の吸収を抑えてしまうものとして広く一般に認知されています。これは薬理学的には正しい情報ですが、鉄剤で摂ることのできる鉄分の量は食事などに比べて圧倒的に多いため、多少吸収が落ちてしまっても臨床的な効果に影響はありません。実際にお茶または水で鉄剤を飲んだ場合の臨床的効果を比べて、有意差はなかったという報告がされています。

積極的にお茶で鉄剤を飲むことはお勧めしませんが、長期の鉄剤服用にあたり、無理にお茶を我慢する必要はないのです。

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