院長インタビュー

広義のヘルスケアを実践する公立八鹿病院

広義のヘルスケアを実践する公立八鹿病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]院長インタビュー

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兵庫県養父市にある公立八鹿病院は、県北部の但馬地域を支える中核的な病院として、保健や介護の役割までを担っています。

ケアミックス病院としての機能を担う一方、2024年1月に施行された認知症基本法を受けて新たな認知症医療の体制確立に取り組む同院の地域での役割や今後について、病院長である西村 正樹(にしむら まさき)先生に伺いました。

先方提供
外観:八鹿病院ご提供

当院は1946年に日本医療団八鹿病院として開設し、1949年には八鹿町国民健康保険直営となった後、1969年から八鹿病院組合に経営移管されて現在に至ります。1963年には附属准看護婦養成所を開校、1980年代には総合病院への承認、病棟の増築や児童福祉施設(助産施設)を新設するなど、成長を続けてきました。

さらに1990年代から現在にかけては、老人保健施設や看護専門学校、訪問看護センター、回復期リハビリテーション病棟などを整備し、医療体制を拡張しながら地域の基幹施設として発展してきました。

当院の医療圏は養父市を含めた但馬地域全域です。このエリアは広大で兵庫県全体の4分の1にあたり、東京都の総面積にも匹敵します。高齢化が進む広大な地域で、今後どのように医療体制を維持継続するかが問われています。

現在、但馬地域を支えている公立病院の中でも、当院は基幹的な病院の一つとして役割を果たしていますが、医療にとどまらず健診や介護の分野までサポートするヘルスケアの拠点としても重要な責任を負っています。

急性期中心の医療を提供していた八鹿病院ですが、高齢化などによる地域の医療需要の変化に合わせ、現在では回復期から慢性期の医療も提供するケアミックス病院として地域の医療を支えています。

病床の機能別に見ても、一般病床のほかに療養病床や結核病床を有し、一般病床の中にも急性期・障害者・回復期リハビリテーション・地域包括ケア・緩和ケアといった多くの機能の病床を有しています。このうち、障害者病床、回復期リハビリテーション病床、緩和ケア病床、結核病床については、但馬地域で当院のみが有しています。

住民の方々の高齢化への対応として、回復期や慢性期の医療を強化してきた一方、二次救急医療機関として但馬南部では唯一、救急科と総合診療科を備え、救急搬送患者の約8割を受け入れるなど、急性期への対応も欠かすことのできない役割です。この他、透析センターや健診、人間ドックのための健康センターも重要な部門となっています。昨今では、医療資源の有効活用や経営の効率化といった視点からの病院機能分化が進められていますが、広大な面積に中小規模の医療機関が点在する但馬地域においては、当院がケアミックス機能を有することで、地域の医療を支えることにつながっています。

さらに当院は、職員の研修プログラムにも力を入れ、救急蘇生研修コースや災害対応訓練などを通じて、普段から非常時の備えをしています。

但馬地域における高齢者数はほぼピークに達したと推測されていますが、後期高齢者は今後もさらに増加します。当院では、回復期・慢性期医療の機能強化に加え、骨折等の整形外科系疾患や白内障等の眼科系疾患など、高齢者に多い疾患への診療にも力を入れており、これらに必要な高度医療機器の整備や、大学医局との連携を進めています。 

なかでも、消化器外科においては、高齢の患者さんにも負担の少ない腹腔鏡下手術を積極的に取り入れており、胆石症鼠径ヘルニアの9割、大腸がんの7割程度は腹腔鏡を使った施術を行っています。消化器内科でも、早期の食道がん胃がん、大腸がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)治療をいち早く導入するなど、消化器疾患に対し、高度で安定した治療を幅広い年齢層に提供できることは、当院の特長のひとつです。

また、高齢化の進展により複数の疾患を抱えた症例が増加したことで、これまでの臓器別・疾患別という枠を超えた、総合的な診療へのニーズが高まっています。当院では、地域の病院や診療所などで活躍できる、高い診断・治療能力をもつ総合診療専門医を養成するため、“ようか総合診療専門研修プログラム”を整備しています。現在3名が研修中であり、高齢化の進む地域に必要とされる医師の育成にも力を入れています。

私は脳神経内科が専門ですが、30年間にわたり大学で基礎的な認知症研究を続けてきました。これまでその経験を生かせる機会はあまりありませんでしたが、2023年にアルツハイマー病の分子標的薬を用いた疾患修飾治療が臨床の場で初めて可能になったことで、ようやく専門の知識を患者さんのために役立てられる時がやって来ました。

当院では、軽度認知障害(MCI)や軽症アルツハイマー病に対する 抗アミロイドβ抗体を使った疾患修飾治療をスタートさせています。また、アルツハイマー病脳病理を判別できるアミロイドPET画像検査は県北部ではこれまで施行出来なかったのですが、その状況を打開するため当院にPET-CTを導入するべく現在準備中です。患者さん一人ひとりに寄り添い、どのような治療が最適かを判断し、提案いたしますので、まずはご相談いただければと思います。

なお、温泉が近くて風光明媚な当院のロケーションも療養に適しており、院内では自然採光を取り入れたオープンな待合室や緑あふれる庭園など、リラックスできる空間を提供しています。認知症の治療に適した心地よい環境で療養していただきたいと思っています。

当院には、福祉部門として老人保健施設や訪問看護センター、ケアプランセンターが併設されています。在宅で療養される住民をケアするため、看護、リハビリテーション、介護のほか、日本認知症学会専門医や認知症看護認定看護師、認知症ケア専門士、認知症研修認定薬剤師などのスタッフが連携を取り、質の高いリハビリテーションや認知症ケアを提供しています。

“病院で治療して終わり”ではなく、地域の皆さんの健康を日常生活からサポートすることが我々の使命だと考えており、場合によっては看護師をはじめ、リハビリテーション技師、薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士がサポートを必要とされる住民のご自宅を訪問し、各々専門的なケアを行っています。在宅でリハビリテーションを必要とする方、認知症など脳神経疾患を抱える方、人生の終末期をご自宅で過ごす方など、さまざまな患者さんに寄り添いながら地域医療に貢献していきたいと思います。

今春、養父市に設立された財団法人医療文化経済グローカル研究所との協同により、環境改善型のポピュレーションアプローチ(健康課題に対する予防的な取り組み)を進めています。

こうした取り組みを認知症の予防にも適用しており、より多くの近隣住民の健康面における潜在的なリスクを解消することを目指しています。もちろん完全に病気を防ぐことは難しいため、病気の予防と並行して治療や介護もより高いレベルで実践できるよう精進していきます。

“やぶ医者”という言葉が、当院のある養父(やぶ)市に由来するという説をご存じでしょうか。現代ではネガティブな意味で受け取られる言葉ですが、実は徳川綱吉により奥医師に取り立てられた長島瑞得(ながしまずいとく)という当地出身の名医が語源となっていると言われます。森川許六の編纂による『風俗文選』には「藪醫者(やぶいしゃ)(ごう)するは(もと)名醫(めいい)(しょう)にして 今いふ下手の上にはあらず(中略)何がしの良醫(りょうい) 但州養父といふ所に隱れて 治療をほどこし……」とあります。そうしたエピソードにちなんで、養父市は2014年に“やぶ医者大賞”を新設し、地域医療に貢献した50歳未満の若手医師を表彰しています。

さらに、2023年の10周年を節目に“やぶ医者サミット”を開催して過去の受賞者が一堂に会し、これからの地域医療について熱く語り合いました。これからも、こうしたユーモアのある活動を積極的に発信し、地域の方にとって身近に感じてもらえるような病院にしていきたいと考えています。

MN

ますます高齢化が進んでいく地域社会において、認知症を含めた老化関連疾患に対しては医療と介護の両面で対応を急がなければなりません。当院としては引き続き、患者さん最優先の地域医療に取り組む一方で、新設された研究所と協働し認知症などを対象とする社会的処方の推進にも挑戦していく考えです。広義のヘルスケアを包括的にサポートする地域の中核的な病院として、当院に期待される役割は年々大きくなっています。今一度気持ちを引き締め、当院の理念である“医の倫理を基本に、質の高い医療と優れたサービス”に立ち返り、医療技術のさらなる向上と住民からの信頼獲得に努めていきたいと思います。

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