枚方公済病院は、大阪府枚方市東部に位置し北河内医療圏における重要な医療機関として地域医療を支えています。循環器救急や、手術支援ロボットなどを取り入れた高度専門的な医療を中心に、各診療科で患者さんに寄り添った医療の提供を目指してしています。同院の特徴やこれからについて、院長の木村 剛先生にお話を伺いました。
当院は大阪府枚方市東部に位置し、京都府南部や交野市、寝屋川市からも多くの患者さんがお越しになります。当院が属する北河内医療圏(守口市、枚方市、寝屋川市、大東市、門真市、四條畷市、交野市)は人口約114万人の方が生活をしている地域で、高齢化が徐々に進み、全国平均を上回る数字となってきました(2020年時点)。
当院は1943年に大阪第1陸軍共済病院として開設され、80年以上の歴史があります。80年の歴史のなかでは、他の病院と合併したり、経営困難に陥ったりした時期もありましたが、その時代の循環器内科の医師たちが循環器疾患と呼吸器疾患に重点的に取り組み、今では地域の救急医療を支える重要な役割を担うまでになりました。
2022年度には4,000件以上*の救急車を受け入れており、循環器救急については枚方市全域、交野市、寝屋川市、京田辺市、八幡市など広範囲をカバーしています。急性心筋梗塞や心不全の入院件数は全国的にみても多く、さらに内科系救急では地域の他の病院では対応が困難な呼吸不全患者、ショック患者、意識障害患者など重症例も多く受け入れています。この地域における重症内科系救急は、当院がほぼ一手に引き受けているような状況と言えるでしょう。
*2022年度実績……4,311件
当院の特徴として、多くの医師が医療に対し真摯で“患者さんにとって必要な治療かどうか?”という判断を大切にしています。基本的に患者さん、ご家族の希望を尊重し、侵襲的治療を行なわず緩和ケアの方向で対応することも多く、治療方針決定における医師間の議論は非常に活発です。
また、医師をはじめ看護師、薬剤師、理学療法士、臨床工学技師、検査技師、放射線技師など多職種によるチーム医療を実践しています。地域連携室の後方支援も非常にきめ細かく、退院される患者さんに対しては退院前に自宅を訪問し、退院後の生活に支障がないかどうかの確認もしばしば行なっています。
当院は、救急患者の受け入れに前向きであるがゆえに忙しい面もありますが、それでも働きやすい環境をつくれているようで、看護師の定着率は高い水準となっています。当院の看護師は患者さんからの評判もよいです。また、仕事の分担をしてオンオフはっきりした働き方を目指せる仕組みができてあがっており、医師とコメディカルスタッフの間においてもお互いをリスペクトする空気があります。こうした面が定着率の高さや、働きやすさにつながっているのではないかと思います。
また、当院は若手医師の教育にも熱心に取り組んでおり、初期研修医募集の際には多くの応募をいただいています。初期研修医に対しても、非常に教育的な研修が行なわれていると感じます。
循環器内科では、カテーテル治療に軸足を置く一般的な循環器内科診療に加え、専門的な医療を幅広く行っています。これは現在在籍する20名以上の多彩なスタッフに支えられているもので、たとえば内科救急を含む救急医療の経験を重ねてきた医師や、心臓リハビリテーションをメインに循環器疾患の予防に取り組む医師など、さまざまな専門分野をもつ医師が診療にあたっています。循環器内科は大所帯ですが、医師をはじめ多職種のスタッフが密に連携を取りながら、チームワークとコミュニケーションを大切にして診療に取り組んでいます。
今後はさらに、弁膜疾患に対するカテーテル治療のための体制を整えていきたいと考えています。大動脈弁や僧帽弁など心臓弁の治療には、近年カテーテルを用いた負担の少ない治療が可能となっていますが、治療のためには、循環器内科と心臓血管外科、麻酔科など複数の診療科でのチーム医療が欠かせません。今後はいっそう体制を強化し、より幅広く心臓の病気に対応できるよう尽力したいと考えています。
当院の泌尿器科は、泌尿器腹腔鏡技術認定医*をはじめさまざまな認定資格を持つ医師が在籍する少数精鋭の診療科です。手術の技量も安定しており、やる気に満ちた医師がそろっています。また、支援手術ロボット“ダビンチxi”を導入しており、前立腺がんや腎がんなどの手術をロボット支援下で行っています。これにより、さらに患者さんの体への負担が少なく、安全性を追求した治療に取り組めています。
そのほかにも、消化器内科・外科は比較的医師数が多く、一般的な内視鏡治療や腹部手術に安定的に取り組んでおり、症例数も多いです。また、血液内科は現在常勤医1名の体制ですが、骨髄移植も実施しています。
*日本泌尿器内視鏡ロボティクス学会認定
当院の取り組みの1つとして、“レインボー手帳”という心疾患再発予防用の記録ノートの作成と運用があります。この手帳は、体重や血圧といった情報から、運動、食事、服薬の様子などを毎日記録し、患者さん自身がセルフモニタリングすることで、早期に心不全の増悪に気づけるよう運用するものです。病院に持ってきていただければ、受診の際にお話ししたことをご自宅で読み返していただけるよう医師や看護師が記入することも可能です。医学的な内容は特に、全てを一度には理解しきれなかったり、忘れてしまったりする場合もありますが、ご自宅で読み返すことで理解が深まりやすいのではないかと思います。
この取り組みは、当院と患者さんだけでなく、地域の先生方や介護関係の方などにもご利用いただいており、今後、地域で更に広く利用を促進していければと考えています。
当院は、患者さんの希望を尊重した良質な医療を提供することがもっとも重要であると考えております。救急医療については自分たちがお引き受けすることのできる病態、状況であれば、決して救急患者をお断りすることはありません。
今後は、脳卒中救急や肺がん診療など現在対応できない病気へ診療の間口を広げ、救急対応をさらに活発にしていければと考えています。そして、診療科の守備範囲をより高度な医療へ広げると同時に診療の質をさらに高め、“大抵のことにはしっかり対応できる病院”となり、北河内医療圏の基幹病院として地域医療の最後の砦の役割を果たしつづけたいと考えます。
*診療科、医師数、提供する医療の内容等についての情報は全て、2024年6月時点のものです。