じっとしていられない:医師が考える原因と対処法|症状辞典
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国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経内科診療部 医長、医学博士
向井 洋平 先生【監修】
“じっとしていられない”という症状は単なる癖である場合もあれば、病気や日常生活上の好ましくない習慣などさまざまな原因が考えられます。
緊張しているときなどにじっとしていられないという経験は誰にでもあることであり、日常生活に支障をきたさなければ特に問題にならないケースもあります。しかし、中には思わぬ原因が背景にあることもあるため注意が必要な症状です。
これらの症状がある場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
“じっとしていられない”という症状は、以下のような病気によって引き起こされることがあります。
じっとしていられないという症状は、精神的な病気によって引き起こされることがあります。具体的には以下のような病気が挙げられます。
年齢や発達に不相応な不注意や落ち着きのなさ、衝動性などが現れる病気のことです。明確な発症メカニズムは分かっていませんが、発達障害の1つで脳の機能の発達に何らかの異常が生じることが原因と考えられています。
子どもの約5%はADHDであるとされており、学業上での不注意が多い・忘れ物が多い・じっと座っていられない・授業中に席を立つ・順番を待てないなどといった症状が特徴的であり、日常生活や集団生活に支障をきたすケースも少なくありません。
特定の場所や状況になると突然、動悸・発汗・めまい・吐き気・手足の震えなどの症状が現れる病気のことです。“死んでしまうのではないか”という恐怖を覚えることもあるとされており、このような症状が現れやすい場面や状況を避けて日常生活に支障をきたすようになることも少なくありません。治療は薬物療法と心理療法が行われますが、症状が改善するまでに時間を要することも多いとされています。
じっとしていられず体が動いてしまうといった症状は、脳・脊髄・末梢神経などの神経系に異常が生じる病気によって引き起こされることがあります。具体的には以下のような病気が挙げられます。
アカシジアとは“静座不能症”とも呼ばれ、座ったままじっとしていられず、そわそわしてしまう状態を指します。足のむずむず感やほてり、同じ姿勢を長時間維持できないなどの症状がみられますが、歩行や運動をすると軽減されることが一般的です。
主に抗精神病薬・抗うつ薬・胃腸薬などの服用によって生じ、服用から数日後に現れることもあれば、同じ治療薬を数か月間服用して初めて現れることもあります。治療薬服用後にこのような症状がみられた場合は自己判断で治療薬の服用を中止せず、医師や薬剤師に速やかに相談しましょう。
むずむず症候群は“レストレスレッグス症候群”とも呼ばれ、下肢に不快な症状が生じ、脚を動かしたくてたまらなくなる状態です。
安静にしているときに症状が強くなり、足を動かすと症状が落ち着いたり治まったりすることが一般的です。また、症状は夕方から夜に悪化する傾向があります。
むずむず症候群には、発症原因の分からない“特発性”のものと、鉄欠乏性貧血や糖尿病などの病気、腎不全による透析治療、妊娠などが原因で生じる“二次性”のものがあります。
抗精神病薬を長期服用することによって生じる副作用の1つで、自分の意志とは関係なく口をモグモグさせる・舌を左右に動かす・口を繰り返しすぼめる・手足が勝手に動いて歩行などの日常動作に支障をきたすなど、合理的な説明ができないおかしな動きが生じる病気のことです。
姿勢や運動機能を調整する大脳基底核と呼ばれる部位に異常が生じることで発症すると考えられています。同様の症状は抗パーキンソン病治療薬などを内服中にも発症することがあり、遅発性ジスキネジアとは区別されています。
自分の意志とは関係なく手足や体幹が動く症状のことで、舞踏運動は手足・口・体幹・顔が不規則で速い運動を繰り返すのが特徴であり、アテトーゼは手足にゆっくり流れるように滑らか動きが生じるのが特徴です。一方、ヘミバリスムは片方の手足を投げ出すような激しい動きが生じます。
舞踏運動とアテトーゼは大脳基底核が過剰にはたらくことが原因であり、遺伝性の病気であるハンチントン病のほか、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、甲状腺機能亢進症、薬の副作用などによって発症することもあります。また、ヘミバリスムは視床下核と呼ばれる部位の脳出血や脳梗塞が原因であると考えられています。
手、脚、体幹、頭など体の一部に自分の意志とは関係なく筋肉の収縮と弛緩が繰り返され、震えのような症状が生じることを指します。主に安静にしているときに症状が現れる“安静時振戦”と、体を動かそうとすると生じる“企図振戦”に分けられます。
特に体に異常がなくても生じることがありますが、はっきりとした原因は分からないものの神経の異常によって加齢とともに症状がひどくなるとされている本態性振戦のほか、パーキンソン病や甲状腺機能亢進症、脳出血や脳梗塞などの脳にダメージを引き起こす病気、薬の副作用によって発症することがあります。
じっとしていられないといった症状は、精神的な緊張感や不安感が高まった際に生じやすい症状の1つです。しかし、中には上で述べたような病気が原因のこともあります。
特に、自分の意志とは関係なく体の一部が動いてしまうとき、症状が強く日常生活に支障をきたしているとき、ほかの随伴症状があるときはできるだけ早めに病院を受診することが大切です。
初診に適した診療科は症状によって異なり、体の一部が勝手に動いてしまうといった症状の場合は神経内科、精神的な不調を伴う場合や衝動性を制御できない場合は精神科や心療内科が適しています。ただし、かかりつけの内科や小児科がある場合はそちらで相談するのも1つの方法です。
受診した際には、いつから症状があるのか、どのようなときに症状が出やすいのか、日常生活にどの程度の支障があるのか、随伴症状の有無や内服中の薬などについて詳しく医師に伝えるようにしましょう。
じっとしていられないといった症状は、日常生活上の好ましくない以下のような習慣によって引き起こされることがあります。
過度なストレスや疲れがたまると交感神経が過剰にはたらくようになりため、手足などの震えが生じることがあります。
社会生活を送るうえでストレスや疲れを完全に避けることはできません。しかし、適度な休息や睡眠を取ること、日頃から熱中できる趣味を持つなどしてストレスや疲れを発散する方法などを身につけておくと過度なストレスや疲れがたまりにくくなります。
また、一時的にストレスや疲れの原因を避けるのも1つの方法です。
日常生活上の好ましくない習慣を改善しても症状がよくならないときは、上述したような思いもよらない病気が原因の可能性があります。軽く考えず、早めに医療機関を受診するようにしましょう。