口臭:医師が考える原因と対処法|症状辞典
東京歯科大学オーラルメディシン・病院歯科学講座 主任教授、東京歯科大学市川総合病院 歯科・口腔外科
松浦 信幸 先生【監修】
口臭は発生頻度が非常に高い体のトラブルであり、その原因は多岐にわたります。口の中に臭いの原因が潜んでいることがほとんどですが、身体の病気など他部位に原因があることも少なくありません。
これらの症状が見られた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。
口臭は日常生活上の好ましくない習慣などが原因で引き起こされていることがあります。原因となる習慣とそれぞれの対処法は以下のとおりです。
口の中にはさまざまな細菌が存在し、形態も複雑なため、食べ物のカスやプラーク、粘膜の汚れなどがたまり不衛生になりやすい環境にあります。そのため、歯石の形成やむし歯・歯周病を発症しやすく、口臭のおもな原因となっています。
毎食後に歯磨きを丁寧に行うのはもちろんのこと、就寝前の歯磨きも重要です。歯の隙間などはデンタルフロスや歯間ブラシなどを使用して丁寧に汚れを落としましょう。舌の上にも細菌が多く存在していて舌苔は口臭の原因でもあるため、舌専用のブラシで磨くことも口臭予防に効果的です。また、半年に一度はたまった歯垢や歯石を歯科医院で除去してもらうのもおすすめします。
過度なダイエットは口臭の原因になります。特に糖質を制限するダイエットでは、体は糖からエネルギーを産生することができずに、脂肪を分解してエネルギーを作り出そうとします。脂肪分解の過程でアセトン(ケトン体)が体内に大量に作られます。アセトンは息の中に混じり果物が腐ったような口臭の原因となります。
ダイエットの基本はバランスのよい食生活と運動習慣を身につけることです。食事は栄養のバランスを考えて、偏りをなくすことで口臭の予防にもつながります。
過度なストレスや緊張を感じると、交感神経が強く刺激され、唾液の分泌が正常時の3分に1にまで減少するといわれています。その結果、口腔内が乾燥して口臭を引き起こすことがあります。
適度にストレスを解消できるものを身につけ、十分な休息や睡眠時間を確保することが大切です。
日常生活上の対処法を講じても症状が改善しない場合には、思わぬ病気が潜んでいることもあります。軽く考えずにそれぞれの症状に適した診療科を早めに受診するようにしましょう。
起床時、空腹時、緊張やストレスを感じているとき、また、女性の場合は生理時やホルモンバランスの不調などによって口臭が一時的に強くなることがあります。
これらは、唾液の分泌量が低下することで口の中の細菌が一時的に増加することが原因であったり、体調の変化が原因であったりするため病的な口臭ではありません。
口臭は年齢を問わず、多くの人が悩みを抱える身体トラブルの1つであり、原因もさまざまです。よく起こりうる症状であるがゆえに軽く考えられがちですが、中には以下のような病気が原因の場合があります。
口臭は口腔内の病気が原因であることがほとんどです。原因となる主な病気は以下のとおりです。
歯の表面を覆うエナメル質や象牙質がむし歯菌によって徐々に破壊される病気です。
むし歯によって歯に空いた穴に食べ物などがたまり、そこで細菌などが繁殖することで次第に臭いがきつくなり、口臭の原因となります。そのままむし歯を放っておくと、むし歯はさらに進行して歯の神経(歯髄)にまで達します。
むし歯によって死んだ神経は腐敗して臭いがきつくなり悪臭を発生するようになり、強い口臭の原因になります。
歯と歯肉の隙間の歯周ポケットに細菌感染が生じることで炎症を引き起こし、歯肉の腫れや発赤、痛み、出血などの症状が現れる病気です。
歯周病では炎症によって深くなった歯周ポケットにプラーク(歯垢)がたまり、その中で歯周病原菌(嫌気性菌)が代謝の過程で産生する硫化水素やメチルメルカプタンが強烈な口臭の原因となります。また、歯肉の炎症によって膿が生じることでも口臭が強くなります。
舌の表面には乳頭と呼ばれる細かい突起状の構造物が密生しており、口の中が不衛生になると乳頭に“舌苔”と呼ばれる白いカスが過剰に沈着することがあります。舌苔には細菌が多く存在しており、口臭の原因となります。
舌や歯肉、頬粘膜などに生じるがんです。早期の段階では小さなしこりを形成するのみで自覚症状はほとんどありません。
進行するとしこりが大きくなって表面にただれや潰瘍などを形成します。その結果、炎症や出血を起こしやすくなり、口臭の原因になることがあります。
口臭は口腔内以外の病気によって引き起こされることもあります。原因となる主な病気は以下のとおりです。
口腔に近い副鼻腔(鼻腔に近接した骨の中にある空洞)や咽頭などに細菌やウイルス感染によって炎症が生じると、口腔内に血液や膿などが流れ出て口臭を引き起こすことがあります。
また、扁桃のくぼみに膿などが固まってできる膿栓(臭い玉)が形成されると非常に強い口臭を放つことがあります。通常は、喉の痛みや咳、痰、鼻汁、鼻閉などの呼吸器症状を伴い、発熱や倦怠感などの全身症状が現れます。
胃の粘膜に炎症を引き起こす病気では、消化不良によって胃内に停滞した食物が腐敗し、発生した悪臭の原因物質がげっぷとして口腔内に出てくることで口臭を引き起こすことがあります。
また、悪臭の原因物質が消化管から血液中に入り、肺に運ばれたあと呼気として吐き出されることでも口臭の原因となります。
糖尿病は免疫力が低下するため、歯周病などの感染症を発症しやすいとされています。
また、コントロール不良の糖尿病の場合、糖の代わりに肝臓で脂肪を分解してエネルギーを作り出します。その過程でアセトン(ケトン体)が体内に大量に作られるため、果物が腐ったような甘酸っぱい口臭(アセトン臭)を生じることがあります。
自己免疫性疾患の一種であり、唾液腺や涙腺に炎症を引き起こして唾液や涙の分泌量が減少する病気です。口腔内の自浄作用(食べ物を洗い流す作用)を持つ唾液の分泌量が低下することで口腔内が不衛生になりやすく、結果として虫歯や歯周病を発症して口臭の原因となることも少なくありません。
口臭の原因がないにもかかわらず、強い口臭を放っていると錯覚し、日常生活に支障をきたす精神的な病気のことです。性格的に几帳面で真面目な人に多い傾向にあります。
抑うつ気分や強迫性障害を生じることも多く、対人関係に恐怖心を抱いて外出が困難になることも少なくありません。実際には口臭はありませんが、どうしても気になる場合には専門医を受診しましょう。
口臭は発生頻度の高い症状であるため、市販の口腔ケア用品などを使用してやりすごしている人が多いのではないでしょうか。しかし、中には思わぬ病気が潜んでいる可能性もあるため、症状が長引く場合には早めに病院を受診することをおすすめします。特に、歯や歯肉の痛み、出血などがある場合、口の中に大きなしこりがある場合、何らかの全身症状を伴う場合、口臭が気になって日常生活の妨げになっている場合には、なるべく早めに専門の病院を受診するのがよいでしょう。
受診に適した診療科は口腔外科や一般歯科ですが、全身症状を伴う場合はかかりつけの内科などで相談するのも1つの方法です。受診の際には、いつから口臭がひどくなったのか、口臭の誘因、随伴する症状、現在罹患している病気などを詳しく医師に説明するようにしましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。