血が止まりにくい:医師が考える原因と対処法|症状辞典
急ぎの受診、状況によっては救急車が必要です。
どうしても受診できない場合でも、翌朝には受診しましょう。
翌日〜近日中の受診を検討しましょう。
気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。
岡山大学病院 血液・腫瘍内科 講師
淺田 騰 先生【監修】
出血は日常生活上の些細なけがなどで起こりうるものであり、誰もがその経験を持つものです。私たちの体には、出血が生じても血液を固めて血を止める仕組みが備わっています。
しかし、なかには血を止める仕組みがうまくはたらかず、“血が止まりにくい”といった症状が現れることがあります。
こういった場合、原因としてはどのようなものが考えられるのでしょうか。
血が止まりにくいといった症状の背景には、何らかの病気が隠れていることがあります。
出血した場合でも、通常では血液中に存在する“血小板”や“凝固因子”と呼ばれる物質のはたらきによって出血が止まるようになっています。しかし、次のような血液の病気によりこれらの物質の産生量やはたらきに異常が生じると、血が止まりにくくなることがあります。
血小板をはじめ、白血球、赤血球などの血液の細胞のもととなる造血幹細胞に異常が生じ、がん化した血液細胞が産生される病気です。
正常なはたらきを持つ血小板が減少するため、血が止まりにくくなります。そのほか、動悸や息切れなどの貧血症状、風邪をひきやすく重症化しやすいといった症状が現れます。
血小板を攻撃する“抗体”が産生されることによって血小板数が減少する病気です。
どのような原因で抗体が産生されるのかは明確に解明されていませんが、小児ではウイルス感染後や予防接種を受けた後に急激に発症することが多く、成人は長い時間をかけて徐々に進行していくケースが多いとされています。
血液を固めるために必要な12種類の“凝固因子”のうち、第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の産生量が生まれつき少ない病気です。男児に多く遺伝する病気で、幼少期から出血を繰り返します。
また、適切な治療をしないまま放置すると膝関節や肘関節内で出血を繰り返し、関節の機能に異常をきたすことも少なくないとされています。
血液を固めるはたらきが異常に高まることで血管内に多くの血栓(血液の細かい塊)が形成される病気です。
凝固因子などが使い尽くされた後に血栓を溶かそうとする作用がはたらき、出血しやすくなります。がん、白血病、重症の細菌感染などを患っている方に発症する場合が多いとされています。
全身のさまざまな部位で出血しやすく、さらに血栓が肺や脳、腎臓の血管に詰まって重度な障害を引き起こすなど死亡率が非常に高い病気のひとつです。
血の止まりにくさは次のような血液以外の臓器の病気によって引き起こされることがあります。
血液を固めるのに必要な凝固因子は主に肝臓で産生されているため、肝臓の機能が著しく低下する肝硬変や肝臓がんなどを発症すると十分な凝固因子が産生されなくなり、血が止まりにくくなります。
特に重度の肝機能障害では全身のさまざまな部位の静脈に過剰な圧がかかるようになることで、食道静脈瘤などを引き起こすことがあります。これらが破裂すると血の止まりにくさと相まって大量出血を引き起こし、死に至るケースも少なくありません。
脾腫とは感染症や貧血、がんなどが原因となって脾臓が腫れた状態になることです。
脾臓は古くなった赤血球を回収して処理するはたらきを持ちますが、脾臓が腫れて機能が高まると血小板までもが回収されて破壊されるようになることがあります。その結果、血が止まりにくくなることも少なくありません。そのほかにも、左上腹部周囲の痛みや腹部の膨満感などの症状が現れることがあります。
上で説明した病気以外にも、血が止まりにくいという症状が現れるまれな病気として血管性紫斑病(IgA血管炎)、フォン・ヴィレブランド病、メイ・ヘグリン異常症、後天性血友病などが挙げられます。フォン・ヴィレブランド病は血友病の次に多い遺伝性出血性疾患ですが、未診断の患者を含めるとより多くの患者がいるのではないかと考えられています。
これらの病気は特に鑑別が難しく、専門とする医師による診断が必要です。気になる症状が現れた際は、速やかに病院の受診を検討しましょう。
薬の効果が高まり過ぎるなど、副作用によって血が止まりにくくなることがあります。
心房細動など不整脈を患っていたり、ステント留置術などを行ったりした後など血栓ができやすい状態が予想されるときは、抗血小板薬や抗凝固薬の内服治療を続ける必要があります。
これらの薬剤は効きすぎると出血が起こりやすく、さらに血が止まりにくくなることがあります。しかし大切な薬であるため、心当たりのある場合には自分で薬を中止せず、必ず主治医に相談するようにしましょう。
出血してから血が止まるまでの時間には個人差があるため、血が止まりにくい状態であっても自覚せずに見過ごされているケースも少なくありません。しかし、血が止まりにくいといった症状は、命に関わるような病気が背景にあるケースも多いため軽く考えず早めに受診することがすすめられます。特に、何度も出血を繰り返すケース、些細な刺激で出血してなかなか止まらないケース、原因が思い当たらない皮下出血ができやすいケースなどは特に注意が必要です。
受診に適した診療科は血液内科ですが、近くに該当する病院がない場合はかかりつけの一般的な内科で相談するのもひとつの方法です。また、生まれつき血が止まりにくい、幼少期に出血を繰り返すといった場合は小児科で相談するのもよいでしょう。
受診した際にはいつから血が止まりにくくなったのか、出血の原因、血が止まるまでの大まかな時間、ほかにも出血している部位があるか、息切れや動悸などの貧血症状や風邪をひきやすくなったといった変化がないか医師に詳しく伝えましょう。
日常生活上の好ましくない習慣などによって血が止まりにくくなる場合もあります。
ビタミンCはコラーゲンの生成に必要であり、著しく不足すると血管の壁が脆くなって出血を起こしやすくなることがあります。特に歯茎からの出血が目立つようになり、進行すると皮下出血や血尿などの症状が見られることも少なくありません。
ビタミンCは果物や野菜などに多く含まれるため、毎日適量を取るようにしましょう。一度に多く取ってもビタミンCは尿と共に排出される性質があるため、毎日摂取することが大切です。
特に単品ダイエットなどをしているケースでは、知らず知らずのうちにビタミンCの不足が進んでいることがありますので注意が必要です。
上で述べたような日常生活上の対策を行っても血が止まりにくいといった症状が続く場合、背景に思わぬ病気が隠れていることがあります。軽く考えず、できるだけ早めに病院の受診を検討するようにしましょう。