血が止まりにくい:医師が考える原因と対処法|症状辞典

血が止まりにくい

受診の目安

夜間・休日を問わず受診

危険な状況であり、急いで受診しましょう。状況によっては救急車が必要です。

  • 30分程度押さえていても止まらない
  • 噴き出すような出血がある
  • 気が遠くなる、立ちくらみがする、顔色が悪いなどの症状がある
  • 血液をサラサラにする薬を服用しており、止血をしても血が止まらない

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • 少しの刺激で血が出る
  • 頻繁に繰り返している
  • 原因が思い当たらないあざができやすい
  • 血液をサラサラにする薬を服用している

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 短時間でよくなり、その後繰り返さない

埼玉医科大学病院 血液内科 教授

宮川 義隆 先生【監修】

出血は日常生活上の些細なケガなどで起こりうるものであり、誰もがその経験を持つものです。私たちの体には、出血が生じても血液を固めて血を止める仕組みが備わっています。しかし、なかには血を止める仕組みがうまくはたらかず、“血が止まりにくい”といった症状が現れることがあります。

  • 鼻血や歯茎からの出血を起こしやすく、一度出るとなかなか止まらない
  • 転んで擦りむいた部位から時間が経ってもじわじわと出血が続く
  • 子どもの頃から出血すると止まりにくく、あざができることが多い

こういった場合、原因としてはどのようなものが考えられるのでしょうか。

血が止まりにくいといった症状の背景には、何らかの病気が隠れていることがあります。

出血した場合でも、通常では血液中に存在する“血小板”や“凝固因子”と呼ばれる物質のはたらきによって出血が止まるようになっています。しかし、次のような血液の病気によりこれらの物質の産生量やはたらきに異常が生じると、血が止まりにくくなることがあります。

急性白血病

血小板をはじめ、白血球、赤血球などの血液の細胞のもととなる造血幹細胞に異常が生じ、がん化した血液細胞が増える病気です。正常なはたらきを持つ血小板が減り、血が止まりにくくなります。そのほか、動悸や息切れなどの貧血症状、免疫力低下により感染症が重症化しやすくなります。

急性白血病
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特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

血小板を攻撃する“抗体”が産生されることによって血小板数が減少する病気です。どのような原因で抗体が産生されるのかは明確に解明されていませんが、小児ではウイルス感染後や予防接種を受けた後に急激に発症することが多く、成人は長い時間をかけて徐々に進行していくケースが多いとされています。

血友病

血液を固めるために必要な“凝固因子”のうち、第VIII因子または第IX因子が生まれつき少ない病気です。基本的に男性に発症する遺伝性疾患で、幼少期から出血を繰り返します。また、適切な治療をしないまま放置すると膝関節や肘関節内で出血を繰り返し、関節の機能に異常をきたすことも少なくないとされています。

血友病
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播種性血管内凝固症候群(DIC)

血液を固めるはたらきが異常に高まることで、全身の血管内に多くの血栓が作られ、脳梗塞心筋梗塞や出血などにより急変する危険性が高い病気です。がん、白血病、重症の細菌感染などが原因で発症する場合が多いといわれています。

播種性血管内凝固症候群
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壊血病

壊血病とは、ビタミンCが著しく不足することで発症する病気です。ビタミンCは強い血管を維持するコラーゲンの生成に必要なため、著しく不足すると血管の壁が(もろ)くなり出血を起こしやすくなることがあります。特に歯茎からの出血が目立つようになり、進行すると皮下出血などの症状がみられることも少なくありません。

血の止まりにくさは次のような血液以外の臓器の病気によって引き起こされることがあります。

肝機能障害(肝硬変、急性肝不全など)

血液を固めるのに必要な凝固因子は主に肝臓で産生されているため、肝臓の機能が著しく低下する肝硬変や急性肝不全などを発症すると十分な凝固因子が産生されなくなり、血が止まりにくくなります。特に重度の肝硬変では全身のさまざまな部位の静脈に過剰な圧がかかり、食道静脈瘤などを引き起こすことがあります。これらが破裂すると血の止まりにくさと相まって大量出血を引き起こし、死に至るケースも少なくありません。

肝硬変
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脾腫(脾臓腫大)

脾腫(ひしゅ)とは感染症、貧血、がんや肝硬変などが原因となって脾臓が腫れた状態になることです。脾臓は古くなった血球を回収して処理するはたらきを持ちますが、脾臓が腫れると血小板数の減少につながります。その結果、血が止まりにくくなることも少なくありません。そのほかにも、左上腹部周囲の痛みや腹部の膨満感などの症状が現れることがあります。

上で説明した病気以外にも、血が止まりにくいという症状が現れるまれな病気としてIgA血管炎アレルギー性紫斑病)、フォン・ヴィレブランド病、メイ・ヘグリン異常症、後天性血友病酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症などが挙げられます。フォン・ヴィレブランド病血友病の次に多い遺伝性出血性疾患ですが、未診断の患者を含めるとより多くの患者がいるのではないかと考えられています。気になる症状がある場合は早期に医療機関を受診することが重要といえるでしょう。

IgA血管炎
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フォン・ヴィレブランド病
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薬の効果が高まり過ぎるなど、副作用によって血が止まりにくくなることがあります。

抗血小板薬や抗凝固薬

心房細動など不整脈を患っていたり、ステント留置術などを行ったりした後など血栓ができやすい状態が予想されるときは、抗血小板薬や抗凝固薬の内服治療を続ける必要があります。これらの薬剤は効きすぎると出血が起こりやすく、さらに血が止まりにくくなることがあります。しかし大切な薬であるため、心当たりのある場合には自分で薬を中止せず、必ず主治医に相談するようにしましょう。

出血してから血が止まるまでの時間には個人差があるため、血が止まりにくい状態であっても自覚せずに見過ごされているケースも少なくありません。しかし、血が止まりにくいといった症状は、命に関わるような病気が背景にあるケースも多いため軽く考えず早めに受診することがすすめられます。特に、何度も出血を繰り返すケース、些細な刺激で出血してなかなか止まらないケース、原因が思い当たらない皮下出血ができやすいケースなどは特に注意が必要です。

受診に適した診療科は血液内科ですが、近くに該当する病院がない場合はかかりつけの一般的な内科で相談するのもひとつの方法です。また、生まれつき血が止まりにくい、幼少期に出血を繰り返すといった場合は小児科で相談するのもよいでしょう。

受診した際にはいつから血が止まりにくくなったのか、出血の原因、血が止まるまでの大まかな時間、ほかにも出血している部位があるか、息切れや動悸などの貧血症状や風邪をひきやすくなったといった変化がないか医師に詳しく伝えましょう。

血が止まりにくいという症状は、以下のような理由によって起こることもあります。

上述したように、抗血小板薬や抗凝固薬のように血液をサラサラにする薬を服用している場合は、けがをした際に血が止まりにくくなります。

薬とうまく付き合っていくためには

頭をぶつけるなど、大きなけがをしないよう日々の生活で注意しましょう。いつもと比べて出血症状が強い場合はかかりつけ医に相談してください。

上で述べたような対策を行っても血が止まりにくいといった症状が続く場合、背景に思わぬ病気が隠れていることがあります。軽く考えず、できるだけ早めに病院の受診を検討しましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。