てんかんのある女性が妊娠に対して抱く不安は尽きません。今回は出産時の流産のリスクと、授乳期の薬物療法についてご説明します。
妊娠中に発作頻度が増えるのでは、と考える人も多いかもしれません。ある報告によると、妊娠中に発作頻度が増えるのは3分の1、妊娠前と変わらない人が3分の1、妊娠前よりも頻度が減少する人が3分の1とのことです。つまり、妊娠したからといって発作の頻度が増えるとはいえないのです。「変化なし」と考えてよいでしょう。
妊娠中のてんかん発作で流産を心配する方もいますが、通常は心配することはありません。大発作でも呼吸停止はせいぜい30秒程度ですから、赤ちゃんは十分に耐えることができます。生まれてくるときのがまんのほうが、赤ちゃんはもっと大変でしょうね。
ただし、てんかん発作でも「大発作の重積状態」は別です。大発作の重積状態とは、てんかん発作が何度も反復し、その間の意識の回復がない状態を指します。これは母親の命にも関わる一大事です。一方、それ以外の単発発作は、妊娠中のリスクにはなりません。
妊娠中に薬の量を減らすべきか増やすべきかという質問は、多くの患者さんから寄せられます。結論からいうと、妊娠前の処方をキープするのが今のスタンダードです。
妊娠中の発作頻度は大きくは変化しません。そのまま通常どおり飲むのが無難でしょう。
母乳にはさまざまなメリットがあります。妊娠中に、抗てんかん薬は胎盤を通して赤ちゃんにも移行していますから、出産後にわざわざ母乳断ちする必要はありません。赤ちゃんが離乳食に移行する間に、抗てんかん薬の摂取量は徐々に減っていくことになります。
ただし抗てんかん薬の中でも、フェノバルビタールやベンゾジアゼピン系など、鎮静効果の強い薬の場合は、赤ちゃんの傾眠(うとうとと眠りに入りやすい状態)をもたらす可能性がありますので、これらを服用している方は赤ちゃんに母乳を与えないほうがよいでしょう。とはいえそもそも、てんかんについて正しい知識を持っている医師は、フェノバルビタールやベンゾジアゼピン系の薬は、妊婦可能な年代の女性には処方しないのが普通です。
東北大学大学院医学系研究科 てんかん学分野教授
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