インタビュー

てんかんと妊娠――多くの場合、特別扱いは不要

てんかんと妊娠――多くの場合、特別扱いは不要
中里 信和 先生

東北大学大学院医学系研究科 てんかん学分野教授

中里 信和 先生

目次
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この記事の最終更新は2015年05月04日です。

てんかんのある女性が妊娠すると赤ちゃんに先天異常が生じるのか、妊娠中に発作が起きたら流産してしまうのか、赤ちゃんにてんかんが遺伝してしまうのか、薬を服用したまま授乳して大丈夫なのか……ここでは、そんな不安を解決します。

てんかんのある女性は、妊娠・出産ができないと思っている方が多いようです。実際のところ医療従事者の間でもさまざまな誤解があり、てんかんを持つ女性の妊娠や授乳を根拠なく禁止してしまっているという現実があります。しかし、よほどの例外がない限り、いくつかの注意点を守ってさえいれば、てんかんでも健康な方と同じように赤ちゃんを生み、育てることが可能です。

健康な妊娠・出産・授乳をするためには、初診時から妊娠に備えて薬の調整などを行うことが重要になります。てんかんがあろうがなかろうが、妊娠や出産はリスクを伴うものです。最終的には「神様が決めること」だと達観し、人事を尽くして明るい未来を見つめましょう。ただし、そのためには「結婚したら考えよう」や、「妊娠を望むときになってから考えよう」では遅すぎます。女性にとって妊娠の可能性は常にあるのですから。

妊娠したとき、子どもにてんかんが遺伝するのかが気になります。極論を言ってしまうと、どんな病気でも“体質”は親から子へと受け継がれやすいのは事実です。てんかんの場合でも“なりやすさ”の遺伝傾向はゼロではないでしょう。ただし、高血圧糖尿病よりも遺伝の確率は低いと考えてよいのです。特別な遺伝性疾患や合併症などがない限り、基本的には遺伝については神経質になりすぎなくても大丈夫です。

てんかん薬を服用していると、赤ちゃんの先天異常のリスクが高まると心配する方もいるでしょう。たしかに、薬の種類によっては先天異常のリスクを高めるものもあります。しかし、そのリスクは薬の種類によって異なるので、服用する薬の種類を調整すればリスクを低く抑えることが可能です。

原発性全般性てんかんの第一選択薬とされているバルプロ酸などは、量が増えると先天異常の赤ちゃんが生まれるリスクが高くなる傾向があります。バルプロ酸は細胞分裂の際に葉酸のはたらきを妨げて、中枢神経系の先天異常をもたらしやすいのです。また、バルプロ酸を服用している母親から生まれた子どもは、知能指数が有意に低下しているという報告もあります。

欧米では、原発性全般性てんかんのある妊娠可能な女性に対しては、少量であってもバルプロ酸を避けるような流れがあります。日本でも1日量1,000mg以上の服用は避けるべきとされていますが、今後は欧米の流れを受けて、少量のバルプロ酸でも妊娠可能な年代の女性にはなるべく服用しない動きが出てくるかもしれません。

トピラマートも、量が多くなると先天異常のリスクが高まるとされています。妊娠可能な女性に対しては、基本的には最初から処方されることのない薬ですが、仮に使用するとしても最小量に抑えることが求められます。

カルバマゼピンとバルプロ酸は、単独でもある程度の先天異常のリスクがありますが、この2剤を併用した場合、先天異常のリスクは急激に高まります。妊娠可能な女性にはこの2剤の併用は禁忌であると考えてよいでしょう。

新薬のラモトリギンとレベチラセタムは、胎児への影響が少ないという報告があります。ラモトリギンは2014年9月に第一選択薬としての使用が認められ、レベチラセタムも2015年4月より第一選択薬として使用できるようになりました。新しい薬ではありますが、発作が抑制できるのであれば従来の薬よりもこの2剤のいずれかを試してみる価値があります。主治医に相談してみましょう。

表にあるように、バランスよく食事を取っていれば、1日に必要な葉酸を補充するには十分だといわれています。しかし抗てんかん薬の中には、葉酸のはたらきを直接じゃましてしまう薬剤(バルプロ酸など)や、胎盤において葉酸の通過障害を引き起こす薬剤(カルバマゼピンなど)があります。つまり、食事から摂取する葉酸だけでは、胎児に十分に葉酸を届けることができない可能性があります。そのため妊娠可能な女性が抗てんかん薬を服用している場合には、妊娠する予定がなくても前もって葉酸を薬として補充することがすすめられています。

日本のガイドラインでは葉酸の補充量は0.4mgとされ、通常の1日の必要量となっています。しかしこの量では胎児に十分には届かない可能性もあります。私は欧米での標準的な補充量である1日量4〜5mgを処方することにしています。

ちなみに葉酸は水溶性のビタミンであり、尿中にすぐ排泄されます。まとめて食べることができませんので、毎日きちんと服用することが必要です。なお、葉酸の取りすぎを心配する方もいるかもしれませんが、てんかんを持つ妊娠可能な女性の場合には、薬として服用することのメリットがはるかに上回ります。

葉酸を多く含む食品
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