てんかんとは何か―この問いに答えることは容易ではありません。てんかんにはさまざまな病態があり、ひとつの疾患群としてとらえることができないからです。てんかん診療の第一人者である愛知医科大学精神神経科講座教授の兼本浩祐先生は、「てんかんは複数形である」とおっしゃっています。この記事では、てんかんの4大ファミリー、そしててんかん以外のものをプラスして考えるということについてお話をうかがいました。
「てんかん」を何かひとかたまりのものとしてとらえると誤解が生じやすいので、「てんかんは複数形である」と考えるとよいと思います。てんかんには4つのファミリーがあります。てんかんを考える場合には、この4つを中心に、それ以外のものを1つないし2つ足すようにします。
「てんかんとは何か」という抽象的な話から始めると、どうしても難しくなりがちです。何をすればいいかという具体的なことを考えるためには、自分のてんかんは4大ファミリーのどれに当てはまるか、あるいはその4つに当てはまらない何か別の病気ではないかというところからスタートするべきです。
次のステップとしては、4大ファミリーにはどのようなものがあるのか、そして4大ファミリー以外で代表的なもの、数の多いものにはどのようなものがあるのかを知るということになります。もちろん、珍しい病気でこれらに当てはまらないものもあるのですが、最初はやはり数の多いものから始めていくと、該当するものが見つかる可能性が高いでしょう。
4つのファミリーのひとつに「年齢依存性焦点性てんかん」というものがあります。ここからは少し難しい病気の名前が出てきますが、4つのファミリーを説明する前にまず「焦点性てんかん」と「全般てんかん」については最低限理解していただく必要があります。患者さんやご家族もこのことがわかっていないと、本を読むなどしても理解することが難しいからです。
焦点性てんかんとは、脳のある部分から発作が起こっていくものです。結果的に脳全体に拡がっていくものも焦点性てんかんに含まれます。これに対して、発作の最初から脳の左右両方にほぼ同時にてんかんの放電が起こり、両方から発作が始まるものを全般てんかんといいます。この違いは4大ファミリーを分類する上で決め手になる部分ですので、最初に理解しておく必要があります。
交通事故や脳腫瘍などの場合は、脳のある一部から発作が起こるので焦点性てんかんです。そうではなく脳に何も病巣がない場合に、脳の両側からほぼ同時あるいは極めて短い時間差で発作が起こることがあります。そのような場合は全般てんかんということになります。
てんかんの4大ファミリーとは、次の4つのグループのことです。
てんかん4大ファミリーの詳しい内容については、関連記事「てんかん4大ファミリーとは」をお読みください。
てんかんと呼ばれるもの、あるいはてんかんと思われているものの中には、一定の割合で「心因性非てんかん性発作」というものが含まれています。てんかんセンターのような難治の患者さんが集まるところでは5人に1人、一般の神経内科では10人に1人、私が診療を行っている愛知医科大学のてんかん外来などでは、その中間ぐらいの割合で心因性非てんかん性発作の方がいます。
これは非常に重要なことですが、プラセボ(偽薬)効果を除いて、心因性非てんかん性発作にはてんかんの薬は効きません。薬物治療で効果がみられない場合には、この心因性非てんかん性発作も可能性の1つとして候補に入れておく必要があります。これはてんかん4大ファミリー以外の、もうひとつの候補ということになります。
心因性非てんかん性発作と並んで多いのが失神発作です。失神発作は脳の血流低下によってごく短時間意識を失うものですが、これもてんかんとよく間違えられるもののひとつです。
このふたつの病態に関しては、てんかんを考える際に必ず知っておく必要があります。
よく誤解される点ですが、心因性非てんかん性発作はいわゆる「詐病(さびょう・病気ではないのに病気であると偽ること)」ではありません。てんかん発作と何ら変わることのない「病気」ではあるのですが、治療法が異なるだけです。これは失神発作においても同じです。専門医が見れば容易に診断がつく場合もあれば、専門医がみても区別が難しい場合もあります。難しいケースでは発作のときのビデオと脳波の同時記録を見なければわからないこともあり、診断の難易度はさまざまです。
以上が4大ファミリープラス1、またはプラス2と呼ばれるものの全体像です。「てんかんって何だろう?」と考えるときには、てんかんを複数形でとらえて、どれに当てはまるのかを考えることが現実的にはとても重要です。
なぜなら、たとえば1番目の年齢依存性焦点性てんかんであれば、最終的には治るのでそれほど覚悟をする必要はありませんが、4番目のてんかん性脳症の場合には治らない可能性が高く(もちろん希望を持って全力を尽くさなければなりませんが)、大きな目安としては5人に1人しか発作を止めることはできないからです。そういった意味でも、どれに当てはまるのかを考えるということがとても大切なのです。
愛知医科大学精神科学講座 教授
兼本 浩祐 先生の所属医療機関
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