インタビュー

てんかん治療と向き合う心構え

てんかん治療と向き合う心構え
兼本 浩祐 先生

愛知医科大学精神科学講座 教授

兼本 浩祐 先生

この記事の最終更新は2015年12月29日です。

てんかん外来を受診するとき、医師は発作の様子を実際に見ているわけではありません。そのため、これまでは正しい診断には長時間のビデオ録画と脳波の同時記録が必要であると考えられていました。ところが、スマートフォンの普及によって患者さん自身やご家族が動画を撮影することが容易になり、診断の助けになることがわかってきました。情報テクノロジーの活用、そして主治医との良好なコミュニケーションのあり方について、てんかん診療の第一人者である愛知医科大学精神神経科講座教授の兼本浩祐先生にお話をうかがいました。

最近では、スマートフォンが普及したことにより、発作が起きたときに患者さん自身やご家族がけいれんの様子を動画で撮影することが可能になってきました。発作の様子を動画で見せていただくことは、診断が難しい場合に非常に役立ちます。

発作がひんぱんに起こる患者さんの場合は、入院した上で発作脳波同時記録を取ることも可能ですが、発作が少ない場合にはそれができません。また、発作が多い方の場合であっても、一定期間入院して記録を取るには病院の人員や費用もかかりますし、何よりも患者さんご本人の負担が大きくなります。

もちろん、正確な診断のためには発作脳波同時記録がもっとも優れた方法ではありますが、たとえ脳波に関する情報はなくても、実際の発作の様子を記録した動画を専門医が見ることができれば、診断のための非常に大きな助けになります。たとえば、心因性非てんかん性発作なのか、それともてんかんなのか診断が難しいケースでも、実際の発作の様子を見せていただければ即座に診断がつくということもあります。

これまでの記事でお示ししてきたように、てんかんの4大ファミリーのうち、主要なグループに属するてんかんであれば、適切な薬物治療を行なうことで比較的容易に発作を抑えられ、ほとんどの患者さんは特別な制限なしに日常生活を送れるようになります。

とはいえ、てんかんの治療においては、どんな発作も100%ピタリと止めてしかも副作用もない「魔法の薬」はありませんし、外科でいうところの「神の手」を持つ医師も存在しません。てんかん性脳症では薬が効く方が5人中1人の割合であるという、いわゆる「相場」があるように、一部にはどんなに手をつくしても治すことが難しい患者さんもいることは確かです。

あるひとつの病院に通院していて、どうしても良くならない場合には、患者さんと医師の関係がぎくしゃくして難しくなってくることがあるかもしれません。そのような場合には、他の病院を2、3当たってみるということを考えてもいいでしょう。

しかし、患者さんの側で頑張って病気のことを調べて理解を深め、なおかつ複数の病院を回っても同じような説明を受けるようであれば、それが「相場」というものであるということはご理解いただきたいと思います。

「理想の医師」を求めて病院巡りをしていると、いつまでたっても治療を始められないという弊害も生じますし、主治医がいないという状況になってしまいます。これは患者さんにとって決して幸せなことではありません。

てんかん治療において、主治医を決めることは非常に大切です。てんかんのように長く治療を続ける病気では、そのつど違う病院に行って薬だけをもらってくるというのが一番良くありません。患者さんにもさまざまな事情がありますから、通院先がかわることはやむを得ませんが、その場合も主治医と相談をして次の病院に引き継いでもらえるような関係を築くことが望ましいでしょう。

また、複数の疾患を抱えている患者さんの場合には、主治医との関係を基本としながら、その病院だけでは対応できないような部分があれば別の病院を紹介してもらい、また主治医のところへ戻ってくることもひとつの方法でしょう。

そうすれば、主治医のもとにデータを集積することができ、その患者さんのことを誰よりもよく理解することができます。それは患者さんにとって大きな財産となります。

てんかんは漢字で「癲癇」と書きます。「癲(てん)」とはやまいだれに顛倒(てんとう・転ぶ)の顛、すなわち「倒れ病(たおれやまい)」を意味し、癇(かん)はけいれんするという意味を持ちます。この漢字表記からもわかるように、本来は精神的な病気という意味合いはありませんでしたが、時を経るうちに別の意味が加わってしまったという経緯があります。

英語でもてんかんのことをFalling Sickness(倒れる病気)といいますが、これは癲の字がもともと意味するところと一致しています。ですから、言葉の本来の意味を知れば、偏見が少しでも取り払われることにつながるのかもしれません。

記事冒頭で述べたスマートフォンによるてんかん発作の動画記録についても、現在ではYouTubeなどの動画共有サイトでご本人が動画を公開することが珍しくなくなりました。これもてんかんという病気がオープンになり、Common Disease(ありふれた病気)に近づきつつあることのひとつのあらわれといえるでしょう。

てんかんはCommon Diseaseのひとつであり、実際に多くの患者さんが結婚して子どもを産み、仕事をすることができています。病気ではあっても、それによって人生を大きく変える必要もなければ、生活を脅かされることもありません。これはてんかんという病気について考えるとき、非常に大切なことなのです。

受診について相談する
「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。
この記事は参考になりましたか?
記事内容の修正すべき点を報告
この記事は参考になりましたか?
この記事や、メディカルノートのサイトについてご意見があればお書きください。今後の記事作りの参考にさせていただきます。

なお、こちらで頂いたご意見への返信はおこなっておりません。医療相談をご要望の方はこちらからどうぞ。

実績のある医師

周辺でてんかんの実績がある医師

国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科 部長

いわさき まさき

内科、外科、精神科、脳神経外科、小児科、整形外科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、麻酔科、脳神経内科、児童精神科

東京都小平市小川東町4丁目1-1

西武多摩湖線「萩山」南口  病院シャトルバス運行 徒歩7分、JR武蔵野線「新小平」病院シャトルバス運行 徒歩10分

国立精神・神経医療研究センター 病院外来部 特命副院長/外来部長/てんかんセンター長

なかがわ えいじ

内科、外科、精神科、脳神経外科、小児科、整形外科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、麻酔科、脳神経内科、児童精神科

東京都小平市小川東町4丁目1-1

西武多摩湖線「萩山」南口  病院シャトルバス運行 徒歩7分、JR武蔵野線「新小平」病院シャトルバス運行 徒歩10分

国立国際医療研究センター 脳神経内科 科長

あらい のりとし
新井先生の医療記事

2

内科、血液内科、リウマチ科、外科、心療内科、精神科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、乳腺腫瘍内科、膠原病科

東京都新宿区戸山1丁目21-1

都営大江戸線「若松河田」河田口 徒歩5分、東京メトロ東西線「早稲田」2番出口 徒歩15分

東京医科大学病院 小児科学分野 准教授

やまなか がく
山中先生の医療記事

1

内科、血液内科、リウマチ・膠原病内科、外科、心療内科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、消化器内科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、矯正歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、循環器内科、糖尿病内科、代謝内科、内分泌内科

東京都新宿区西新宿6丁目7-1

東京メトロ丸ノ内線「西新宿」2番出口またはE5出口 徒歩1分、JR山手線「新宿」西口 その他JR複数線、小田急線小田原線、京王電鉄京王線、都営新宿線なども利用可能 徒歩10分

重症児・者福祉医療施設「ソレイユ」川崎小児科 副施設長、 聖マリアンナ医科大学 小児科 客員教授、東京医科大学小児科 兼任教授、東京都立東大和療育センター 非常勤医師

すがい けんじ
須貝先生の医療記事

2

内科、血液内科、リウマチ・膠原病内科、外科、心療内科、神経内科、脳神経外科、呼吸器内科、呼吸器外科、消化器内科、消化器外科、腎臓内科、心臓血管外科、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、放射線科、矯正歯科、歯科口腔外科、麻酔科、乳腺外科、循環器内科、糖尿病内科、代謝内科、内分泌内科

東京都新宿区西新宿6丁目7-1

東京メトロ丸ノ内線「西新宿」2番出口またはE5出口 徒歩1分、JR山手線「新宿」西口 その他JR複数線、小田急線小田原線、京王電鉄京王線、都営新宿線なども利用可能 徒歩10分

関連記事

  • もっと見る

    関連の医療相談が29件あります

    ※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。

    「てんかん」を登録すると、新着の情報をお知らせします

    処理が完了できませんでした。時間を空けて再度お試しください

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。

    メディカルノートをアプリで使おう

    iPhone版

    App Storeからダウンロード"
    Qr iphone

    Android版

    Google PLayで手に入れよう
    Qr android
    Img app