てんかん外来を受診するとき、医師は発作の様子を実際に見ているわけではありません。そのため、これまでは正しい診断には長時間のビデオ録画と脳波の同時記録が必要であると考えられていました。ところが、スマートフォンの普及によって患者さん自身やご家族が動画を撮影することが容易になり、診断の助けになることがわかってきました。情報テクノロジーの活用、そして主治医との良好なコミュニケーションのあり方について、てんかん診療の第一人者である愛知医科大学精神神経科講座教授の兼本浩祐先生にお話をうかがいました。
最近では、スマートフォンが普及したことにより、発作が起きたときに患者さん自身やご家族がけいれんの様子を動画で撮影することが可能になってきました。発作の様子を動画で見せていただくことは、診断が難しい場合に非常に役立ちます。
発作がひんぱんに起こる患者さんの場合は、入院した上で発作脳波同時記録を取ることも可能ですが、発作が少ない場合にはそれができません。また、発作が多い方の場合であっても、一定期間入院して記録を取るには病院の人員や費用もかかりますし、何よりも患者さんご本人の負担が大きくなります。
もちろん、正確な診断のためには発作脳波同時記録がもっとも優れた方法ではありますが、たとえ脳波に関する情報はなくても、実際の発作の様子を記録した動画を専門医が見ることができれば、診断のための非常に大きな助けになります。たとえば、心因性非てんかん性発作なのか、それともてんかんなのか診断が難しいケースでも、実際の発作の様子を見せていただければ即座に診断がつくということもあります。
これまでの記事でお示ししてきたように、てんかんの4大ファミリーのうち、主要なグループに属するてんかんであれば、適切な薬物治療を行なうことで比較的容易に発作を抑えられ、ほとんどの患者さんは特別な制限なしに日常生活を送れるようになります。
とはいえ、てんかんの治療においては、どんな発作も100%ピタリと止めてしかも副作用もない「魔法の薬」はありませんし、外科でいうところの「神の手」を持つ医師も存在しません。てんかん性脳症では薬が効く方が5人中1人の割合であるという、いわゆる「相場」があるように、一部にはどんなに手をつくしても治すことが難しい患者さんもいることは確かです。
あるひとつの病院に通院していて、どうしても良くならない場合には、患者さんと医師の関係がぎくしゃくして難しくなってくることがあるかもしれません。そのような場合には、他の病院を2、3当たってみるということを考えてもいいでしょう。
しかし、患者さんの側で頑張って病気のことを調べて理解を深め、なおかつ複数の病院を回っても同じような説明を受けるようであれば、それが「相場」というものであるということはご理解いただきたいと思います。
「理想の医師」を求めて病院巡りをしていると、いつまでたっても治療を始められないという弊害も生じますし、主治医がいないという状況になってしまいます。これは患者さんにとって決して幸せなことではありません。
てんかん治療において、主治医を決めることは非常に大切です。てんかんのように長く治療を続ける病気では、そのつど違う病院に行って薬だけをもらってくるというのが一番良くありません。患者さんにもさまざまな事情がありますから、通院先がかわることはやむを得ませんが、その場合も主治医と相談をして次の病院に引き継いでもらえるような関係を築くことが望ましいでしょう。
また、複数の疾患を抱えている患者さんの場合には、主治医との関係を基本としながら、その病院だけでは対応できないような部分があれば別の病院を紹介してもらい、また主治医のところへ戻ってくることもひとつの方法でしょう。
そうすれば、主治医のもとにデータを集積することができ、その患者さんのことを誰よりもよく理解することができます。それは患者さんにとって大きな財産となります。
てんかんは漢字で「癲癇」と書きます。「癲(てん)」とはやまいだれに顛倒(てんとう・転ぶ)の顛、すなわち「倒れ病(たおれやまい)」を意味し、癇(かん)はけいれんするという意味を持ちます。この漢字表記からもわかるように、本来は精神的な病気という意味合いはありませんでしたが、時を経るうちに別の意味が加わってしまったという経緯があります。
英語でもてんかんのことをFalling Sickness(倒れる病気)といいますが、これは癲の字がもともと意味するところと一致しています。ですから、言葉の本来の意味を知れば、偏見が少しでも取り払われることにつながるのかもしれません。
記事冒頭で述べたスマートフォンによるてんかん発作の動画記録についても、現在ではYouTubeなどの動画共有サイトでご本人が動画を公開することが珍しくなくなりました。これもてんかんという病気がオープンになり、Common Disease(ありふれた病気)に近づきつつあることのひとつのあらわれといえるでしょう。
てんかんはCommon Diseaseのひとつであり、実際に多くの患者さんが結婚して子どもを産み、仕事をすることができています。病気ではあっても、それによって人生を大きく変える必要もなければ、生活を脅かされることもありません。これはてんかんという病気について考えるとき、非常に大切なことなのです。
愛知医科大学精神科学講座 教授
兼本 浩祐 先生の所属医療機関
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てんかん患者の仕事について
中学生の頃にてんかんと診断されてから、約15年ほど経ちます。 発作は、完全に意識を失って、強直&痙攣する大発作と、数秒間ぼーっとする欠伸発作があります。 現在、会社員をしています。 仕事はとてもやりがいがあり、楽しんでいます。 しかし、環境としては劣悪です。。日付を超えても働き続ける長時間労働で、給料も低い。ひとりひとりに任される責任も重いです。 それでも、他の仕事にはない楽しさだけで続けてきましたが、ついに先日、家でぶっ倒れてしまいました。5年ぶりの大発作です。 要因としてはやっぱり、疲労やストレス、寝不足があるのだろうとは思います。そして、今の仕事を始めてからずっとそこは気がかりではありました。 会社にてんかんのことは伝えていますし、口では理解もしてくれていますが、やっぱり実感が伴わないとなかなか心からの理解を得られるのは難しいです。 数日前の大発作から、まだ頭痛と気持ち悪さが続く中で、仕事をどうするべきか悩んでいます。 お医者さんならやはり、きちんとした生活リズムの作れる仕事をおすすめされるのでしょうか...?
てんかん発作?
まだ、診察していないのですが、肺に水がたまって、手足のむくみ不眠症、吐き気嘔吐恐怖、どうき、気持ち参るなく夜に泣いてる。
笑いてんかんについて
こんばんは 娘が精神疾患で通院歴8年になります 脳波検査をしたのですが 診断はてんかんではないと言われました 親の私はてんかんです 娘が8年ぐらい笑つたり、泣いたりを繰り返しています 毎日です 笑いてんかんがあると知りました 痙攣はありません 舌を噛んだりします 診断書にはてんかんの疑いと記載されています 病状が悪化しているので病院を変わろうかと考えています 笑いてんかんてあるのでしょうか? できればてんかん専門の病院で診てもらいたいです
外傷性てんかんによる発作
昨年の12月に父親が交通事故にあい頭の手術をしました。 事故にあってすぐ意識がない時にてんかんの発作が起きたと言われました。 そしてその後1年ぐらいが経ち先週の木曜日にてんかんの発作が起きました。 その時の発作を実際自分の目では見たのではなく人から教えて貰ったのですが 腕がピンと上に伸びて首を横に振る動作を1時間していたそうです。 その日病院で入院をして金曜日に退院したのですがその翌日の土曜日にまた同じ発作が起きてまた入院をしたそうです。 医師から脳に異常は無いと言われたそうです。 今は退院して家にいるのですが木曜日に発作が起きたあとから何を喋っているか分からない喋り方をしているそうです。 私が心配なのはこの発作が1時間も起きたことで脳に異常が起き、話せなくなったり痴呆症になってしまうのが心配です。 てんかんの発作で話せなくなったりしますか? 私は父親と離れて暮らしているのでどのように発作がおき今どのような状態なのかは正確にはわからないです。
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