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レビー小体型認知症 治療の最前線について討論 -DLB研究会フォーラム2016レポート

レビー小体型認知症 治療の最前線について討論 -DLB研究会フォーラム2016レポート
池田 学 先生

大阪大学大学院・医学系研究科 精神医学教室

池田 学 先生

この記事の最終更新は2016年11月18日です。

2014年、レビー小体型認知症(DLB)の患者さんを対象とした初めての治療薬が登場しました。レビー小体型認知症は日本で発見され、近年、世界中で注目されるようになった病気であり、その治療法が活発に研究され続けています。2016年11月5日に行われた「DLB研究会フォーラム2016」では、変わりゆくレビー小体型認知症治療の最前線について大阪大学大学院医学系研究科 精神医学教室 池田学先生がご講演されました。今回は、その内容をご紹介します。

池田先生 ご講演風景

わが国において、認知症の薬が登場したのは1999年のことです。認知症症状の進行を抑制する薬としてドネペジルが登場しました。その後もいくつかのお薬が登場してきましたが、これらの薬はすべて「アルツハイマー型認知症」の患者さんを対象としたものであり、「レビー小体型認知症」の患者さんは対象とされていませんでした。

しかし近年、レビー小体型認知症の患者さんを対象とした薬が登場しました。これまでアルツハイマー型認知症患者さんのための薬であったドネペジルが、レビー小体型認知症の患者さんにも使用してよいという許可が下りたのです。このようにすでに発売されているお薬が他の病態にも使ってよいという許可が下りることを「効能追加」といいます。この効能追加には、大規模な臨床試験を行い、その結果をPMDA(医薬品医療機器総合機構)へ報告し、承認をもらう必要があります。私は、この「ドネペジルの効能追加」を確認する臨床試験に深く関わっていました。

この臨床試験には、私だけでなく、レビー小体型認知症の研究で著名な医師の方々が多数関わりました。試験を進め、PMDAとの論議を重ねた結果、2014年9月にドネペジルのレビー小体型認知症に対する効能追加が認められました。そして、日本が世界で初めてとなるレビー小体型認知症の薬の発売に至りました。

現在、ドネペジルは多くのレビー小体型認知症患者さんに利用され、効果や安全性が検証されています。

池田先生 ディスカッション

レビー小体型認知症の症状としてよく知られるものには「認知機能の低下」や「パーキンソン症状」が挙げられます。しかし、レビー小体型認知症は、そのほかにも様々な症状がみられます。

代表的な症状としてはたとえば「精神症状」が挙げられます。レビー小体型認知症は幻視・妄想の症状に特徴があり、うつの合併も多いといわれています。また起立性低血圧などの自律神経症状、レム睡眠行動障害といった症状も目立ちます。

レビー小体型認知症は、このように多くの症状がみられるため、様々な角度からの治療を検討する必要があります。そこで個々の症状ごとに、どのような対処法が望まれるのかをご紹介します。

幻覚には薬による治療が効果的なこともあります。手が付けられないような緊急性が高い場合には入院を検討する必要がありますが、それほど緊急性はないものの患者さんが不快に感じている場合にはまずドネペジル塩酸塩や抑肝散などで対処するのがよいでしょう(適応外使用)。どのような幻覚の症状が現れたのかを主治医に伝え、どの治療アプローチを行うか、患者さんご本人と家族の方々を交え、相談しながら進めていきましょう。

レビー小体型認知症には嫉妬妄想が出現しやすい、という報告があります。

もちろんレビー小体型認知症の患者さんであっても、嫉妬妄想を起こさない患者さんもいます。「嫉妬妄想を起こす患者さんと起こさない患者さんとでは何が違うのか」に注目して行われた研究では、「本人が病気などにより閉じこもりがちになる一方で、配偶者が活発的に活動している夫婦に嫉妬妄想が多い」という結果が報告されました。つまり、夫婦間の活発度のバランスが崩れることが、嫉妬妄想の大きな要因になるといえるのです。

このような報告から、嫉妬妄想への対処法として「介護者はきちんと玄関でディサービスに送り出す」「ディサービスや病院でのリハビリから戻ってくる時に玄関であたたかく迎える」(ディサービスの間は介護者も自由に活動してもらう)といった工夫をすると効果があると考えられます。

レビー小体型認知症の患者さんがうつ病を併発した場合、基本的には通常のうつ病治療と同様にSSRI、SNRIといった薬による治療を進めるのがよいでしょう。ところが、中には「通常のうつ病治療」が奏効しないケースもよく見られます。

レビー小体型認知症におけるうつ病の合併は今後の大きな課題といえるでしょう。主治医とよく相談しながら、患者さんに最も合った治療法を選択していきましょう。

レビー小体型認知症では、レム睡眠行動異常もよく見られる症状です。

すでに「幻視がある」「認知機能が日によって変動する」といった症状が現れている患者さんにはドネペジルによる治療が望まれます。一方、レム睡眠行動異常の症状のみが現れている場合にはクロナゼパムなどの「神経系の活動を抑える薬」による治療がよいでしょう。

レビー小体型認知症の患者さんには「転倒」が多いという研究報告があります。その研究によると、レビー小体型認知症患者さんの転倒は「認知障害が悪化しているとき」に起きていることが多いことが明らかになっています。また「パーキンソン症状があるか」「姿勢制御困難があるか」「抗精神病薬を使っているか」といった要因は、転倒とはそれ程強い関連がなかったことが報告されています。

患者さんの転倒の原因を見極めて、適切に治療を選択することが重要でしょう。

レビー小体型認知症の患者さんは、アルツハイマー型認知症の患者さんと比べて、嚥下障害、食欲の低下、便秘が多くみられるという報告があります。また、レビー小体型認知症患者さんのほうが、食事時の援助・見守りの必要性が高かったという結果も示されました。

嚥下障害は錐体外路症状(手足の固さなど)と、食欲低下は精神症状と関連しているという結果も出ているので、そのような症状がみられる患者さんの食事時には、周囲の方が注意して見守ることも大切でしょう。

レビー小体型認知症と診断された患者さんのなかには引き続き一人暮らしを望まれる方もいらっしゃいます。その場合、一人でも自宅で安全に暮らしていけるよう、生活指導を行えることが理想的です。

私が携わった事例では、独居を希望される患者さんの自宅へ訪問し、例えば、お風呂場の手すりの位置を調整する、椅子を安定したものに取り替える、風呂桶の高さに合わせて足あげ訓練を行うといった取り組みを行いました。その結果、その患者さんはその後3年間、3カ月に1回の診察のみで、大きな事故もなく、安全面に問題なく過ごすことができました。少しの工夫ですが、患者さんの生活の質を高めるためには、とても重要な取り組みだと考えています。

池田先生 ディスカッション

認知症の治療が適切に行われていくための指針として「認知症治療ガイドライン」が出版されています。これは日本神経学会、日本神経治療学会、日本精神神経学会、日本認知症学会、日本老年医学会、日本老年精神医学会の6学会が協力して作成しており、このなかにレビー小体型認知症の治療についての記載があります。このガイドラインは2010年版が最新のものですが、出版時から時間が経っているので、現在改訂作業がすすめられています。次の改訂では、新しく登場したドネペジルの情報が強調されると考えられ、新たな知見が盛り込まれた最新の治療方針が示されるでしょう。

【参考文献】

  1. Hashimoto et al, J clin Phychiatry, 2015
  2. Imamura e al. Eur J Neurol, 2000
  3. Shinagawa et al, 2009

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