人間ドックとは、日帰りまたは短期間の入院によって全身の状態を詳しく調べる精密検査のことで、病気の早期発見と健康増進を図ることを目的に行われます。人間ドックを受診する際の流れや注意点などについて、国立国際医療研究センター病院 人間ドックセンターの梶尾 裕先生にお話を伺いました。
戦前、当時東京大学内科教授だった坂口康蔵先生のもとに政界の有力者が検査入院のため入院した際、長い渡航を終えて船が修理・点検に入るドックのように、人間も健康診断をするのだ、と語ったことから「人間ドック」という言葉が始まったようです。
戦後、坂口先生が東京大学を定年退官し、国立国際医療研究センター病院の前身である国立東京第一病院に就任され、1954年より「短期入院精密身体検査」と称して、日本で初めて全身精密検査を行いました。それが、のちに「人間ドック」と呼称されるようになりました。
そして2016年5月、国立国際医療研究センター病院では、より精度の高い人間ドックの実施を目指して「人間ドックセンター」を発足させました。
当センターでは、病気の予防と健康増進を図ることを目標に掲げています。また、健診結果の判定では、数値のみで判断せずに個人の背景(年齢、性別、職業、日常の活動量など)を加味した健康評価と、結果に基づいた詳細な事後指導に努めています。
国立国際医療研究センター病院 人間ドックセンターを例に、人間ドックの流れをご紹介します。
当センターの人間ドックは、完全予約制で実施しています。電話、FAX、WEB、受付窓口を介して予約が可能です。
当人間ドックセンターには、以下の基本コースがあります。日帰りドックでは、半日で検査を終えることができます。また、宿泊ドックでは、国立国際医療研究センター病院最上階での個室をご利用いただきながら、ゆったりと検査を行うことができます。
<基本コース>*2020年7月現在
<日帰りドック基本コースの検査項目>
また、上記の基本コースに加えて、希望に応じたオプションを追加できます。あるいは、家族にくも膜下出血の病歴がある方など、遺伝性の病気のリスクが高いと判断できる場合には、脳ドックのオプションを推奨することもあります。
当人間ドックセンターでは、検査項目を細かく配置しています。特に基本コースでは、内科一般の総合的な評価を可能とする検査項目を盛り込んでいます。
たとえば血液検査では、以下の項目を基本コース内に盛り込みました。
その理由は、甲状腺機能異常は心臓、肝臓などの臓器に影響を及ぼすだけでなく、脂質代謝などにも影響を与えるため、内科的に重要な評価項目ととらえるからです。
また、尿検査では、
といった数値に加え、尿中微量アルブミンを測定できるようにしました。
尿中微量アルブミンは、早期の腎機能障害を検知するために重要な検査項目です。
このように細かく検査を行うことで、健診結果の際、生活習慣病注1のコントロールや治療への移行など、より詳細かつ的確な説明・提案ができることを目指します。
注1 生活習慣病:食生活・喫煙・飲酒などの生活習慣がその発症・進行に関与する病気の総称
基本コースに追加する形で、オプションの検査も可能です。
オプションの検査は、膵臓ドック、肝臓ドック、甲状腺ドックなど、全身のあらゆる臓器を評価するための幅広い内容で提供しています。
<オプション検査>
当人間ドックセンターで異常がみつかった場合、紹介状を作成し、国立国際医療研究センター病院の対応できる専門診療科、あるいは他医療機関をご紹介します。
紹介状には、異常な数値が出た検査項目と、検査を担当した医師からの詳細な情報とメッセージを明記します。
異常がみつかった場合の紹介先については、病気の重症度や大きさなどを考慮して適切に判断します。たとえば、当人間ドックセンターで、重症度が高く早期の治療が望まれる病気(たとえば各種がんなど)が発見された場合には、できるだけ早い時期に受診者に連絡し、忘れず受診するよう説明します。
また、併せて国立国際医療研究センター病院の当該診療科の先生に検査結果をご相談し、迅速な受診につなげることを心がけています。なお、受診者のアクセスなどを考慮して、近隣の基幹病院への紹介を行うこともあります。
日本には、地域の対象集団全体の死亡率を下げることを目的とした「対策型検診」と、個人の健康チェックを目的とした「任意型検診」があります。
人間ドックは「任意型検診」であり、個人の健康を受診者の希望に応じてチェックする意味合いが強いです。そのため、対策型健診とは異なり、人間ドックを受け始めるべき具体的な年齢は申し上げにくいのですが、皆さん社会人になられると、十分な運動や休養も確保できず、ストレスを抱えて頑張る方が少なくないでしょう。疲れやすい、あまり眠れていない、など、大小問わず健康についての心配を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
もし健康上で心配なことがあれば、ぜひ一度人間ドックの受診を検討してみてください。私たちは些細な悩みも軽視せず、詳細な検査結果よりご安心していただくことも、明日からの健康相談にも応じる準備があります。
人間ドックの受診が、生活習慣のひずみを見直すきっかけになれば理想的と考えます。また、がんの発症リスクが高まる中年期以降に人間ドックを受けることで、がんを早期に発見し、治療へと移行できる可能性はあります。
人間ドックは“任意型検診”ですので、個人の年齢やニーズに応じてご利用ください。
日本人間ドック学会(公益社団法人日本人間ドック学会人間ドックQ&A)によれば、原則として1年に1回の頻度で人間ドックを受けることが望まれます。
上述のように、経過を見るように言われた所見があるなどでしたら、毎年いらしていただいてももちろん結構です。心配や不安を過度に煽り、過剰な検査、過剰な診断にならないよう、専門家が冷静な立場から助言することが病院の果たすべき役割です。得られた所見の全てが治療を必要とするわけではないのです。
一方で、必ずしも万能なものではありません。検査の限界を知りつつ、だからこそ、経過観察が必要である所見について検討させていただきます。
人間ドックでは、受診前に問診票を記入します。問診票には、食事や運動などの生活習慣、服用している薬の履歴、家族歴(近親者の健康状態、病歴、死因などの記録)など、細かい記入項目があります。
問診票の情報は、人間ドックの結果と合わせて、総合的に体の状態を判断するために非常に大切です。そのため、面倒だと思わずにできるだけ詳しく記入していただきたいと考えます。
さらに、人間ドックを受けようと思った理由や、気になる症状、日常生活で困っていることなどがあれば、問診票にぜひ記入してください。問診票を詳しく記入することで、1人ひとりに合ったオーダーメイドの人間ドックが完成するはずです。もちろん、問診票に書けなかったことなどがありましたら、遠慮なくスタッフにお伝えください。
かかりつけ医がいる方の場合、人間ドックは、普段みてもらっている病気以外の体の状態をより詳しく知る機会になる可能性があります。また、説明の時間を十分に確保しているため、普段の診療では聞けないような質問を投げかけることもできるでしょう。
定期的な体のメンテナンスとして人間ドックを受けることは、病気の予防や早期発見につながります。普段あまり病院に行く必要がなく健康に自信がある方でも、人間ドックを受けることで、さまざまな結果が出てくる可能性があります。
自分の体を健康に保つ、あるいは家族の体を健康に保つためのツールとして、人間ドックを活用していただきたいと考えています。
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科 非常勤
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