院長インタビュー

勤労者と地域の方々の多様なニーズに応えるために努力を続ける浜松ろうさい病院

勤労者と地域の方々の多様なニーズに応えるために努力を続ける浜松ろうさい病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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2017年に創立50周年を迎えた独立行政法人 労働者健康安全機構 浜松ろうさい病院(以下、浜松ろうさい病院)は、多様な勤労者の医療ニーズに応えるために、診療機能の総合化・高度化に努め、働く方々を医療の面から支え続けています。また同院は浜松市のみならず、磐田市、袋井市などの地域医療を担う病院としての役割も意識し、救急医療にも積極的に取り組んでいます。

その診療体制や勤労者医療に長年携わってきた同院ならではの取り組みについて、病院長の江川 裕人(えがわ ひろと)先生にお話を伺いました。

浜松ろうさい病院 外観
浜松ろうさい病院 外観

当院は、仕事のハイテクノロジー化などにより多様化している勤労者の医療ニーズに応えることができる病院を目指しています。そのために2019年4月に耳鼻咽喉科外来を再開し、さらに2020年1月から放射線科医師を常勤化するなど、より広範な病気に対応できるよう、診療機能の総合化に積極的に取り組んでいます。また2010年に行った病院の建て替え以来、救急医療にも力を入れており、二次救急医療を受け入れる体制を整備することで、大規模な災害時にも対応できるよう努力しています。

また、2024年2月、総合診療部という科を設立しました。これはとくに分野を特定しづらい症状の高齢の患者さんを診療する部門です。総合的に患者さんの状態を診て原因を特定し治療するには、医師として十分な経験や知識が必要になります。そのため、この部門は副院長や診療科長などといった役職の医師が担当し、各診療科間で風通しの良いコミュニケーションのもと診察を行うことで、患者さんのニーズにより合った医療の提供ができるようになりました。

また、消化器内科では診療体制も新たに、人員や手技、機器においてもしっかりとした消化器病診療を提供しています。特に2023年からは高い技術が要求される手術であるESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)を開始し、京都大学との連携で消化器にできた腫瘍を低侵襲(体への負担が少ない)に切除しています。

1967年の病院設立時に静岡県で最初の脳神経外科を開設し、現在も地域における脳神経外科診療の中心的役割を担うべく尽力しています。当院には日本脳神経血管内治療学会が認定する脳神経血管内治療専門医が在職し、2019年には脳卒中・脳血管内治療センターを開設して、24時間365日体制で急性期の脳血管疾患の治療を行っています。

患者さんの身体的負担が少ないとされる脳血管内治療にも積極的に取り組み、手術と血管内治療のどちらも適応可能な病気に対しては、一人ひとりの患者さんの容体や希望に応じて適切な治療方針を検討し選択しています。

外来フロア
外来フロア

当院は心血管疾患に対し、循環器内科と心臓血管外科で連携して心臓から胸腹部、下肢までの全身の血管治療にあたります。とくに手術が一刻を争う大動脈解離に対しては、チーム内でDXを活用することで来院30分以内に手術を開始できる体制をとっています(図1参照)。
また、2024年にハイブリッド手術室の設置工事の完了とTAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)の開始を目指しています。これにより内科的・外科的のすべての心血管治療が当院で可能となります。

 図1
図1(浜松ろうさい病院ご提供)

当院の泌尿器科は、がん治療の他、とくに排尿障害骨盤臓器脱について力を入れた診療を行っています。一般的に、高齢になるにつれ失禁などの排尿障害が出現しやすくなります。そのような排尿障害はご高齢の方でなくともご自身の尊厳にかかわるものです。失禁で不快になる、体が思うように動かずトイレが間に合わない、介護状態になると大人でありながらおむつが必要になってしまうなど、精神的にもつらい状態になりがちです。そういった方々に医療の力で可能なかぎり寄り添い、尊厳を保つ方法としての泌尿器科診療を目指したいと考えています。

泌尿器科部長である小堀 豪医師は長年排尿障害に取り組んでおり、難治性過活動膀胱に対する仙骨神経刺激療法をはじめ保険適用となる治療法を中心にこの分野に力を入れた診療を行っています。

当院の呼吸器内科は多くの患者さんを日々診療しており、勤労者に対しての医療提供という特性から、呼吸器内科ではアスベストに関する疾患をはじめ、慢性呼吸器疾患、じん肺喘息、肺線維症など経験豊富な医師が多く在籍しています。

呼吸器診療に関するさまざまな専門医資格を有する医師も多く、この規模の病院では医療活動レベルが高いと感じています。特に間質性肺炎は多くの実績があり、患者さんの状態に応じて最適な医療を提供しております。

当院は、仕事や子育てに従事されている女性が利用しやすい病院を目指しています。その取り組みの一環として、乳腺外科を中心に定期的に“休日女性がん検診”を行ったり、泌尿器科では、女性の尿失禁治療や骨盤臓器脱に対する経腟内視鏡手術に力を入れたりしています。整形外科では、ハイヒールを履くことによる外反母趾の保存治療や手術を行っており、外反母趾の危険性に関する啓発活動にも取り組んでいます。

形成外科では“乳房のかたち相談外来―乳がん術後の方へ―”を開設し、形成外科を開設した当時から行っている自家組織を用いた乳房再建手術に加えて、現在ではインプラントを用いた再建も取り入れています。乳がん手術後も、ご自身の乳房をきれいに保ちたいという女性患者さんの希望に応えるため、努力を続けています。

当院では診療科の垣根を超えたチーム医療を推進しており、先ほど述べた循環器内科と心臓血管外科の連携のほか、リハビリテーション科と診療各科の連携などもその一例です。
ほかにも、栄養管理が必要な患者さんに対して栄養療法や感染予防、リハビリテーションの面から、医師や看護師、管理栄養士、薬剤師などの多職種が連携する栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:NST)や、患者さんやご家族、職員など病院に関わる人を感染症から守るためにやはり多職種で構成される感染感染対策チーム(infection Control Team:ICT)などの専門チームがあり、より質の高い医療の定休王を行っています。

働く方々の予防医療活動と、治療と就労の両立支援の取り組みを行うために、“予防医療モデル事業”と“治療就労両立支援モデル事業”を実施しています。各事業では、過労死などの防止に関する予防医療活動そのものや、より効果的な病気予防法を開発するための調査・研究および集積事例の分析などを行い、勤労者医療全体の向上に資することを目指しています。また治療就労両立支援の取り組みとして、がん脳卒中などの治療をしながら仕事を続ける患者さんの悩み・困りごとに対して、無料でサポートを行っています。

市民に親しまれている浜松ろうさい病院
市民に親しまれている浜松ろうさい病院

専門分野の医療従事者による市民公開講座を定期的に開催しています。 この講座は、リハビリテーションや胆石といった市民の皆さんにとって身近な病気から脳卒中がんに至るまで、さまざまな病気とそれに対する医療についてよりよく知ってもらうことを目的に、無料で行っています。

動画を用いた病院紹介や病院広報誌“ろうさいニュース”の発行など、当院により親しみを持っていただくための活動にも力を入れています。

当院で提供する医療のさらなるレベルアップを目指して、学会、研修会などアカデミックな活動を積極的に行っています。浜松EAST医療連携セミナーと題した、地域開業医や他大学の先生方と共に行うセミナーを2~3か月に一度開催し、静岡県地域の医療の質向上にも貢献しています。

また、他院から紹介いただいた患者さんにスムーズに診療を行えるように、地域医療連携室および患者支援センターを設置し、ほかの医療機関との病診連携・病病連携の推進に取り組んでいます。

初期臨床研修と後期臨床研修(専門医プログラム)の二つのプログラムで研修医、専攻医を受け入れています。初期臨床研修では救急医療における実践的な診療能力を養うことが可能です。とくに研修2年目では、指導医監修のもと日中の救急当番のファーストタッチを行うカリキュラムの評判がよいです。医師としての力量の向上が見込めますし、命と向き合うことで学びも深まると考えています。

また、月2回程度、各科の指導医が持ち回りで各診療科の診療の基礎からケーススタディなど工夫して座学講義を行っており、こちらもよい評価を得ています。

地域医療への貢献を大切な使命としている中規模病院だからこその少数精鋭の環境で、充実した研修を受けられます。専門医プログラムは当院を基幹施設とする内科研修プログラムのほか、京都大学病院、浜松医科大学病院、岐阜大学病院、昭和大学病院、静岡市立静岡病院などを基幹施設とする基本診療科の専門研修プログラムの連携施設になっています。

浜松の方はやさしくて人のよい方が多いように感じます。当院はそのような浜松人のよさがにじみ出るような病院を目指したいと考えています。医療の質はもちろん、人間性においても厚みを持たせ、地域の皆様が安心して受診できるような病院でありたい。そのために、接遇面やマインドの向上につながるよう職員を育て、また職員自身も仕事において幸福感を感じそれが患者さんへの対応にもつながるよう、マインドウェルネスな取り組みで病院全体の質が向上していくよう努めています。

また、当院は“ろうさい“という名称からけがをした人が行く病院というイメージがあるかもしれませんが、そのようなことはありません。職業起因する疾患をお持ちの患者さんはもちろん、これからも地域のあらゆる患者さんを受け入れ医療において地域向上の一助となれるよう力を尽くしてまいります。

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