国立国際医療研究センター病院では、不妊症に対する治療に取り組んでいます。高齢出産や婦人科疾患を抱える方など、リスクの高い患者さんを積極的に受け入れている点が特徴です。
今回は、国立国際医療研究センター病院 産婦人科 診療科長の大石 元先生に、同院の不妊症の治療の特徴についてお話を伺いました。
当院の不妊外来には、ホームページを見て来院される方が多いです。あるいは患者さんのご紹介も多いですね。また、当院で何らかの病気で手術を受けられて妊娠を希望されている場合には、なるべく早く不妊外来を受診するようお伝えしています。
ここでは、当院の不妊治療の特徴についてご紹介します。
当院では、不妊治療を行う前に、原因を明確にするために必ず検査を行います。原因がはっきりしないまま治療を行った場合、効果のない治療を続けることになりかねないからです。たとえば、両方の卵管が閉鎖しているために不妊症になっているのに、自然妊娠を目指してタイミング法を続けても妊娠は期待できないでしょう。このようなことがないよう、治療の前には一通りの検査をさせていただいています。また、 男性不妊のスクリーニング検査にも対応しており、主に精液検査を行っています。
当院は、合併症をお持ちの方の不妊治療にも積極的に取り組んでいます。たとえば、糖尿病や甲状腺の病気を持つ患者さんを受け入れ、可能な限り負担の少ない治療を行っています。少々リスクがあったとしてもできる限り受け入れているので、どのような方でも受診いただきたいと思います。
また、婦人科疾患を持つ方の不妊治療にも積極的に対応しています。たとえば、子宮筋腫や子宮内膜症がある方の手術を行う場合には、卵子の数が減ってしまうことを考慮し、先に卵子を採取しておくことがあります。手術後に、その卵子を用いて体外受精を行う想定をしているためです。
ただし、婦人科疾患の手術後には卵巣の機能が低下してしまうことがありますので、手術は慎重に選択するようにしています。
当院は妊婦健診からお産まで受け入れているので、不妊治療によって妊娠した場合には、そのまま出産まで当院で担当させていただくことが可能です。特にリスクの高い出産となる方も積極的に受け入れています。たとえば、高齢で妊娠した場合には出産自体がハイリスクとなりますし、子宮筋腫のある方は早産になる可能性が高くなるといわれています。たとえ早産になったとしても、当院にはNICU(新生児集中治療室)があるため、そのまま受け入れることができるケースが多いでしょう。
検査の結果、男性に不妊症の原因があることが分かった場合、精子がある程度あれば体外受精などを検討します。ただし、なかには精子がまったくないというケースもあります。あるいは精索静脈瘤など何らかの病気が原因で不妊につながっているケースでは、手術が必要になることもあります。このように、男性の治療が必要となる場合には、連携している男性不妊を専門とする医師へご紹介も行っています。
仕事を大切にされている方には、できるだけ仕事をやめることなく不妊治療に取り組んでいただきたいと考えています。不妊治療によって必ず妊娠するとは限りません。大切にされていた仕事をやめて不妊治療を続けて妊娠にいたらない場合、「何も残らなかった」と虚しさを感じてしまうかもしれません。もちろん、仕事によっては不妊治療のために休暇を取ることが難しく、やめることを選択せざるを得ない状況もあると思います。
仕事と不妊治療を両立するために、不妊治療連絡カードというものも登場しています。不妊治療連絡カードとは、仕事と不妊治療の両立を行う従業員が企業側に不妊治療中であることを伝えたり、企業の制度を利用したりする際に活用されるものです。このようなカードの利用も検討しながら、できる限り仕事と不妊治療の両立を目指していただきたいと思います。
私が知る限り、日本ではカップルが一緒に不妊治療のために受診されるケースは少ないように思います。ですが私は、お二人で不妊治療に取り組むことをおすすめします。一緒に受診されている方たちのほうが、結果がよくても悪くても良好な関係を築けると感じるからです。たとえば、体外受精を行ったとしても、必ず妊娠にいたるわけではありませんし、なかには流産を繰り返してしまう方もいらっしゃいます。妊娠にいたらず月経がくる度に落ち込んでしまうパートナーを励ますことができるかどうかでその後の関係も変わってくるかもしれません。
良好な関係を築くためにも、ぜひ一緒に受診し、お互いの状況や治療について理解しながら取り組んでいただきたいと思っています。
2022年4月より、不妊治療の保険適用がスタートし、婚姻関係にあるご夫婦あるいは事実婚のカップルは、前ページでご紹介した人工授精や体外受精も保険診療で受けることが可能になりました。
ただし、体外受精に関しては保険適用に対する年齢や治療回数に制限が設けられています。具体的には、治療をスタートする時点で女性の年齢が43歳未満であることが定められています。また、治療回数は、女性が40歳未満の場合でしたら子ども1人に対して最大6回まで、40~43歳未満の場合は子ども1人に対して最大3回までという制限があります。
このような条件はあるものの、以前(2021年度まで)と比べて患者さんの治療費負担分も相当軽くなり、不妊治療を受けやすくなったといえるでしょう。
不妊症は、本人やご家族にとっては非常につらい状態であると思います。病院にかかってよいのか迷うこともあるかもしれませんが、半年間避妊せずに性交渉を行っても妊娠しないようであれば、早めに受診していただいたほうがよいと思います。人それぞれの状態にもよりますが、大きく影響するのは女性の年齢です。特に女性の年齢が35歳以上であればチャンスは限られてしまいますので、早めの受診を検討してください。私は、治療をスタートするときには「うまくいかないこともあるからよく考えてほしい」と伝えています。人生の選択なので、よく考えて治療を選んでいただきたいと思います。
国立国際医療研究センター病院 産婦人科 診療科長
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