神奈川県茅ヶ崎市にある茅ヶ崎市立病院は新しい医療機器や優秀な先生方をそろえ、救急、がん診療、周産期医療などで地域医療の中核的な役割を担っています。
同院が提供する医療や今後の方針について、病院長である藤浪 潔先生にお話を伺いました。
当院は1943年(昭和18年)に、当時の茅ヶ崎町が民間の赤羽病院を買い取って開設されたのが始まりです。1959年(昭和34年)に国民健康保険直営病院となった後、1967年(昭和42年)に茅ヶ崎市立病院となり、1972年に現在の地に移転。2003年に現在の新病院を建設し、2019年には別棟が完成して、現在は401床、28の診療科を備える、湘南東部医療圏(茅ヶ崎市、藤沢市、寒川町)の医療の中核を担う病院となっています。
当院には数多くの特徴がありますが、なかでも救急医療を提供していること、神奈川県のがん診療連携指定病院として地域のがん診療をけん引していること、整形外科領域に力を入れていること、そして茅ヶ崎という土地にふさわしい、あたたかな雰囲気のなかで災害拠点病院として、また地域医療支援病院としてお住まいの方が安心できる医療を提供していることが挙げられます。
当院は二次救急(手術や入院が必要な重症の患者への救急医療)を担当しており、断らない救急を目標に24時間365日体制で患者さんの搬送を受け付けています。年間の救急車受け入れ台数は約5,000台(2023年度時点)に上り、年々増える救急医療のニーズに応えるべく、2023年には救急外来の診察室、観察室の拡張を行いました。当院は特に急ぎの対応を求められる心筋梗塞のような心血管疾患や脳卒中のような脳血管疾患にも、救急隊と連携して対応しています。
また、神奈川県から地域唯一の地域周産期母子医療センターとして指定を受けており、湘南地域全体のハイリスクな分娩にも対応しているほか、28週以降の早産児も受け入れて新生児集中治療室(NICU)で治療を行っています。小児救急も24時間365日急患の受け入れを行っており、地域にお住いの皆さんのいざというときに対応できる体制となっています。
当院は神奈川県がん診療連携指定病院の指定を受けており、手術、放射線治療、化学療法のがん治療の3本柱による集学的治療を患者さん一人ひとりに合わせて行っています。
手術では、精緻でより安全、低侵襲(体に負担が少ない)な治療が可能になる手術支援ロボット“ダヴィンチ”を2023年に導入し、前立腺がん、直腸がん、結腸がんの手術で症例数を積み重ねてきました。
放射線治療では放射線治療装置“TrueBeam”を2023年に導入しました。この装置では直線加速器(リニアック)による高エネルギーの放射線を高精度に照射することができ、より副作用を抑えた治療が可能になっています。また、化学療法は2022年に外来化学療法室をリニューアルして6室から12室に増やし、広く明るい部屋でゆったりと治療を受けていただくことができます。
がんは早期発見、早期治療が重要です。そこで当院では、がんの治療だけでなく検査にも力を入れています。
2021年にオープンした内視鏡センターには、内視鏡検査室(3室)と透視下内視鏡室(1室)に加え、10床の新しいリカバリーベッドを備えているので、検査後にゆっくりとお休みいただけます。さらに当センターでは超音波内視鏡による診断や治療、胆道鏡や膵管鏡を使った治療も行っていますが、このような大学病院レベルの治療を受けられる地域の病院はまだまだ少ないのではないでしょうか。
なお、当院は神奈川県がん診療連携指定病院として“がん相談支援センター”を設けています。がんに関するお悩みや不安、心配ごとについて、患者さんやご家族のみならずどなたでも相談いただけるので、ぜひご利用ください。
高齢化の進行に伴い、救急でも平時でも整形外科の患者さんが増えています。その状況に応えるため、当院では2023年に整形外科を中心に多職種連携で治療を行う“脊椎センター”と“人工関節センター”をオープンしました。
脊椎センターでは腰椎椎間板ヘルニア、脊柱菅狭窄症などの脊椎脊髄疾患に対する診断から治療までを行っています。人工関節センターでは変形性股関節症や変形性膝関節症の治療として、人工関節を用いた治療を実施します。
両センターの特徴は、コンピューターナビゲーションシステムという新しい技術を取り入れていることです。脊椎脊髄疾患も関節疾患も、手術では非常に繊細な手技が要求されます。これに対しコンピューターナビゲーションシステムを使うことで、手術でネジやインプラントをどの位置に埋め込むべきかをコンピューターで計測することができ、より正確で安全な治療が期待できるようになりました。手術時間の短縮や合併症のリスク低下にも寄与するので、保存治療だけ改善が難しい方はぜひかかりつけの先生にご相談のうえ、当院へいらしてください。
国内では、災害発生時に地域の救急医療の拠点となる“災害拠点病院”が600以上指定されています。神奈川県での災害拠点病院は人口や地域性が考慮され、2次医療圏に複数の病院が指定されています。湘南東部医療圏では茅ヶ崎市立病院と藤沢市民病院が指定されています。
当院は震度7に耐え得る耐震構造をもち、非常用電源を設置したり屋上にヘリポートを設置したりするなど、災害に対する準備を行っています。また毎年災害対応訓練を実施したり、厚生労働省が主催する研修を修了した災害派遣医療チーム“DMAT”を院内に結成し、災害への備えを怠っていません。
当院は地域医療支援病院、紹介受診重点医療機関であり、地域の基幹的な病院として急性期の患者さんに対する医療を提供しています。当院での治療が終わった後は地域の医療機関にご紹介して引き続き治療をしていだいたり、ご自宅での療養をしていだきますが、その際は当院・地域の医療機関・かかりつけの先生や薬局・介護事務所・訪問看護ステーションなどが連携し、この地域全体で皆さんを診させていただきます。
このような“地域完結型医療”は、住み慣れた湘南の地で安心して暮らし続けるための基礎になるものと信じています。ぜひ皆さんには日頃からかかりつけ医を持っていただき、何かあれば診察を受け、必要な場合は当院へ紹介状を持って来ていただくようお願いいたします。
我々は公的な病院として、2020年から2023年まで続いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行時には対応の先頭に立ち、多くの患者さんを受け入れました。また、これまで紹介した救急医療、がん診療、小児・周産期医療、整形外科を中心に新設したセンター、地域完結型医療への取り組みも、市立病院として重要な責務だと考えています。
これらの重要な取り組み行うことで、お住まいの皆さんから選ばれる病院になりたい、そして職員が働きたいと思える病院になりたいと思っています。
個人的な話になりますが、私は泌尿器科の外科医としての経験を重ねるなかで、「言いたいことを言える雰囲気づくりが重要だ」ということを学びました。私は手術を行う際、若い医師に「なぜ今それをやるのか」を説明しながら行い、また手術中に疑問に思ったことは何でも言ってほしいと口を酸っぱくして言いました。結局それが、若い医師を育て、ミスを防ぐのに効果的だったからです。遠慮なくモノが言える雰囲気を作るためには、組織全体にわたってそれを許容する風土が必要です。
私は院長に就任して以来これに真摯に取り組み、最近は来院される方から「あたたかくていい雰囲気の病院ですね」と言っていただけるようになりました。人が明るくあたたかな茅ヶ崎の街にふさわしい病院になれるよう、職員一同、これからも努力してまいります。