院長インタビュー

脳卒中と整形外科の診療に特化し革新を続ける横浜市立脳卒中・神経脊椎センター

脳卒中と整形外科の診療に特化し革新を続ける横浜市立脳卒中・神経脊椎センター
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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神奈川県横浜市磯子区にある横浜市立脳卒中・神経脊椎センターは、脳卒中や整形外科の疾病などに対する超急性期医療から回復期リハビリテーションに対応し、介護老人保健施設を併設してシームレスに患者さんを支える公立病院です。空から病院を見ると建物が“Y字”になっていることも、横浜市が寄せる期待の表れかもしれません。同院の病院長を務める齋藤 知行(さいとう ともゆき)先生に、特徴的な取り組みや思いを伺いました。

先方提供
病院外観(横浜市立脳卒中・神経脊椎センターご提供)

当院の歴史は、1999年に脳血管医療センターとして開院したことに端を発します。その背景には、当時我が国でがん心疾患と並び、脳血管疾患が死因の上位となっていたことを課題と捉え、地域に公的なリハビリテーション施設を整備しようとする横浜市の英断がありました。そのような経緯もあり、開設当初は脳卒中および神経疾患に特化した病院(脳血管医療センター215床、介護老人保健施設40床)でした。翌年には増床して300床となり、さらに高齢化が進む社会のニーズに対応するべく2012年に整形外科(当時は脊椎脊髄(せきついせきずい)外科と呼称)を開設、2015年に“脳卒中・神経脊椎センター”へと名称変更、そして2019年に膝関節(しつかんせつ)センターを設置し、現在に至ります。

開設当初から“脳卒中の患者さんを入り口から在宅まで”の概念を大切にしており、脳卒中への専門的な治療はもとより、個々の患者さんが求めるゴールに向けた的確なリハビリや、併設した介護老人保健施設への連携まで、シームレスな診療に努めてきました。2022年には日本脳卒中学会より“一次脳卒中センター(PSC)コア”に認定され、一刻を争う脳卒中の専門的な救急対応を24時間365日体制で行っています。

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リハビリテーション室(横浜市立脳卒中・神経脊椎センターご提供)

当院はリハビリを基盤として、脳神経内科、脳神経外科、整形外科の3本柱を中心とした診療に従事してきました。対応しているのは主に脳卒中を中心とした脳血管疾患、心不全などの循環器疾患、パーキンソン病筋萎縮性側索硬化症ALS)などの神経疾患、学齢期から成人期までの脊椎脊髄疾患、高齢の方に多い変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)などの膝関節疾患です。これらの疾病に対して、超急性期から回復期までの専門的な治療を提供しています。

近年は老老介護や独居の高齢の方など、都市型の高齢化の問題も顕在化してきました。特に横浜市は坂が多い地形上、高齢の方にとっては日常生活における移動が負担となるなど独自の問題もあります。さらに、国内全体では超高齢社会となり心不全のパンデミックの時代に突入しつつあるのです。そのような社会の変化や地域特性を踏まえ、今後は心臓リハビリを含む臓器別リハビリを強化するなど、人々のニーズに応え続けるために変革をいとわない所存です。

当院は市内における脳卒中の救急搬送を受け入れており、直近では年間828件の救急搬送に対応しました(2022年4月〜2023年3月集計)。脳卒中は“時間との闘い”、つまり治療の開始が早ければ早いほどその有効性が高く、後遺症を軽減できる可能性がある病気です。基本的に、t-PA静注療法(血栓を溶かして詰まった血管を再開通させる方法)は発症から4.5時間以内の症例に適応となり、血栓回収療法(詰まっている血栓を血管内から取り除く方法)は8時間以内がもっとも効果的とされています。

このように脳卒中の治療は一刻を争うことが多いことから、我々は市民への啓発と救急隊との連携には特に注力してきました。横浜市の救急隊は非常に協力的で、年に2回ほど開催する市民講演会では、救急隊も参加して市民に呼びかけを行ったこともあります。今後も病院と救急隊との連携、そして地域の方々への情報発信を通じて、脳卒中の早期発見に努めていきたいと考えています。

整形外科では、骨、関節、神経、筋肉からなる運動器の疾病に対する治療を行っています。脊椎脊髄疾患に対する手術は年間503件、膝関節疾患と骨折に対する手術は合わせて125件を実施しました(どちらも2023年1月〜12月集計)。

高齢の方の場合、加齢に伴い体のさまざまな部位がゆるやかに変性するため、変形性脊椎症や関節症などを発症し、腰痛や関節痛を引き起こすことがあります。当科では症状や状態に応じて、まずは運動療法や薬物療法、保存療法を行い、それらの治療ではあまり改善がない場合には手術を検討します。また術後は一人ひとりのニーズや状態に応じて丁寧なリハビリをなるべく早期に開始し、早めの社会復帰を目指すのが当院のポリシーです。

側弯・脊柱(せきちゅう)変形外来を開設していることもあり、当科では“思春期特発性側弯症”の患者さんも多く担当しています。側弯症の治療を行う際はレントゲン写真の撮影を行うのですが、子どもは大人よりも放射線の感受性が高く、放射線被曝量が治療における課題と認識されていました。そのようななか、当科では被曝量が少ないレントゲン装置“EOS”を導入し、子どもの患者さんでも安心してレントゲン撮影ができるような環境を整備しました。

当院は2014年に“脳卒中・神経脊椎センター臨床研究部”を発足しました。部長の秋山治彦(あきやま はるひこ)先生を中心に、これまで脳卒中、めまい、平衡障害、脊椎疾患、骨粗鬆症アルツハイマー型認知症などに関する臨床研究を進めてきました。

中でも特に認知症に関しては、アルツハイマー型認知症の原因にはたらきかける(軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制)治療薬が2023年に薬事承認されるなど、世界規模で根本的治療薬の開発が進んでいるところです。患者さんやご家族にとっても大きな希望となっていることでしょう。我々としても積極的に研究へ参加し、医学の発展と認知症の克服に寄与できるよう努める所存です。また今後の展望として、運動習慣や栄養などに気を付けることで病気を未然に防ぎ、健康寿命の延伸を目指す“予防医療と予防医学”の取り組みも始めたいと考えています。

当院の特色の1つは、職員主導の多様なプロジェクトを立ち上げていることです。たとえば“ふるさと納税”の取り組みも若手のアイデアで実現したプロジェクトの1つで、脳ドックやもの忘れドックに使える検診チケットを返礼品としています。寄付者がご自身で使用するのはもちろんのこと、両親にプレゼントする方もいるようで、この取り組みが疾病の予防や早期発見のきっかけになれば我々も嬉しい限りです。

そのほかにも、職員が思い思いの写真を撮影し、表彰する“写真大会”も開催しました。多職種間で交流するきっかけが生まれ、職員の思いや視点を知るよい機会にもなると職員からも好評です。このようなプロジェクトを通じて職員同士のコミュニケーションが活発化し、ひいては組織の強化と医療現場でのスムーズな連携につながることを期待しています。

安定的に医療を提供するためには、職員の確保と定着が大切です。中でも、若手医師に選ばれる職場にすることは肝要と考えます。若手医師が職場選択の際に何を意識するかといえば、医療技術の獲得が大きな要素となるでしょう。このような考えから、当院では2023年に、整形外科に人工関節手術支援ロボット“ROSA Knee System”を新たに導入しました。これは人工膝関節置換術において執刀医のサポートを行う手術支援ロボットで、術者の熟練度の差にかかわらず良好な結果が期待できる点や、より精度が高く体への負担が少ない手術を目指せる点がメリットです。

病院にとって、新たな医療機器を導入するのは容易ではありません。しかし、若手医師の確保と定着、そしてよりよい医療提供体制の維持を目指し、これからも我々は環境の整備を続けます。そして横浜市と市民の皆さんの期待に応え続ける存在でありたいと強く思います。

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