僧帽弁閉鎖不全症とは、心臓の弁が正常に機能せず、血液が逆流をきたすようになる病気です。軽症の場合は症状が出にくいですが、病気が進行して心臓が大きくなる前に、できるだけ早く治療を始めることが重要です。
本記事では、僧帽弁閉鎖不全症とはどのような病気なのか、原因や症状、検査などについて解説します。
“僧帽弁”とは、心臓の左心房と左心室の間にある弁のことです。心臓の弁は、2枚の葉っぱのような弁尖からできており、細いひも状の腱索という組織で引っ張られています。その弁が開いたり閉じたりすることによって、弁として機能し、心臓の中を血液が一方向に流れるようにする役割を果たします。しかし、弁が正常に機能せず、血液が逆流をきたすようになると、“僧帽弁閉鎖不全症”が生じます。
僧帽弁閉鎖不全症は、若い方には少なく、40~50歳代から増えていきます。
僧帽弁閉鎖不全症の原因には、いろいろなものがあります。過去には、リウマチが原因の僧帽弁閉鎖不全症がよくみられましたが、近年では少なくなりました(2019年12月時点)。現在は、弁を引っ張っているひも状の組織(腱索)がゆるんだり、切れたりして起こることが多いです。しかし、僧帽弁閉鎖不全症が発症したきっかけが、リウマチなどの病気以外である場合、原因がはっきりとは分からないことが多いです。
僧帽弁閉鎖不全症の原因として考えられる病気には、次のようなものがあります。
一部の患者さんは、バーロー症候群という生まれつきの病気により、若いときから僧帽弁閉鎖不全症を発症する可能性があります。バーロー症候群では、弁がふやけたようになり、腱索が伸びた状態になるためです。
心臓の弁や腱索などに細菌が付着して感染を起こす感染性心内膜炎により、まれに僧帽弁閉鎖不全症を発症することがあります。感染性心内膜炎は、主に虫歯や腎臓の細菌感染などがきっかけで体内に細菌が回り、引き起こされる感染症です。
僧帽弁閉鎖不全症は、まだ進行しきっていない状態では、症状があまり出ないことが多いとされます。
病気が進行すると、咳が出たり、だるさや疲れやすさを感じたりすることがあります。そのほか、トイレに行く回数が増えることが多くなります。
僧帽弁閉鎖不全症が非常に悪化すると、肺うっ血が起こり、仰向けに寝るときに苦しさを感じることがあります。起き上がった状態では、血液は足や肝臓などのほうに多く流れますが、寝た状態では、多くの血液が心臓に返ってくるからです。僧帽弁閉鎖不全症によって、肺から血液を汲みだして全身に送ることが難しくなると、体を起こした状態でなければよく眠れないという患者さんもいらっしゃいます。
また、動悸がよく起こることがあります。動悸は、不整脈の1つである心房細動が起こり始めているサインの可能性があります。心房細動とは、心臓の上部にある2つの部屋(右心房、左心房)が小刻みに動き、けいれんする状態のことです。血液の逆流が増えて左心房が大きくなると引き起こされます。このような心房細動は、最初は急に起こってすぐ治まりますが、進行すると慢性的に起こるようになり、ずっと脈が飛んでいる状態になったり、脈が速くなったりします。
病気がさらに進行すると、心不全を引き起こすことがあります。
先にお話ししたように、進行しきっていない僧帽弁閉鎖不全症では、症状がない場合があります。そのため、健康診断などで「心臓の拡大は中程度ですが、症状がないから大丈夫ですよ」と言われることもあると思います。しかし、実は、心臓が大きくなっていることが病気の進行を示すサインです。咳き込んだり、ピンク色の痰が出たりする場合は、命に関わる重症心不全の状態です。このような状態が起こる前に、僧帽弁閉鎖不全症を専門的に診療している医師から適切な診断を受けることが重要です。
僧帽弁閉鎖不全症の診断の際に必要な検査は、次のとおりです。
僧帽弁閉鎖不全症では、軽度でも心雑音が出ます。心雑音で異常が発見されれば、超音波検査などのより詳しい検査につなげることができるため、聴診によって確認することが重要です。
僧帽弁閉鎖不全症を診断する際は、超音波検査、心電図検査、X線検査が重要です。
超音波検査は、血液の逆流の率や量、心臓の大きさ、不整脈になっているか、バーロー症候群であるか、心臓のどこの部分が切れているかなど、さまざまなことを調べることができます。いくつかの項目を総合的に診ることで診断します。
僧帽弁閉鎖不全症が進行していると、心電図検査で不整脈を確認できます。また、X線検査で心臓の拡大がみられます。
血液検査では、心臓を守るために分泌されるホルモンであるBNPの数値を調べることがあります。BNPの数値が高い方は、心不全が進行していることがほとんどであるため、僧帽弁閉鎖不全症の診断をするうえで、1つの指標となります。ただし、僧帽弁閉鎖不全症を発症していても、BNPの数値が上がらないこともあるため、上記のような総合的な検査を行うことが大切です。
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