概要
角化症とは、皮膚の表皮のもっとも外側にある角質層が厚く硬くなる病気の総称です。通常、皮膚の表皮のもっとも内側にある基底層では、新しい角化細胞が生成されています。この細胞が徐々に皮膚の表面へと押し上げられて角質細胞に変化し、最終的に皮膚から剥がれ落ちます。角化症では、この角化のプロセスに異常を生じ、過剰な角質が蓄積したり異常な角質が形成されたりします。
このように異常な角化を生じる病態は、総称して角化症と呼ばれます。この疾患群には乾癬、扁平苔癬、魚鱗癬などさまざまな種類が含まれています。
角化症の発症メカニズムは複雑で、主な原因として遺伝的要因と環境要因が挙げられます。遺伝的要因には特定の遺伝子変異が関与し、環境要因には紫外線曝露、物理的刺激、薬剤、生活習慣などが含まれます。多くの場合、これらの要因が複雑に絡み合って発症に至ると考えられています。
治療は大きく薬物療法と外科的治療に分類されます。薬物療法には、外用薬として保湿薬、角質軟化薬(尿素軟膏やサリチル酸含有製剤など)、ステロイド外用薬があり、これらで十分な効果が得られない場合は種々の副作用を考慮してエトレチナート(ビタミンA誘導体)、シクロスポリン(免疫抑制薬)やアプレミラスト(PDE4阻害薬)などが選択されます。外科的治療には、凍結療法、外科的切除、レーザー治療などが含まれます。治療法の選択は、角化症の種類、重症度、り患部位、患者の年齢や全身状態などを総合的に考慮して決定されます。
種類
異常な角化を生じる病気には以下のようなものがあります。
など
原因
角化症の原因は多岐にわたり、主に遺伝的要因と環境要因が挙げられます。しかし、角化症の種類によって原因が異なるほか、通常は複数の要因が複雑に絡み合って発症します。
遺伝的要因
一部の角化症は、遺伝子の変異が原因となって起こります。たとえば、魚鱗癬の中でももっとも一般的な型である尋常性魚鱗癬は、フィラグリンという皮膚のバリア機能に関わる遺伝子の変異によって引き起こされます。また、先天性角化異常症は、生まれつき染色体のテロメア*に関連した遺伝子が変異していることが原因で発症します。さらに、手のひらや足の裏の角質が厚くなる掌蹠角化症も遺伝性であり、幼少期から症状が現れます。毛穴の周りに角質が過剰に蓄積する毛孔性苔癬や、汗腺の開口部に角質が詰まる汗孔角化症なども遺伝的要因の関与が知られています。
*テロメア:染色体の末端にある構造で、細胞分裂の際に重要な役割を果たす。
環境要因
外部からの刺激などの環境要因によって引き起こされる角化症もあります。たとえば日光角化症は長年の紫外線曝露が主な原因となって発症します。また、加齢とともに増加する傾向にある脂漏性角化症は、紫外線と皮膚の老化が原因と考えられています。
日常生活で経験する物理的な刺激も角化症の原因となることがあります。たとえば、鶏眼や胼胝は、革靴や道具などによる皮膚への慢性的な圧迫・摩擦によって引き起こされます。
また、乾癬など一部の角化症では、不規則な生活、偏った食事、ストレス、肥満といった生活習慣に関連する要因が発症や悪化のきっかけとなることがあります。
そのほかの要因
ほかにもさまざまな要因が角化症の発症に関与しています。後天性の角化症は、悪性腫瘍、サルコイドーシス、甲状腺機能低下症、膠原病などの病気に伴って生じることがあります。
乾癬でもっとも多い尋常性乾癬は糖尿病や脂質異常症、肥満といったメタボリックシンドロームが基礎にあることが多く、それに外傷や感染、ストレス、薬剤などが引き金となって発症すると考えられています。
症状
角化症にはさまざまな種類がありますが、多くの場合、特徴的な角化病変が皮膚に現れます。また、角化以外の症状を伴うこともあります。以下に代表的な角化症の症状を説明します。
尋常性乾癬
尋常性乾癬では、皮膚表面に銀白色の鱗屑*が付着した盛り上がった紅斑局面がみられます。その部分をこすり取ると点状に出血がみられることがあり、乾癬と診断する目安になります。通常、病変部のかゆみはみられませんが、ときにかゆみや爪の変形、関節炎を伴ったりすることもあります。症状は頭や肘、膝、お尻、すねなど日常的に刺激を受けやすい部位に現れやすく、まれですが全身に広がることもあります。
*鱗屑:皮膚の表面から剥がれ落ちる鱗状の角質のこと。
毛孔性苔癬
毛孔性苔癬では、皮膚の毛穴に小さなぶつぶつした発疹が現れます。これらの発疹は赤みを帯びていることも、色素が沈着して肌が黒ずんだりする場合もあります。通常、痛みなどの自覚症状を伴うことはありません。
扁平苔癬
扁平苔癬は、胴体、手首の内側、足、性器などに、かゆみを伴う赤色もしくは紫色の小さく盛り上がった発疹が現れます。発疹は次第に鱗屑を伴い、発疹が地図のように広がることもあります。また、口唇や口腔粘膜にも症状が現れることもあり、その場合は線状や網目状、レース状、 環状の白い斑点、白苔*、口唇のびらん(皮膚がただれている状態)などが生じます。口の中が荒れて刺激痛や灼熱感などを覚えることもあります。
*白苔:喉の奥にできる白い苔状の付着物のこと。
脂漏性角化症
脂漏性角化症は高齢の方に多くみられ、顔などにイボ状に盛り上がった茶色または黒色の病変ができます。表面はややざらついており、しばしば加齢によるシミ(老人性色素斑)と混在して現れます。時には、もともとシミだったものが脂漏性角化症に変化することもあります。
魚鱗癬
先天性魚鱗癬では全身の皮膚が赤くなり、皮膚が魚の鱗やサメ肌のような状態になります。魚鱗癬の中でも、非水疱型魚鱗癬様紅皮症や道化師様魚鱗癬と呼ばれる型では、手のひらや足の裏の皮膚が厚く硬くなるほか、唇やまぶたが反りかえったり耳が変形したりするなどより重度の症状が現れ、新生児期~乳児期に重篤な状態となることがあります。学童期までに軽快することもありますが生涯にわたり対症療法による治療が必要です。
鶏眼・胼胝
鶏眼は、主に足の裏、足指の甲側や側面への物理的圧迫で生じます。皮膚の下の骨のある部位にできるため、通常その部分に痛みを伴います。
一方、胼胝は、足の裏や甲、足指の側面、手のひら、手指、肘、膝などが円形に角化したもので、通常痛みはないか軽度です。
汗孔角化症
汗孔角化症は手の甲、足の甲、肘、膝、胴体、顔に症状が出やすく、円形や楕円形の膨らみを示す角化性の発疹が特徴です。典型的には、発疹の中央部が萎縮し少しへこんでいます。
日光角化症
日光角化症は、長年にわたって顔、耳介、うなじ、前腕、手の甲など紫外線にさらされやすい部分(露光部)に生じる皮膚の異常です。この状態は、時間が経過すると皮膚がんに進行する可能性がある「前がん状態」に変化することがあります。皮膚表面の毛細血管の拡張や萎縮が目立つ紅色調の局面*がみられたり、淡紅色~褐色調のざらざらした小結節**がみられたりすることもあります。びらんや出血がある場合は、積極的に切除して病理検査を行うことが重要です。
*局面:平坦な皮膚の盛り上がりのこと。
**結節:しこりのような皮膚の盛り上がりのこと。
検査・診断
角化症の検査は、問診と視診から始まります。問診では発症年齢、家族歴、病歴などを確認します。視診では、皮膚の状態、症状の部位、形状などを観察し、必要に応じて皮膚生検を行います。生検とは、小さな皮膚組織を採取し顕微鏡下で詳細に調べることで、角化の異常や炎症の程度を確認して病理診断を行います。また、特定の角化症では、遺伝子検査を実施し、関連する遺伝子変異の有無を調べることもあります。さらに、そのほかの病気との関連を調べるため、血液検査や尿検査が行われることもあります。
治療
角化症の治療法は、その種類や重症度によって異なります。具体的な治療法は以下のとおりです。
薬物療法
薬物療法では、さまざまな外用薬や内服薬を使用します。
保湿薬は皮膚の乾燥を防ぎ、皮膚を保護します。サリチル酸ワセリンや尿素クリームなどの角質軟化薬は、硬くなった角質を柔らかくし、除去しやすくする作用があります。
エトレチナートは、ビタミンA誘導体で重度の角化症に対して処方される内服薬です。また、炎症を抑えるためにステロイド薬が使われることもあります。これらの薬物は、症状を和らげる対症療法として使用されたり、より根本的な治療の一部として用いられたりします。
外科的治療
外科的治療には、主に凍結療法、外科的切除、レーザー治療があります。
凍結療法は液体窒素で病変を凍らせる治療法で、麻酔を必要とせず、比較的簡便に病変を取り除けるため、よく行われています。外科的切除は、メスを使って病変部を切り取る方法で、もっとも確実に病変を除去することが可能です。
特に日光角化症の場合は、皮膚がんに進行するリスクがあるため、外科的切除と病理診断が第一選択となります。良性病変であることが確認できればレーザー治療も可能で、局所麻酔をした後、病変にレーザーを照射して組織を削り取ります。
日常生活の対策
日常生活においては、保湿や紫外線対策、適切な靴の選択が重要です。皮膚が乾燥し水分が不足すると症状が悪化しやすくなります。乾癬では特殊な波長を利用した紫外線治療が行われることがありますが、無防備に紫外線を浴びると老化変性が進み皮膚の乾燥がさらに進行します。日常的には紫外線対策を十分に行い、乾燥を防ぎましょう。また、鶏眼や胼胝など足に角化した病変がある場合、圧迫や摩擦で悪化することがあります。繰り返しの刺激を避けるためにも、サイズがあった適切な靴を選ぶことが大切です。
医師の方へ
「角化症」を登録すると、新着の情報をお知らせします