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胃切除後障害のひとつ、逆流性食道炎とはどんな病気?【講演録②】

胃切除後障害のひとつ、逆流性食道炎とはどんな病気?【講演録②】
中田 浩二 先生

川村病院 外科 、東京慈恵会医科大学 客員教授

中田 浩二 先生

この記事の最終更新は2018年04月08日です。

胃がんなどで胃を切除したことにより引き起こされる胃切除後障害。その概要と詳細について、「胃を切った人 友の会 アルファ・クラブ」でセミナーが開催されました。登壇者は東京慈恵会医科大学の中田浩二先生。胃切除後によくみられる障害とその原因。また、それぞれの障害にどのような対処をするのか。ひとつずつ詳細にお話しいただきました。

 

胃切除後にしばしばみられる障害に、逆流性食道炎があります。胸やけや呑酸(酸味のある胃液が口に上がってくる)が特徴的な症状です。

通常、胃の入り口(噴門)は下部食道括約筋のはたらきによって、胃の内容物が食道に上がってこないようにぎゅっと閉じています。しかし、そこが開きっぱなしになったり、緩んでしまったりすると、胃の内容物が逆流し、上に上がってきてしまいます。

胃の周辺には胃を固定している膜がありますが、手術をする際には、これらを切ったり、剥がしたりします。すると胃の固定が緩むため、本来お腹のところにあったはずの食道と胃のつなぎ目が食道側に引っ張られて、上方向に引き上げられてしまうのです。

また、手術によって胃が小さくなると、ちょっと食べただけでも胃がパンパンに張るようになり、胃内の圧力も高まります。そうなると、逆流を防ぐはたらきが弱まり、逆流性食道炎が起こりやすくなってしまいます。

逆流性食道炎の診断は、食道の粘膜がただれていないか、胃と食道のつなぎ目が開いていないか、あるいは上方に引っ張られていないかを形をみて判断し、診断します。

早食いや大食いは胃が膨らむので逆流を起こしやすいです。

また、脂っこい食べ物(高脂肪食)は食道と胃のつなぎ目の緊張を緩めたり、胃の動きを止め食物の排出を遅らせたりします。そうすると、逆流が起こりやすくなります。

そのほか、コーヒーやお酒、チョコレート、ペパーミント、炭酸飲料、柑橘類、スパイシーで辛いもの、芋やかぼちゃなどが原因になることもあります。

逆流性食道炎の症状が現れたときは、とにかく体を起こして、背筋を伸ばしましょう。常温の水を少し飲むと、食道にくっついた消化液を洗い流してくれます。通常は、水を飲むだけでも十分な対処になります。それでもよくならない場合には粘膜を保護する薬や胃酸を中和する薬を飲むこともあります。

逆流は、食後2時間前後の胃が膨らんで胃液がたくさん出ているときに生じやすいです。また、夜間の寝ているときにも起こりやすいです。胃を切除して食道と胃のつなぎ目が緩んでしまった方が真横(水平)になって寝ることは、ペットボトルの蓋を緩めた状態で真横に倒すのと同じ状態になるので、胃のなかの液体が食道に逆流しやすくなります。

頭だけではなく背中を20~30センチメートル持ち上げるような形状のベッドまたはクッションを使うと、上体が起こされ、重力で胃のなかの液体が下がるので逆流が防げます。この体位はファーラー位と呼ばれ、逆流性食道炎の方に推奨されています。

逆流性食道炎に対するさまざまな薬が登場しており、薬によって胃酸のはたらきを弱め、消化液が逆流したときの刺激を和らげる治療が行われています。

寝ているときに液体が上がってくると、それを吸い込んでしまい、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。重い肺炎になって入院が必要になったり、命にかかわったりすることもあります。

このように逆流性食道炎は、ときには怖い病気の原因になるので、逆流を起こさないための工夫、対処が求められます。

切除術後の消化管運動異常の症例

出典:羽生信義,中田浩二,他.胃切除術後の消化管運動異常の症例.治療学 33 (4): 93, 1999

胃切除術後の消化管運動異常の症例2

出典:羽生信義,中田浩二,他.胃切除術後の消化管運動異常の症例.治療学 33 (4): 93, 1999

食道炎はちょっと食道の粘膜が赤いものから、赤さが上に伸びたり横に広がったり、上にも横にも全体的に広がったりと4段階くらいに分かれます。この画像は食道炎が全体に広がっているケースです。

この方は胃の出口側を切り、胃と十二指腸を引っ張ってお互いを繋いでいます(このような繋ぎ方をビルロートI法と言います)。通常、食道炎は胃酸のせいだと考えられていますが、十二指腸液(胆汁や膵液)が炎症の原因になることもあります。

通常、十二指腸に流れ込んだ消化液は下の方に流れていきますが、逆流して食道にまで上がってしまうことがあります。胃を手術した後の食道炎は、胃酸以外にも、これら胆汁や膵液が影響していることも少なくないのです。

逆流が強いと食道の粘膜がただれ、重い食道炎になってしまうことがあります。

先ほど、胃を固定している膜を切ったり剥がしたりすると、食道と胃のつなぎ目が食道側に引っ張られてしまうとお話ししましたが、それはこの部分(上図右の白い矢印)です。くびれがあるのがわかると思いますが、拡大すると、胃はこのくびれのすぐ下にあって、食道と胃のつなぎ目はお腹の部分より上に引っ張られて胸の部分にあることがわかります。このようになると、逆流が起こりやすくなるのです。

この段階まで進むと、薬や食事で治すことは難しく、この患者さんには手術をやり直しました。胃と十二指腸をつないだ部分を切って閉じてしまい、下の方から小腸を持ち上げてきて、胃につなぐ方法(ルーワイ法)に変更しました。

そのようにすると、持ち上げた小腸の上から下へ向かって伝わる蠕動運動(ぜんどううんどう:腸の中のものを運ぶ収縮運動の伝わり)のはたらきにより、残胃への十二指腸液の逆流が起こらなくなります。

実際にこのようにつないだ後、患者さんの症状はすっかり取れ、ただれていた粘膜もこのように(下図左)治りました。胃切除後の障害は食事・生活・薬で治すことが鉄則ですが、症状が重くこれらの治療でよくならない場合には、手術せざるを得ないこともあるのです。

この記事は胃を切った人 友の会 アルファ・クラブ主催の講演内容をベースに作成しています

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