関節リウマチの寛解を目指すために――総合的な診断に基づいた適切な治療を早期に

関節リウマチの寛解（症状が治まっている状態）を目指すには、早期に専門の医師による的確な診断を受け、その方に合った治療を開始することが重要です。

今回は、東京女子医科大学医学部膠原病(こうげんびょう)リウマチ内科学分野 講師の勝又 康弘(かつまた やすひろ)先生に、総合的な診断の重要性や治療の流れ、同院の診療の特徴などについてお話を伺いました。

関節リウマチとは？――病気の特徴とリスク因子

関節リウマチの特徴

関節リウマチは、細菌やウイルスなどから体を守る免疫システムの異常によって起こる自己免疫疾患の1つです。手足などの関節が腫れ、痛みが生じ、適切な治療を受けずに病気が進行すると関節を曲げたり伸ばしたりするのが難しくなってしまいます。

女性に多く、男女比はおよそ1：4です。40～60歳代での発症が最も多いですが、20～30歳代や70～80歳代での発症も珍しくありません。医学の発展などによって日本人の寿命が延びたこともあり、近年は高齢で発症される方が増加傾向にあります。

関節リウマチのリスク因子

関節リウマチは発症しやすい体質、すなわち遺伝的素因のある方において喫煙や歯周病などの環境的要因が加わると発症リスクが高まるとされています。具体的には次のように考えられます。

私たちの体の中は空気を吸ったり物を食べたりする行為によって外部と通じており、生きていく過程で無数の常在菌という細菌が住み着き、1つの“宇宙のようなもの”を形成しています。常在菌は、普段は宿主である人間と相互に作用しながら共生しており、健康に害を及ぼすことはありません。しかし、喫煙で体内に取り込まれた有害物質、食べ物の刺激、食べ物と一緒に運ばれる口腔内(こうくうない)の汚れなどによりダメージを受けると、常在菌の宇宙のバランスが乱れてしまいます。すると気道や腸管の粘膜で慢性的な炎症が生じて特定のタンパク質に変化をもたらし、抗CCP抗体^*などの自己抗体が産生されて、関節リウマチの発症につながると考えられています。

^*抗CCP抗体：関節リウマチの人によくみられる自己抗体。関節症状があって抗CCP抗体が陽性なら関節リウマチの可能性が高いとされる。

関節リウマチの症状と似た症状が現れる別の病気

関節の症状

関節リウマチの発症初期に現れやすい関節症状としては、手足の指などの小さな関節の痛みや腫れ、朝のこわばり（起床時に感じる関節のこわばり）などが挙げられます。手指で症状が出やすいのは第2関節と第3関節です。発症初期は、日によって症状があったりなかったりして、片側のみということもありますが、進行すると同じ関節で連日症状が現れ、左右の関節に生じることが多いです。

痛みの感じ方には個人差があるため、痛みだけで判断するのは難しいですが、“関節の腫れ”は客観的な判断材料として有用です。関節リウマチの腫れは、関節の軟骨などを保護する滑膜に起こった炎症（滑膜炎）によるもので、触ると柔らかいのが特徴です。

関節の症状は、次第に手首、肘、肩、膝、足首などの大きな関節にも現れますが、最初から大きな関節に症状がある方や手足の指だけにとどまる方もいます。適切な治療を受けないと発症後数年で関節が曲がらなくなったり、明らかな変形をきたしたりします。

また、朝のこわばりは多くの患者さんにみられる症状ですが、健康な方にも起こり得ます。朝のこわばりが30分以上続く場合、関節の持続的な痛みや腫れを伴う場合、また同じ関節で症状が2～3週間以上続く場合には、日本リウマチ学会認定リウマチ専門医（以下、リウマチ専門医）を受診されるとよいでしょう。

関節以外の症状

関節以外の部位に現れる症状としては、リウマトイド結節と呼ばれる皮下のしこりや皮膚潰瘍(ひふかいよう)^*、強膜（白目）や上強膜（白目を覆う膜）の炎症などが挙げられます。これらは一般的に関節リウマチの活動性（炎症の度合い）が高く、発症してからの期間が長い患者さんにみられる症状です。近年は薬物療法の進歩によって病気をコントロールしやすくなっており、こうした症状に至る方は少なくなっています。

ただし、間質性肺疾患^**や細気管支病変^***などの肺の症状については初期から現れる方もいます。中には、関節症状よりも先に肺の症状がみられるケースもあります。そのほか、目や口腔内の乾燥をきたすシェーグレン症候群など、ほかの自己免疫疾患を合併する方もいます。

^*皮膚潰瘍：皮膚の細胞が壊死(えし)して皮膚が欠損した状態。

^**間質性肺疾患：肺を支える間質という組織に炎症が起こり、肺全体が硬くなって呼吸機能が低下する病気の総称。

^***細気管支病変：細気管支と呼ばれる気管支が枝分かれした先の一番細い気道に生じる病変。

関節リウマチと似た症状を引き起こす病気

関節リウマチは、この検査で陰性なら否定できるといったように簡単にほかの病気と見分けがつくものではありません。

関節リウマチに似た関節炎が起こる可能性がある病気として、乾癬(かんせん)^*や炎症性腸疾患^**などが挙げられます。これらの病気でも関節の痛みや腫れが起こることがあるため、初期から皮膚や消化器の症状が目立つようなら関節リウマチ以外の病気を疑って調べる必要があるでしょう。

また手指の関節が腫れる病気には、関節リウマチのほかに指の変形性関節症（ヘバーデン結節、ブシャール結節）があります。ヘバーデン結節は第1関節、ブシャール結節は第2関節に腫れが生じます。どちらもごつごつした骨が出っ張って起こる腫れで、手触りが硬いのが関節リウマチでみられる柔らかい腫れとの違いです。

^*乾癬：皮膚に赤く盛り上がったような発疹(ほっしん)と銀白色のふけのような粉（鱗屑：りんせつ）を認める病気。

^**炎症性腸疾患：腸の粘膜に炎症が起こることによって下痢や腹痛といった症状を引き起こす病気の総称。主に潰瘍性大腸炎とクローン病のことを指す。

関節リウマチの検査・診断――複数の検査や診察から総合的に判断

関節リウマチでは、血液検査や画像検査などの結果、および問診や診察に基づく総合的な診断が重要です。診断時の検査には、似た症状が現れるほかの病気と見分ける、関節リウマチの薬物療法を安全に行うために内臓機能などを調べておくといった目的もあります。

血液検査

全身的な炎症の有無を確認するため、CRPや赤血球沈降速度（赤沈）を測定します。また、炎症による血球（白血球、赤血球、血小板）の異常な増減がないかどうかも確認します。さらにリウマトイド因子^*、抗CCP抗体といった自己抗体の有無を調べます。ただし、検査結果が正常でも活動性があり治療を要する場合もあります。また、健康な方やほかの病気の方でもこれらの検査が陽性になるケースもあるため、血液検査だけでは関節リウマチかどうかの判断はできません。

^*リウマトイド因子：関節リウマチがある人の70～80％にみられる自己抗体。

画像検査

X線検査では骨の変形の有無を確かめます。関節リウマチの初期段階では骨に明らかな変化は認められませんが、ほかの病気ではないことを確認したり、治療開始前の状態を把握したりするために行います。また、MRI検査や超音波検査は触診では分かりにくい炎症による腫れ、骨の初期変化の兆候を見つけやすく、早期発見・早期治療に役立ちます。当院でも使用している超音波診断装置では炎症が起こっている部分の異常な血流信号がオレンジ色で映し出されるため患者さんにも分かりやすく、治療の必要性をご理解いただくためにも有用だと感じています。

関節リウマチの治療――薬物療法を中心に症状をコントロール

関節リウマチの治療法には基礎療法、薬物療法、リハビリテーション、手術があります。この病気は治癒（完全に治ること）が望めないため、関節の変形が進行せず日常生活にそれほど不自由がない“寛解”という状態を目指します。

基礎療法

生活習慣の改善などにより治療のベースを築きます。バランスのよい食生活や適度な運動は、関節リウマチの患者さんにも意義があるでしょう。

薬物療法

関節リウマチの主な治療法は薬物療法です。いずれの薬を使うにしても、薬の効果判定や貧血、肝機能障害、腎機能障害などの副作用や合併症をチェックするため、定期的な診察と検査が欠かせません。

薬物療法の第一段階――メトトレキサート

まずは、関節リウマチの第一選択薬（最初に使う薬）とされているメトトレキサートという飲み薬で治療を開始します。ただし腎機能が悪い方、妊娠希望がある方などはこの薬は使えないため、ほかの薬を選択します。メトトレキサートは週に1～2日だけ内服する薬です。速効性はないので、効果が出るまでの間は一般的な鎮痛薬や少量のステロイドを併用したり、関節注射をしたりする場合もあります。

起こり得る副作用としては、口内炎や悪心、貧血、肝機能検査異常などが挙げられ、予防のためにメトトレキサート服用の1～2日後に葉酸を内服していただくことが多いです。そのほか、間質性肺疾患やまれにリンパ増殖性疾患^*など副作用が起こるケースもあります。

なお、発熱や下痢などで脱水気味のときに普段と同量のメトトレキサートを内服すると、副作用が強く出る可能性があります。メトトレキサートを服用中に何らかの体調不良が起こったら、原則的にいったん休薬して担当医にご相談ください。

^*リンパ増殖性疾患：リンパ球が過剰に産生され、リンパ節が腫れるなどの症状をきたす病気。メトトレキサートの服用に関連して起こるものを“メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患”と呼ぶ。

薬物療法の第二段階――生物学的製剤、JAK阻害薬

メトトレキサートの効果が不十分、または副作用などで十分な量が使えない場合には、生物学的製剤やJAK阻害薬の使用を検討することとされています。生物学的製剤はバイオテクノロジーによって作られた注射薬で、自己注射（太ももやお腹の皮下に専用の器具で注射します）でできるものもあります。関節の炎症やそれに伴う関節破壊を抑える高い効果が認められています。一方のJAK阻害薬は、生物学的製剤と同程度の効果が期待される飲み薬です。

生物学的製剤は高額で、自己注射には患者さん自身が手技や管理に習熟する必要があり、感染症のリスクが懸念される薬です。JAK阻害薬も高額で、生物学的製剤と同様に感染症などのリスクがあります。

この2種類の薬のうち、薬価の問題や生物学的製剤のほうが長い歴史があるという観点などから、私は基本的に生物学的製剤を優先して検討しています。生物学的製剤を使う際には、投与間隔や投与量などを細かく調整しながら個々の患者さんに合った治療を見出そうと努めています。患者さんご自身の利便性や通院頻度を減らす観点から、自己注射が可能な薬であれば基本的には自己注射での投与をおすすめしていますが、4週間に1回の投与で済む薬もあり、当院では自己注射に不安がある方には院内での投与にも対応しています。

生物学的製剤で十分な効果が得られない場合、また何らかの理由で注射が難しい方などにはJAK阻害薬を選択します。

手術・リハビリテーション

進行した関節変形に対しては、整形外科で人工関節置換術などの手術をする場合もあります。また、筋力や関節の動きを維持するために行う適度な運動、手術後の継続的なリハビリテーションは長期にわたって身体機能を保つために役立ちます。

関節リウマチの診療で大切にしていること

的確な診断と個々に適した治療を目指して

関節リウマチの診療では正確な診断をつけることを心がけています。関節リウマチは適切な治療を受けないと関節の変形が進んでしまう病気ですが、発症後1～2年の間に特に進行しやすいことが分かっています。したがって、早期にリウマチ専門医による診断を受け、時期を逃さずメトトレキサートなどの標準的治療を開始することが大切です。

一方で、関節リウマチは患者さんごとに症状の出方や進み方、治療薬の効果や副作用が大きく異なる病気で、全ての患者さんに同じ方法を一律に適用するのは好ましくありません。ご希望やご事情を伺いながら、その方によりふさわしい治療を提供するよう心がけています。

患者さんの元気な姿がやりがいに

関節リウマチは継続的な治療を要する病気なので、多くの患者さんと長い期間お付き合いさせていただいています。学生だった頃に診断を受け、治療を始めた患者さんが卒業・就職し、結婚・出産され、お子さんを連れて受診されるときなどには、感慨深いものを感じます。また、当初は痛みやこわばりでつらいと訴えていた患者さんが、症状が改善して仕事や家事など日常生活を取り戻される姿を見ていると本当にうれしく思います。

東京女子医科大学における関節リウマチ診療の特徴

膠原病リウマチ内科と整形外科の連携

当院では、私たち膠原病リウマチ内科の医師と整形外科の医師が同じ外来ブースで診療しています。手術が必要な患者さんがいれば隣のブースにいる整形外科の医師に気軽に依頼できますし、整形外科で撮影したX線画像に肺炎が疑われるような所見があったときなどに相談を受ける場合もあります。互いに協力し、患者さんによりふさわしい治療をスムーズに提供できる体制を整えています。

高水準の診療環境を目指して

当院では、15名のリウマチ専門医が外来診療を担当しており、切磋琢磨しながら高水準の診療を目指しています。生物学的製剤については、後発品（バイオシミラー）も含め国内で承認されている全ての薬を導入しており、JAK阻害薬も全種類そろっています（2025年7月時点）。選択肢が多いため、患者さん一人ひとりに適した薬を選びやすい環境です。さらに関節専用の超音波検査装置を数台備え、日々の診療に活用しています。

発症のリスク因子の解明にも注力

近年関節リウマチの治療は著しく進歩しましたが、治癒できる段階には至っていません。そのため、発症リスクが高い方の発症予防を目指した研究が精力的に進められています。発症を予防するにはリスク因子を明確化し、自己免疫反応が起こる仕組みを解き明かす必要があります。当院では関節リウマチの病態解明や新規治療法開発のため、患者さんにもご協力いただきながらさまざまな研究を行っています。

その1つが抗CCP抗体陽性の方における関節リウマチの発症要因を解明する研究です。具体的には、何らかの理由で抗CCP抗体検査を受けて陽性だったものの関節症状がない方の経過を観察し、リスク因子を探るとともに、発症したらすぐに治療を開始しています。こうして蓄積したデータを基に研究を進め、将来的には発症を抑止する先制治療ができるようになればと考えています。

勝又先生からのメッセージ――リウマチ専門医の下で適切な診断と治療を

関節リウマチの治療は飛躍的に進歩し、病気をコントロールしやすくなってきています。関節リウマチを疑う症状があれば、当院のようにリウマチ専門医が在籍している医療施設を受診し、早期に標準的な治療を受けるよう強くおすすめします。病気を早く見つけることが重要なので、大学病院だからといって構えず気軽にご相談ください。私たちは関節リウマチで困っている患者さんのお役に立ちたいと願っています。関節が変形してしまうと治療の選択肢が限られてしまいますので、そうなる前に適切な診断と治療を受けていただきたいと思います。

提供：大正製薬株式会社