岡山県倉敷市にある水島協同病院は、開院から70年以上にわたって地域に根ざした医療を展開しています。近年は2次救急医療機関として救急患者さんを積極的に受け入れるほか、治療から看取りまで切れ目のないサポートを行っています。
そんな同院が担う役割や今後の展望について、院長である山本 明広先生にお話を伺いました。
当院は1953年に水島診療所として開設され、1956年に25床を備えた水島協同組合病院となりました。その後、幾度かの名称変更や新築移転を経て、現在の場所に総合病院水島協同病院が誕生したのが1985年でした。2024年4月には病院名を水島協同病院へと改め、より充実した医療をご提供するべく体制を整えているところです。
当院のある倉敷市は県南西部医療圏に属し、約70万人の人口を有します(2020年時点)。エリア内には病床数が1,000床を超える倉敷中央病院や川崎医科大学附属病院(以下、川崎医大)などがあり、それぞれが連携することによって地域の方々の暮らしと健康を支えています。
1985年にこの場所へと新築移転してきた当時、当院は病床数320床の急性期病院でした。それから約40年、他の地方都市と同様に倉敷市においても急速に高齢化が進行しています。また近年は医療の機能分化が進められ、地域の中で当院が担うべき役割にも変化がみられてきました。
こうした背景を踏まえて当院でも病床再編に着手し、現在は一般病棟へ168床、地域包括ケア病棟へ54床を割り当て、急性期を脱した患者さんが元の生活に戻るまで当院にて療養生活を送っていただけるようにいたしました。川崎医大の協力を得ながら専門性の高い医療を行う一方で、地域の中でお困りの患者さんを積極的に受け入れ、看取りまで行う……。地域との結びつきが深く、地域の方々を支える医療を積極的に展開している点が当院の一番の特徴と言えるでしょう。
当院は県南西部医療圏の2次救急医療を担っています。コロナ禍においては新型コロナウイルス感染症の診療に注力したほか、現在も引き続き発熱患者さんを積極的に受け入れています。コロナ禍以前は年間2,000件に満たなかった救急車の受け入れ台数も、2024年度は3,000件近くになる見込みです。
救急患者さんの数が大きく上昇した背景には、3次救急医療機関である倉敷中央病院や川崎医大のバックアップがあり、救急総合診療科科長の山本 勇気医師を中心としたベテラン・若手医師の活躍があります。当院では若手の医師を育成する研修プログラムを実施しており、救急総合診療科では4人の医師が学んでいます。
倉敷市内には倉敷中央病院や川崎医大といった大きな病院があり、がんや脳卒中などの専門的な治療は大病院で行っていただくことを基本としています。一方の当院は手術を終えた患者さんの療養生活を支えるほか、思うような治療成果を得られずにお困りの患者さんを受け入れ、緩和ケアなどによって療養生活が少しでも快適なものになるようサポートさせていただきます。
私が消化器病を専門にしていることもあり、胆管がんや膵がんが見つかったものの手術が適応とならない患者さんに対する内視鏡治療を行っていることも特徴です。最近は膵がんで黄疸が出てしまう高齢患者さんも少なくありませんが、当院では内視鏡による治療をとおしてQOL(生活の質)の維持・向上をお手伝いするほか、看取りにも対応しておりますのでご相談ください。
また当院は約9万人(2024年8月時点)が暮らす水島地域における唯一の透析施設でもあり、血液透析については1974年から半世紀以上の歴史があります。近年は糖尿病から腎不全になる患者さんが増えており、現在は200人ほどの患者さんが透析にいらしています。
最近のトピックスとしてはMRI装置の更新があります。新たに導入するMRI装置はAIが搭載されており、短時間で鮮明な画像を得ることができます。MRIは被ばくの心配もなく、患者さんへの負担軽減と画像診断の質の向上に大いに役立つものと期待しています。
また高齢化とともに患者数が増加傾向にある前立腺肥大症については、経尿道的前立腺吊り上げ術(ウロリフト)という新技術を導入いたしました。この術式は従来のように前立腺組織を切開・焼灼・切除する必要がないため、体への負担が少ない低侵襲な治療だと言えます。
当院では倉敷市の国保特定健診やがん検診に対応し、病気の早期発見・早期介入に努めています。このうち検診から診断、治療(手術)まで一貫して実施しているのが乳がんの診療です。
当院では単に乳がん検診を行うだけでなく、マンモグラフィーや超音波(エコー)検査を行うスタッフ、画像を見て適切な診断につなげる読影医など、高い専門技能を有するスタッフがいる点に強みがあります。信頼性の高い乳がん検査を実施できるだけでなく、乳がん治療においてはホルモン療法や分子標的薬による治療など複数の選択肢をご提案できます。石部 洋一医師が率いる乳腺外科には乳腺専門の女性スタッフを配置しておりますので、ご不安なことがありましたら遠慮なくご相談いただきたいと思います。
私は外科の中でも消化器外科を専門に研鑽を積み、当院では診療の傍ら医学生の就職支援や医師の研修、倉敷医療生協の医師団をまとめる役割を担ってきました。また全日本民医連の理事として毎月のように岡山と東京を往復し、全国にいる職員との交流をとおして得られたさまざまな知恵や工夫を病院の発展に役立ててきました。
当院は倉敷医療生活協同組合が運営する病院であり、“一人ひとりを大切にする社会”の実現を目指しています。誰もが平等に安心して医療が受けられるように入院時の差額ベッド料はいただかず、経済的に困窮している方に向けた無料定額診療事業も実施しています。私自身、行き場を失った患者さんや治療の手立てがない患者さんを“何とかしなければ”という気持ちで、よりよい医療サービスを提供できるよう取り組んでおります。水島協同病院という1つのチームとして地域の皆さまを支えてまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。
*病床数や診療科、医師、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年9月時点のものです。