大阪市中央区、大阪城の周辺に官庁やオフィスが立ち並ぶエリアに位置する大手前病院は、急性期に対応する病院として、心臓センターや脳神経センター、がん診療をはじめとする幅広い診療領域を擁し、地域の医療機関から患者を受け入れる役割を担っています。
同院の病院長は、大阪大学で長年心臓外科医として研鑽を積み、千葉大学教授として心臓血管外科を一から築き上げてきた松宮 護郎(まつみや ごろう)先生です。2026年4月に着任した松宮先生に、大手前病院の強みとこれからの展望について伺いました。
当院は1951年に開院しました。開設母体は国家公務員共済組合連合会ですが、現在では公務員の方だけでなく、地域の皆さんが利用しています。
当院がある中央区は、大阪市の医療という点で見ると特殊なエリアです。300床以上の病床と病床を持ちさまざまな病気に対応する病院は国立病院機構大阪医療センターと当院の2つだけ。オフィスや官公庁が集まり昼間人口の多いこの地域で、急性期医療を担う大病院がこの2施設に限られていることを考えると、当院が果たすべき役割は大きいといえるでしょう。

当院の大きな特徴は、産科、小児科、精神科などを除くさまざまな診療科がそろっており、多様な病気に対して包括的な医療を提供できる総合力にあります。この幅広い診療体制を生かし、多くの救急患者さんに一次対応できる環境を整えていることは、当院の大きな強みになっていると考えています。
当院の循環器内科と心臓血管外科では、急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく)や心不全、不整脈といった病気に対し、急性期を担う病院として24時間体制で速やかに対応できる環境を整えています。狭心症や心筋梗塞に対して血管内に通したカテーテル(細い管)で治療を行うPCI(経皮的冠動脈インターベンション)や不整脈へのアブレーション治療などは高齢化によって高リスク化が進行しており、当院では日本循環器学会認定の専門医や日本心血管インターベンション治療学会の認定医が治療に力を入れています。
また、当院は治療が終わった後の心臓リハビリテーションにも力を入れています。治療を終えた患者さんが、ご自宅で少しでも元気に日常生活を送れるよう、切れ目のないサポートを提供していくのが当院の方針です。
脳や神経の病気に対しても、当院では脳神経内科と脳神経外科が緊密に連携する「脳神経センター」を設け、特に脳卒中に対しては24時間体制で救急車を受け入れて迅速に血栓溶解療法(rtPA)や血管内治療などを行っています。
さらに特徴的な取り組みとして、パーキンソン病や本態性振戦(ふるえ)、ジストニアといった神経疾患への専門的な治療が挙げられます。
大阪府の難病医療協力病院でもある当院は、長らく地域に根ざした神経難病医療を展開してきました。病初期の診断から手術、進行期の外来・入院診療、さらには地域包括ケア病床における療養支援まで、包括的に対応できる診療体制を整備しています。
とくに、これらの病気に対して脳に電極を入れて症状を抑える脳深部刺激療法(DBS)という治療法は、伝統的に当院の脳神経外科が長年取り組んできた領域であり、症例数を積み重ねてきました。
振戦やこわばりに長年悩まされてきた患者さんが、この治療によって症状が落ち着いていく姿を見ると、専門チームを維持していくことの意味を改めて感じます。ほかにも、脊髄(せきずい)に微弱な電気を流すことで慢性的な痛みの信号をブロックする脊髄刺激療法にも対応しており、手足のふるえなどで日常生活にお困りの患者さんにとって、大きな助けとなる診療分野だと信じています。
なお、整形外科分野の脊髄・脊椎の病気に関しては、2026年に脊椎センターを新たに立ち上げ、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や椎間板(ついかんばん)ヘルニアといった病気の診療を行っています。ここでは同じく新たに稼働を始めた「脊椎リハビリセンター」と連携し、外傷や骨折の救急対応まで含めて幅広く引き受けているところです。
がん診療においても、幅広い診療科がそろう当院ならではの強みがあります。当院のすぐそばには大阪府内でもがん診療の中心的な役割を担う大阪国際がんセンターがありますが、当院は競合するのではなく、上手に連携しながら互いの役割を補完し合っています。
その例の1つが、合併症のあるがん患者さんの受け入れです。心臓に持病がある方や、ご高齢でさまざまな合併症を抱えているがん患者さんの場合、手術や化学療法を行うには全身の細やかな管理が欠かせません。さまざまな診療科がある当院は、腎臓内科をはじめとする各科の医師と連携しながら、安全性に配慮してリスクを伴うがん患者さんをお受けしています。
大阪国際がんセンターでは対象外の、尿路結石や排尿障害の手術をこれまで通り行いつつ、がんの手術にも力を入れていきます。2024年にはダビンチXiが導入され、泌尿器科領域では、前立腺がん、腎がん、腎盂尿管がんに対するロボット支援手術の病院施設認定を取得しています。今後、尿路結石、排尿障害、がんの手術件数を増やし、さらに泌尿器科救急疾患にも対応していければと考えています。
もちろん、がんの手術や薬物療法そのものも水準を落とさないよう力を入れており、手術支援ロボット・ダビンチを用いた治療にも積極的に取り組んでいます。これまでは主に前立腺がんなど泌尿器科領域の手術や結腸がんなど消化器領域の手術で実績を積んでまいりましたが、今後はその対象を徐々に広げていく計画です。
具体的には、胃や直腸といった消化管領域への拡大を目指しており、2026年6月からは鼠径ヘルニアの手術にもダビンチによる手術を導入いたしました。より体に優しくより安全な手術を提供できるよう、1つずつ段階を踏んで手術体制を充実させていき、将来的には肺や縦隔、婦人科領域の手術も対象にできればと考えています。
救急について当院が最も大切にしているのは、「基本断らない」という姿勢です。急性期病院として地域の命を守るためには、救急車をスムーズに受け入れる体制が何よりも重要になります。そこで私たちは「基本断らない」という姿勢をベースに、さまざまな症状の患者さんを頑張って受け止める方針を徹底しています。
現在、年間の救急車受入台数はおよそ4,000-5,000台ほどです。今後は24時間体制はもちろんのこと、内科・外科・循環器の当直体制を強固にしていくことで6,000台程度まで増やしていき、幅広い病気を断らずに受け止めることで地域によりいっそう貢献できる病院を目指します。
腎不全の患者さんに対する診療にも深く取り組んでいます。すでに透析が必要な患者さんに向けては、2024年12月に血液浄化センターのベッド数を15床に増床し、受け入れ体制を拡充いたしました。血管病などの合併症がある透析患者さんにも、各科と連携してより安全性に配慮して治療を提供しています。
同時に私たちが大切にしているのが、「透析が必要にならないように努める」という方針です。機能の低下がある段階から関わり、患者さんの生活背景などを考慮しながら食事療法やお薬の調整を行い、腎臓の機能を少しでも長く保つためのサポートを行っております。透析が始まってからの治療だけでなく、その手前の段階から支えていくことが、患者さんの生活の質を守ることにつながるからです。
当院は、病気を未然に防ぎ、あるいは早期に発見することで、皆さんの健康な暮らしを守り続けたいと考えています。天満橋に開設している「大手前病院附属天満橋健康管理クリニック」は70年ほど前から続く非常に歴史のある健診施設で、国家公務員の方はもとより、広く一般の方にもご利用いただけるようになっています。
健診で気になる所見が見つかった場合には、そのまま病院での精密検査や治療につなげられる体制を整えており、ぜひもっと多くの方にご利用いただきたいと考えています。
私は広島の生まれで、家系に医療関係者は誰もいません。物心ついたころから医師を志していたわけでもなく、はっきりと医師になろうと決めたのは高校生の頃でした。手先が不器用ではなかったこと、そして何より「心臓」という臓器そのものに強く惹かれたことから、心臓血管外科の道を選びました。
大阪大学に進学後、アメリカのロマリンダ大学やクリーブランド・クリニックでの留学を経て、幸運にも日本の臓器移植の歴史的な瞬間に立ち会うことができました。帰国してすぐの1999年、臓器移植法が制定されてから国内初の脳死下心臓移植手術に第一助手として携わった経験は、今でも鮮明に記憶に残っています。その後は千葉大学へ赴任し、16年かけて診療・研究・人材育成の体制を築いてまいりました。
そうした歩みを経て、この大手前病院に院長として着任しました。官公庁が立ち並ぶ場所にある当院は、長年にわたって患者さんや地域の先生方との関係を積み重ねてきた病院です。その関係を大切にしながら、気軽に相談したり紹介したりしていただける病院でありたいと思っています。大きな病院というのは、時に敷居が高いと感じられてしまうこともありますが、当院はそうであってはいけない。そのように考えています。
大手前病院には、5代前の垂井前院長が掲げられた「高度な医療と、温かい人情の調和を目指す」という言葉が今も受け継がれています。高度な医療を追求する姿勢と、患者さんに寄り添う温かさは、決して相反するものではありません。心臓や血管の治療でも、がん診療でも、日々の外来でも、その両方を大切にしていきたいと考えています。
地域の医療機関の先生方が気軽に患者さんを紹介でき、そして地域の皆さまが「何かあったら、まずは大手前病院に相談しよう」と思えるような、敷居の低い病院でありたいと願っています。幅広い診療体制と温かな心で皆さまをお迎えいたしますので、お困りのことがございましたら、どうぞ安心してご相談ください。
※本記事の情報は全て、2026年8月時点のものです。
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