寝汗:医師が考える原因と対処法|症状辞典

寝汗

湯沢町保健医療センター 地域家庭診療部 病院管理者

井上 陽介 先生【監修】

睡眠中の汗は体温を調節するはたらきを担い、私たちは誰もが起床時までに多少の汗をかいています。しかし、あまりにも汗の量が多いいわゆる“寝汗”は寝苦しさを感じ、質のよい睡眠が取れなくなることも少なくありません。また、夏場などは汗をかきすぎると睡眠中でも脱水症状を引き起こすことがあります。

  • 日中は動悸や手の震えなどが起こりやすく、夜は寝汗をかく日が多くなった
  • 咳や寝汗に1か月以上悩まされ、倦怠感(けんたいかん)が強く体重も減少している
  • 疲れやストレスがたまると寝汗をかきやすくなる

これらの症状が現れた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。

寝汗は日常生活上の好ましくない習慣が原因で引き起こされるケースもあります。具体的な原因として次のようなものが挙げられます。

就寝中にエアコンをつけておくのが苦手という人も多いですが、夏場などの閉め切った空調のない室内は非常に高温になります。暑い時期の寝汗は室温自体が高くなることによる生理的なものも少なくありません。

適度な室温調節と風通しを

睡眠中は室温が上がっていることに気づかず、多量の発汗によって重度の熱中症を引き起こすことがあります。暑い時期はエアコンや扇風機などを活用して快適に睡眠できる室温に整え、空調を使用しない場合は窓を開けるなどして風通しをよくしておきましょう。

また、寝具は季節に合ったものを使用し、夏場に冬用の寝具などを使用しないのもポイントです。

私たちは健康な状態でも就寝中はコップ1杯分の汗をかくとされています。このため、吸水性の悪い下着や衣類を身につけていると、かいた汗が蒸発せずにまとわりついて寝汗の不快さを感じることがあります。

汗を効率よく蒸発させるには

汗の蒸発を促すには、綿やシルクなど吸水性のよい下着や衣類を身につけるようにしましょう。また、夏場は寝具も通気性を重視したものを選ぶとよいでしょう。

日常生活上の習慣を改善しても寝汗が治まらないときは、思わぬ原因が隠れていることがあります。軽く考えずに一度病院で相談するようにしましょう。

汗の量は健康のバロメーターともいわれ、病気によって引き起こされる寝汗もあります。その原因となる病気には主に次のようなものが挙げられます。

細菌やウイルスなどによる感染症の中には寝汗を引き起こすものがあります。具体的には次のような病気が挙げられます。

結核

結核菌に感染することによって咳や痰、胸痛などの呼吸器症状を引き起こす病気です。潜伏期間(感染してから発症するまでにかかる期間)が非常に長く、感染したとしても発症せずに一生を終えるケースが多いとされているのが特徴です。発症すると呼吸器症状のほかに、寝汗や倦怠感、食欲低下、体重減少などの症状も見られるようになり、全体的に衰弱した様子となります。

結核
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感染性心内膜炎

血液中に入った細菌が心臓に流れ着き、炎症を引き起こす病気です。発症すると高熱や頻脈、倦怠感などの症状が現れますが、少しずつ症状が進行していく“亜急性”のタイプでは疲労感や微熱、体重減少、寝汗、貧血などの症状が見られるのが特徴です。適切な治療を行わないと心臓の弁が正常に機能しなくなり、命を落とすケースも少なくないとされています。

感染性心内膜炎
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HIV感染症

注射の回し打ちや性行為などによって血液中のHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することで引き起こされる病気です。免疫機能が著しく低下するAIDS(エイズ後天性免疫不全症候群)に進行しますが、感染してからAIDSを発症するまでの期間は数年~15年にも及ぶとされており、この間ほとんど自覚症状はありません。しかし、免疫機能がある程度まで低下すると寝汗や慢性的な下痢、倦怠感、体重減少などの症状が現れ始めるようになります。

HIV感染症
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寝汗の中には臓器や血液など体内に存在する病気によって引き起こされるものもあります。具体的には次のようなものが挙げられます。

悪性リンパ腫

白血球や赤血球、血小板など血液の細胞のうち、白血球の一種であるリンパ球ががん化する病気です。発症すると首や(わき)の下、脚の付け根などのリンパ節が腫れ、進行すると発熱や体重減少、著しい寝汗などの全身症状が現れるようになります。また、かゆみを伴う湿疹が生じることもあり、脳や脊髄(せきずい)などに病変ができると神経麻痺を引き起こすことも少なくありません。

悪性リンパ腫
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悪性腫瘍

悪性リンパ腫だけでなく、胃がん大腸がん肺がんなど全身に起こりうるさまざまながんも進行すると寝汗が出るようになります。同時に倦怠感や食欲不振、悪液質(著しい体重減少)が見られることも多く、全身の衰弱が著明になるのが一般的です。

甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)

甲状腺のはたらきが過剰になることによって、全身の新陳代謝を促す甲状腺ホルモンの分泌量が増加する病気です。甲状腺ホルモンは交感神経のはたらきを活発にする作用を持つため、結果的に寝汗や動悸、手の震え、食欲増大、体重減少などの症状を引き起こします。

甲状腺機能亢進症
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発汗の調節は自律神経の“交感神経”と“副交感神経”によって調節されており、これらのはたらきに異常が生じる病気によって寝汗をかくことがあります。

自律神経失調症

“交感神経”と“副交感神経”のバランスが崩れた状態を意味します。発汗を促す交感神経のはたらきが過敏になることによって寝汗が引き起こされます。主な原因は精神的なストレスや疲れ、睡眠不足などが多いですが、閉経前後にホルモン量の減少が原因で一時的に発症するケースもあります。

寝汗のほか、突然の顔のほてりや動悸、めまいなどを生じることもあり、抑うつ気分を伴うことも多いとされています。

自律神経失調症
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寝汗は暑い日や厚着をし過ぎたときなどにも起こりうる症状であり、体質によっては少し暑くなると汗をかく人もいるため、軽く考えられがちな症状でもあります。しかし、上でも述べたように寝汗は思わぬ病気によって引き起こされている場合もあります。なかには早急に治療をしなければ命に関わる可能性がある病気もありますので、寝汗が続くような場合は、受診するようにしましょう。

特に、突然寝汗をかくようになった場合、ほかに体重減少など何らかの症状がある場合、気分の落ち込みやイライラなどが生じやすい場合などは早めの受診がすすめられます。

受診に適した診療科は寝汗の原因によって異なりますので、自身で原因がはっきり分からないときはかかりつけの内科などで相談するのも一つの方法です。かかりつけ医から、専門の診療科への紹介が行われることもあります。なお、専門の診療科は、感染症が原因の場合は内科や小児科(小児の場合)、悪性腫瘍が疑われる場合は血液内科など、自律神経の異常が疑われる場合は心療内科や精神科などが考えられます。

受診する際には、寝汗が出始めた時期、寝汗以外の症状の有無、過去の病気や服薬中の薬の有無などを詳しく医師に伝えるようにしましょう。

原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。