足の爪が黒い:医師が考える原因と受診の目安|症状辞典

足の爪が黒い

聖マリアンナ医科大学 皮膚科 教授

門野 岳史 先生【監修】

爪は、たんぱく質の一種であるケラチンが主成分であり、爪本体はやや白色の透き通った色味をしています。通常、爪は真下の爪床(そうしょう)と呼ばれる組織の色が透け、健康な状態では薄紅色となります。一方で、爪の色は健康状態を示すバロメーターとも考えられており、さまざまな原因によって色調の変化が見られます。

  • 転倒によって足の指を強く打ち、爪が黒くなった
  • 足の爪に縦の黒い線が現れた
  • 足の爪の一部が黒くなり、徐々に範囲が広がってきた

このように、足の爪が黒くなる症状が見られた場合、原因としてどのようなものが考えられるでしょうか。

足の爪の黒い変色は、日常生活上の習慣が原因で引き起こされることがあります。主な原因とそれぞれの対処法は以下の通りです。

先端が尖っている靴やヒールの高い靴、サイズの合っていない靴などは足先に過度な負担をかけ、爪甲帯状色素沈着()血腫(けっしゅ)の形成を引き起こして黒い変色の原因となることがあります。

足の爪に負担をかけない靴を選ぶには

足の爪に過剰な負荷をかけない靴を選ぶポイントは、足の幅や甲の高さが合っていることに加えて、極端に高いヒールを避けることです。とくに、長時間靴を履くことが予想される場合や、長距離を歩く場合は足先がゆったりしてヒールのない靴を選ぶようにしましょう。

サンダルなど足の爪が露出する靴を履く機会が多い夏場などは、爪が紫外線にさらされる機会が多くなり、爪母(そうぼ)(爪がつくられる部分)のメラノサイトが活性化されることがあります。その結果、黒い色素沈着の原因物質であるメラニンが過剰に生成され、爪に黒っぽい色素沈着を引き起こすことがあります。

足の爪を紫外線から守るには

長時間の外出時などは、なるべくサンダルなど爪が露出しやすい靴は避け、紫外線をシャットダウンするように心がけましょう。また、短時間の外出であっても、日焼け止めを爪に使用するのも有用です。

日常生活上の対策を講じても、足の爪の黒い変色が改善しない場合は、何らかの病気が潜んでいる可能性が考えられます。中には、悪性黒色腫などのように早急に治療を開始しなければならない病気のこともあるので、軽く考えずになるべく早く、それぞれの症状に合わせた診療科を受診するようにしましょう。

足の爪には歩行や立位などの動作によって日常的に多くの負荷がかかるため、ダメージを受けやすく、さまざまなトラブルが起きる可能性があります。中には、以下のような病気が原因で、爪の黒い変色が見られることもあります。

足の爪の黒い変色は、足の爪やその周辺部位に生じる病気が原因となることがあります。原因となる主な病気には以下のようなものが挙げられます。

爪下血腫(そうかけっしゅ)

転倒や打撲などによって足の爪を強くぶつけた際に、爪床に血腫が形成される病気です。時間の経過とともに黒く変色し、痛みを伴うのが特徴です。血腫が小さな場合は、自然に消失しますが、血腫が大きい場合は爪が爪床()から物理的に押し上げられて爪の変形や剥離(はくり)を引き起こすことも少なくありません。

爪甲帯状色素沈着(そうこうたいじょうしきそちんちゃく)

爪の根元から先端にかけて、褐色から黒い線状の色素沈着が生じる病気です。原因はさまざまで、爪への慢性的な刺激、爪白癬(つめはくせん)・爪カンジダなどの感染症、乾癬(かんせん)などの皮膚()疾患、薬の副作用などが挙げられ、小児や高齢者に多く見られます。

色素沈着は爪の一部にのみ生じ、痛みなどの症状は伴いません。また、色素沈着は通常急激に広がったり、色が濃くなったりすることはなく、このような変化が見られた場合はがんである可能性を考慮する必要があります。

悪性黒色腫

非常に悪性度の高い皮膚がんの一種で、爪床や爪周囲の皮膚に発症すると足の爪が黒く変色することがあります。黒い変色部位は徐々に大きくなり、まだらな色調になるのが特徴です。また、進行すると爪が変形し、割れたり()がれたりすることも少なくありません。また、肺や肝臓、脳などに転移しやすいとされています。

悪性黒色腫
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足の爪やその周辺部位の病気以外にも、全身のそのほかの部位に生じる病気によって爪が黒く見えることがあります。主な病気には以下のようなものが挙げられます。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症、心不全など

血液中の酸素が不足することで、唇や指先などが紫色に変化する「チアノーゼ」によって、足の爪の色が黒っぽい紫色に変色することがあります。チアノーゼは正常な呼吸が行えなくなる肺や心臓の病気によって発症することが多く、身体の一部分の変色の他に、息切れや呼吸苦などの症状が見られ、急速に病状が進行した場合は意識障害を引き起こすことも少なくありません。

慢性閉塞性肺疾患
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心不全
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強皮症(きょうひしょう)混合性結合組織病(こんごうせいけつごうそしきびょう)など

自己免疫の異常によって生じる膠原病(こうげんびょう)の中には、寒冷刺激を受けると指先が白くなる「レイノー現象」が見られるものがあります。その中でも特に、強皮症混合性結合組織病は爪上皮の赤褐色~赤黒色点状出血である「爪上皮出血点」が多くに見られ、足の爪の黒い変色の原因であることがあります。足の爪に痛みなどの症状は伴いませんが、それぞれの膠原病による筋肉痛皮膚()の硬化などの症状が現れます。

強皮症
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混合性結合組織病
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足の爪はさまざまなダメージを受けやすい部位であり、爪が黒く変色した場合でも思い当たる外傷がある場合は、病院を受診しないで様子を見る人も多いでしょう。また、思い当たる外傷がない場合でも変色部位は限られた範囲であり、症状がない場合は病院を受診しない人がほとんどです。しかし、足の爪の黒い変色は、思いもよらない病気が原因のこともありますので注意が必要です。

特に、変色部位が急激に広がる、変色部位の色調がまだらである、変色が爪だけでなく周辺の皮膚()にまで広がっている、爪の変形や脱落がある、強い痛みや出血を伴う、などの場合はなるべく早めに病院を受診しましょう。

受診に適した診療科は皮膚科や整形外科ですが、思い当たる外傷がない場合は皮膚科、外傷がきっかけの場合は整形外科を受診するのがよいでしょう。また、足の爪以外にも全身に何らかの症状がある場合は内科などで相談するのもひとつの方法です。

受診の際には、いつから足の爪が黒くなったのか、きっかけとなる外傷の有無、変色部分の変化、ほかの随伴症状などを詳しく医師に説明するようにしましょう。

受診の目安

診療時間内に受診

翌日〜近日中の受診を検討しましょう。

  • 黒い部分が広がったり、色が濃くなったりしている
  • 爪の周囲の皮膚にも黒い部分がある

場合によって受診を検討

気になる・困っている場合には受診を検討しましょう。

  • 数年以上変わらないが、見た目が気になる
原因の自己判断/自己診断は控え、早期の受診を検討しましょう。