骨粗しょう症は、エストロゲン欠乏や加齢、生活習慣などさまざまな原因で骨がもろくなり、骨折する病気としてよく知られています。骨の丈夫さを表す指標として「骨密度」がよく取り上げられていますが、骨の強度が低下する要因はこれまで考えられていたよりも複雑であることがわかってきました。骨粗しょう症の原因と骨強度低下のメカニズムについて、山王メディカルセンター・女性医療センター長の太田博明先生にお話をうかがいました。
骨の強度の低下する主な要因は、女性ホルモンの低下(エストロゲン欠乏)・加齢・生活習慣病の3つです。生活習慣病と診断されるところまで悪くなくても、生活習慣の乱れなどにより酸化ストレスが強くなると、骨基質(こつきしつ)の変化が起きます。骨粗しょう症という病気の難しさは、複合的な要因が関わっているという点にあります。
骨質はいわば鉄筋コンクリートのコンクリート部分に相当する骨塩(こつえん)と、鉄筋の部分に相当する骨基質の2つの要素から成り立っています。
骨密度測定というのは、骨塩と骨基質のうち、骨塩の部分しか計ることができません。骨密度で計ることのできない骨基質は、骨の質(骨質)を表しています。骨質には構造特性と材質特性の2つの要素がありますが、この骨質を適切に示すことができる骨質マーカーとなるものが、まだありません。このため、骨密度だけを計って骨強度の尺度としていますが、骨強度の2つの要因のうち、70%は骨密度で説明でき、残りの30%は骨質によって説明できるといわれています。
骨強度(100%)=骨密度(70%)+骨質(30%)
骨の新陳代謝は、約2週間で破骨(はこつ)細胞により骨吸収が起こり、そこに骨芽(こつが)細胞が集まって骨を作るのですが、それには4ヶ月ほどかかります。すなわち、ひとつの骨ができるにはトータルで約5ヶ月が必要となります。そして若い方の場合は約2年ですべての骨が入れ替わり、お年寄りでは約5年で入れ替わります。したがって、お年寄りの場合でも5年も経てば古い骨は残っていないということになります。
エストロゲン(女性ホルモン)が欠乏すると骨吸収が亢進(通常よりも高くなること)して、それを補う骨形成が追いつかなくなります。加齢(エイジング)はこのエストロゲン欠乏と酸化ストレスの両方にかかわる要因であり、その結果、石灰化障害など骨強度の低下につながるさまざまな問題が引き起こされます。
骨粗しょう症の発症には遺伝的な要因が関わっていることが分かっています。家族に太もものつけ根(大腿骨近位部)を骨折したことのある方がいる場合、骨粗しょう症になる危険性が高いとして、薬物治療開始基準のひとつに加えられています。最近ではバイオマーカー、遺伝子マーカーなどによって発症前に治療に介入する先制医療が注目を集めています。予防医学が集団を対象としているのに対して、先制医療は個々に対するアプローチ―すなわち、遺伝的素因と環境因子の相互作用に基づいた個別医療を意味しています。
骨粗しょう症は加齢とともに増える病気ですが、症状がなかなか表に出ないまま長期に潜伏し、ある時点から一気に骨折頻度が高くなるというところがあります。これは糖尿病などの生活習慣病、がん、慢性腎臓病などにも共通する部分であり、骨粗しょう症もまた先制医療による早期治療介入が期待される疾患領域に入ってくるのではないかと考えます。
しかしながら、いまだ骨質を説明できる有効なバイオマーカーがないという点と、遺伝子マーカーについても複合的な要因であるために単一の遺伝子で説明しきれないという点が課題となっています。破骨細胞や骨芽細胞、そして近年、骨代謝の司令塔役として注目されている骨細胞、これらに関わる特異的な遺伝子マーカーの発見が期待されるところです。
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