ここまでの記事で、腰椎すべり症は腰椎分離すべり症と腰椎変性すべり症に大別できることを解説しました。いずれも、年齢とともに病状が進行していく可能性がある疾患です。年齢とともに進行する脊椎の重要な疾患として、骨粗しょう症があります。本記事では、武蔵野赤十字病院整形外科部長の山崎隆志先生に、骨粗しょう症脊椎への対策について解説していただきます。
骨粗しょう症は、骨の強度の低下によって、骨がもろくなり、骨折の危険性が高まる疾患です。高齢化社会にともなって、日本での骨粗しょう症の患者数は年々増加し、50歳以上の方では、女性の24%、男性の4%がこの病気に罹患しているとされています。
骨粗しょう症が問題であるのは、骨折を起こしやすくなるからです。また、高齢の方は骨折を機に寝たきりとなるケースが多くあります。実際、寝たきりの状態になってしまう方のうち、骨粗しょう症性骨折によって寝たきりになってしまう頻度は脳血管障害・衰弱に次いで多いと言われています。
骨粗しょう症は、女性の方は閉経に伴うホルモンの女性ホルモンの分泌の変化なども大きく関与しているとされています。しかしながら、糖尿病、高血圧症、高脂血症、ステロイド剤の服用、喫煙、飲酒なども増悪の原因となることはあまり知られていません。生活習慣病のケアはもちろん、女性の方は定期的な検査を受け、骨粗しょう症と診断されたら定期的かつ長期的な治療を欠かさないことが重要です。
骨粗しょう症を抱える患者さんのうち、70歳までの患者さんでもっとも心配されるのは、転倒による脊椎の骨折だとされています。言うまでもなく、脊椎は重要な神経組織を保護している組織です。脊椎を骨折したとき、骨片が脊柱管(脊髄神経の通り道)に突出することがありますが、その場合、神経の圧迫によって下肢のしびれや痛み・筋力低下・排尿障害などの症状が現れることがあります。これは受傷直後より、遅発的に発生することが多いので注意が必要です。脊椎は一か所骨折を起こすと他の椎体の骨折も起こしやすくなります。そのため、最初の骨折を防ぐことが非常に重要となります。
また、骨粗しょう症が進行すると椎体自体の強度が下がってしまいます。そのため、脊椎の椎体自体が体重を支えきれずに圧迫骨折を起こして身長が低くなったり、徐々に背中が曲がって姿勢が前のめりになる状態がみられます。
医師の診察で骨粗しょう症であることが診断された場合は、以下の薬を投与して、骨折を起こしにくくする治療が行われるのが一般的です。
骨粗しょう症が発見される経緯として、骨折によって医療機関を受診し、骨粗しょう症が発覚することが珍しくありません。骨折を起こしてしまった場合は、まずはきちんと骨折の治療をすべきですが、その後は、骨粗しょう症が進行しないように治療を継続することが極めて重要です。痛みなどの症状が治まっても自己判断で服薬を中止せず、医師に相談の上で長期的に治療を継続することが極めて重要といえます。
また、ふだんから身体の状態を観察する習慣を身につけることも大事です。身長が低くなったり背中が曲がるなどの症状が見られるようになることは、起立や歩行時の腰背部痛の原因となります。体重を支える筋力の低下や関節の拘縮(関節が固くなって動きが悪くなること)を引き起こすため、結果として転倒を引き起こしやすくなります。症状に気づいたら、可能な限り早く整形外科医の診察を受けて治療を開始することが重要です。
骨粗しょう症は、骨自体がもろくなる疾患です。したがって、先述した除圧や固定の手術も慎重にならざるをえません。脊椎を固定する場合金属製のスクリューなどで椎体を固定しますが、骨粗しょう症の方は椎体自体がもろくなっていますので、スクリューの数を増やして固定した箇所に力学的な負担がかかりすぎないようにしなければなりません。
また、偽関節(骨折した骨が癒合せず、不完全状態のままとなってしまったもので、骨折後に引き起こされる後遺症の1つ)になった場合は、医療用のセメントを埋めて固定するなどの手術が必要になることもあります。
皮膚から針を挿入し、風船(Balloon)を骨折した骨の中で膨らせた後、セメントを充填します。このことで曲がった背骨を矯正する手術が椎体形成術(BKP)です。
ただし、BKP手術はすべての圧迫骨折に対して施行できるわけではありません。急性期の圧迫骨折や、椎体が大きくつぶれて扁平な形状になってしまっている場合、また神経を圧迫している場合には治療ができません。
また、手術直後より痛みは改善することが多いのですが、後日固定術が必要になる場合もあります。また、骨粗しょう症自体を治す治療法ではありません。したがって、手術後も内服薬などによる骨粗しょう症の治療を継続する必要があります。
また、整形外科の医師ならば誰でも手術を行えるわけではありません。BKP手術には認定資格が必要です。認定病院での手術実習を受講し、試験に合格した医師のみが施行できることとなっています。
骨粗鬆症による骨折により、麻痺や下肢痛などの神経の障害が出現した場合はBKPではなく、固定術がよいとされています。しかし、固定術は骨が弱いため多くのスクリューやワイヤーを用いることが必要で手術侵襲が大きくなります。
藤枝駅前クリニック 院長
藤枝駅前クリニック 院長
日本脊椎脊髄病学会 脊椎脊髄外科指導医日本整形外科学会 認定脊椎脊髄病医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
東京大学医学部を卒業後、東京大学医学部付属病院分院、三楽病院、国立西埼玉病院にて診療に携わる。1995年より武蔵野赤十字病院入職。2002年より同院 整形外科部長、2012年より副院長就任。脊椎疾患で悩む患者の診療に携わり、脊椎手術は3000例を越える。(2015年時点)また、海外の紛争地および被災地での診療経験も多数。多くの国民の健康上の課題の一つとなった骨粗しょう症脊椎対策のエキスパートとして、医師の間からも評価を集めている。
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